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はじまりのえんぴつ〜えんぴつを落としたら話したかったあの子に話しかけられました〜
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このまま、ずっと話すことはないんだろうなって思ってた。
私、甘風(あまかぜ)ふうみはただ好きだなとは思いながら、話すことを夢に見ていた。
「これ……甘風さんのでしょう?」
まさに、この時までは。
「……違うの?」
「あ、いや……違わないです」
何で敬語。そう疑問を持った目で見られたって仕方がないんだ。
同じクラスの衣玖(いく)まや。彼女はいわゆる私のアイドル的な存在で。私は勝手に衣玖ちゃんと呼んでは遠くから見ていた。
小さな背丈にめげない心、誰よりも努力家だと私は思ってる。あと可愛い。そりゃもう絵本の世界から出てきたヒロインのようだ。
「あり、がとう……」
いつも遠巻きに見ていた子に急に話しかけられたのだから、私のこの態度はむしろ頑張ったほうだろう。ノドが緊張でカラカラになってしまった。
「名前、消えかけてるから直したほうがいいかも」
緊張した手で受け取ったのは一本のえんぴつ。そういや無いなぁとは思ってたけど落ちてたんだ。どこにだろう、いやどこでもいいけど。
ていうか声可愛いっ。こんな間近で聞いたことなかったからすごいドキドキする。
「ありがとう、衣玖ちゃ……さん」
「うん、じゃあね甘風さん」
さっきの態度、良くなかったかも。
というかもっと話せばよかった。お礼とか言ってどっかに誘ってもよかったのに。
ぐるぐるする。顔が熱くて上手く言葉が浮かばない。
「どうしたの?熱でもあるの」
「いや、ないよ。大丈夫」
「保健室いく?」
「いや、ほんと……大丈夫」
その優しさが嬉しくもあるけど今はとりあえず離れてほしいなんて思ってしまう。
体を斜めに傾け、少しでも距離を取ろうとする私を見て衣玖ちゃんはため息をついた。
「甘風さん、ほんとに私のこと嫌いだよね」と。
ん??嫌いって?誰が誰を嫌いと言うのか。
「大好きですけど」
「えっ」
「あっ……」
しまったと口を塞いでももう遅い。言い訳を考える私にまだ納得できないらしい衣玖ちゃんはまたさらに迫ってきた。
「だって甘風さん私のこと避けるじゃん」
それは遠くから眺めてるからで。
「私が困ってたら誰かを呼んだり台を置いたりして行ってくれるけど直接は来てくれないし」
それも……遠くから眺めてるからで。というか私がやってるってバレてたのか。
「今だって、私の目も見てくれない」
あの憧れの衣玖ちゃんが間近に来ていてそんな余裕あるわけないでしょ。
と、言いたいことは山ほどあるけどもちろん口には出せないわけで。
「ご、ごめん」
それしか返せなかった。
「別に怒ってないけど、いつも悲しかった」
「すみません」
「だから怒ってない!」
いや怒ってるじゃん。
怒ってるとこも可愛いなんて言ったら怒られちゃうかなぁ。こんな状況で思うのもアレだけど、やっぱり好きだ。可愛くて、芯の強い女の子。衣玖ちゃんは私の憧れなんだ。
「私なんかに、落としものを届けてくれてありがとう」
少しの間でも、衣玖ちゃんと話せて幸せに思えた。このえんぴつには感謝しよう。
「……別に、拾ったの私じゃないもん」
「え?」
「甘風さんと話せるきっかけが欲しかっただけ……だから、届けようとした子から預かったの。私が届けるからって」
「そう、なんだ?」
なんで衣玖ちゃんがそんなことを?
私に嫌われてると思ったから?
「甘風さん、私のこと避けるから……なんでか知りたくて、でも、話すきっかけもなくて」
「ちょ、衣玖ちゃ……衣玖さん、泣かないで。私が悪かったから……ごめんね、嫌だったよね?」
驚いた。私が憧れゆえにしてきた行動が衣玖ちゃんにこんなに意識されて、衣玖ちゃんを悲しませてしまうなんて情けない。
ごめんね、またそう言って衣玖ちゃんの目を見た。
綺麗に澄んだ瑠璃色に、吸い込まれてしまいそうだ。
「私、衣玖さんに憧れていたんだよ。可愛くて一生懸命で、芯の強い女の子。そんな衣玖さんに会えたとき、ずっと見ていたいなんて思っちゃって」
天使だなんだと崇拝しているうちに、同じ空気を吸うのすら尊くなって。気付けば遠くから眺めてるだけで精一杯になっていた。
私の話に若干よく分からないと言うような顔をしながらも、衣玖ちゃんはしっかりと私の目を見て聞いてくれる。
「私が衣玖さんを嫌いなんてありえないんだ。むしろ、大好きだよ」
今まで傷つけちゃってたなんて知らなかった。気にしてくれてたなんて夢にも思っていなかった。私と話すためだけに、ここまで来てくれたなんて。
「ありがとう、ごめんね。好きだよ、衣玖ちゃん」
そう言い切れば、さっきまで私を見ていた衣玖ちゃんは下を向いていて。
「衣玖ちゃん?」
「…………いで」
「え?ごめん顔がよく見えな__」
「見ないで!」
叫び声とともに、目に映る衣玖ちゃんの顔。
考えるよりも先に「可愛い……」と声が出ていた。
「もー!うるさい!」
「どうしよ、また好きになっちゃった」
「ならなくていいよ!」
それは無理な話なわけで。
こんな可愛い衣玖ちゃんを見ながら好きにならないなんて無理がある。
「可愛いね、衣玖さん」
「ちゃんでいい」
「え?でも」
「今さらさん付けされたって違和感しかないから。衣玖ちゃんでいい」
「あり、がとう」
顔を真っ赤に染めた衣玖ちゃん。久々に見た新しい表情。好きな気持ちは止まらなくて、今でも心臓は痛いくらいに動いてる。
幸せな甘い痛みだ。
「好きだよ衣玖ちゃん」
「~~~~!!」
「衣玖ちゃん?」
「それは、その……どういう」
どういう?
どういう好きってことが聞きたいんだろうか。
「もちろん、アイドルみたいな"好き"だよ!」
たからかに言い切った。衣玖ちゃんは私の素敵な"推し"とも言える存在。クラスメイトだなんて関係なく、同じ空気を吸うのは申し訳ないと感じているくらいにファンだ。本当のことを言うと衣玖ちゃんはらただでさえ赤かった顔をまたさらに真っ赤にして。
「勘違いしちゃったでしょ!」
なんて叫んで教室を飛び出してしまった。
なんだったんだろう。
「勘違い‥‥?」
一体なにを勘違いするっていうの。
考えてみて、もしあの赤い顔に、感じるものがあるとすれば。
「…………え?」
‥‥期待しちゃっていいんでしょうか。
聞いても返ってくるはずはないから、今日は大人しく帰ってしまおう。なんだか今日は特に熱い。
それから衣玖ちゃんと会話できるまで3日もかかってしまったのは、また別の話。
私、甘風(あまかぜ)ふうみはただ好きだなとは思いながら、話すことを夢に見ていた。
「これ……甘風さんのでしょう?」
まさに、この時までは。
「……違うの?」
「あ、いや……違わないです」
何で敬語。そう疑問を持った目で見られたって仕方がないんだ。
同じクラスの衣玖(いく)まや。彼女はいわゆる私のアイドル的な存在で。私は勝手に衣玖ちゃんと呼んでは遠くから見ていた。
小さな背丈にめげない心、誰よりも努力家だと私は思ってる。あと可愛い。そりゃもう絵本の世界から出てきたヒロインのようだ。
「あり、がとう……」
いつも遠巻きに見ていた子に急に話しかけられたのだから、私のこの態度はむしろ頑張ったほうだろう。ノドが緊張でカラカラになってしまった。
「名前、消えかけてるから直したほうがいいかも」
緊張した手で受け取ったのは一本のえんぴつ。そういや無いなぁとは思ってたけど落ちてたんだ。どこにだろう、いやどこでもいいけど。
ていうか声可愛いっ。こんな間近で聞いたことなかったからすごいドキドキする。
「ありがとう、衣玖ちゃ……さん」
「うん、じゃあね甘風さん」
さっきの態度、良くなかったかも。
というかもっと話せばよかった。お礼とか言ってどっかに誘ってもよかったのに。
ぐるぐるする。顔が熱くて上手く言葉が浮かばない。
「どうしたの?熱でもあるの」
「いや、ないよ。大丈夫」
「保健室いく?」
「いや、ほんと……大丈夫」
その優しさが嬉しくもあるけど今はとりあえず離れてほしいなんて思ってしまう。
体を斜めに傾け、少しでも距離を取ろうとする私を見て衣玖ちゃんはため息をついた。
「甘風さん、ほんとに私のこと嫌いだよね」と。
ん??嫌いって?誰が誰を嫌いと言うのか。
「大好きですけど」
「えっ」
「あっ……」
しまったと口を塞いでももう遅い。言い訳を考える私にまだ納得できないらしい衣玖ちゃんはまたさらに迫ってきた。
「だって甘風さん私のこと避けるじゃん」
それは遠くから眺めてるからで。
「私が困ってたら誰かを呼んだり台を置いたりして行ってくれるけど直接は来てくれないし」
それも……遠くから眺めてるからで。というか私がやってるってバレてたのか。
「今だって、私の目も見てくれない」
あの憧れの衣玖ちゃんが間近に来ていてそんな余裕あるわけないでしょ。
と、言いたいことは山ほどあるけどもちろん口には出せないわけで。
「ご、ごめん」
それしか返せなかった。
「別に怒ってないけど、いつも悲しかった」
「すみません」
「だから怒ってない!」
いや怒ってるじゃん。
怒ってるとこも可愛いなんて言ったら怒られちゃうかなぁ。こんな状況で思うのもアレだけど、やっぱり好きだ。可愛くて、芯の強い女の子。衣玖ちゃんは私の憧れなんだ。
「私なんかに、落としものを届けてくれてありがとう」
少しの間でも、衣玖ちゃんと話せて幸せに思えた。このえんぴつには感謝しよう。
「……別に、拾ったの私じゃないもん」
「え?」
「甘風さんと話せるきっかけが欲しかっただけ……だから、届けようとした子から預かったの。私が届けるからって」
「そう、なんだ?」
なんで衣玖ちゃんがそんなことを?
私に嫌われてると思ったから?
「甘風さん、私のこと避けるから……なんでか知りたくて、でも、話すきっかけもなくて」
「ちょ、衣玖ちゃ……衣玖さん、泣かないで。私が悪かったから……ごめんね、嫌だったよね?」
驚いた。私が憧れゆえにしてきた行動が衣玖ちゃんにこんなに意識されて、衣玖ちゃんを悲しませてしまうなんて情けない。
ごめんね、またそう言って衣玖ちゃんの目を見た。
綺麗に澄んだ瑠璃色に、吸い込まれてしまいそうだ。
「私、衣玖さんに憧れていたんだよ。可愛くて一生懸命で、芯の強い女の子。そんな衣玖さんに会えたとき、ずっと見ていたいなんて思っちゃって」
天使だなんだと崇拝しているうちに、同じ空気を吸うのすら尊くなって。気付けば遠くから眺めてるだけで精一杯になっていた。
私の話に若干よく分からないと言うような顔をしながらも、衣玖ちゃんはしっかりと私の目を見て聞いてくれる。
「私が衣玖さんを嫌いなんてありえないんだ。むしろ、大好きだよ」
今まで傷つけちゃってたなんて知らなかった。気にしてくれてたなんて夢にも思っていなかった。私と話すためだけに、ここまで来てくれたなんて。
「ありがとう、ごめんね。好きだよ、衣玖ちゃん」
そう言い切れば、さっきまで私を見ていた衣玖ちゃんは下を向いていて。
「衣玖ちゃん?」
「…………いで」
「え?ごめん顔がよく見えな__」
「見ないで!」
叫び声とともに、目に映る衣玖ちゃんの顔。
考えるよりも先に「可愛い……」と声が出ていた。
「もー!うるさい!」
「どうしよ、また好きになっちゃった」
「ならなくていいよ!」
それは無理な話なわけで。
こんな可愛い衣玖ちゃんを見ながら好きにならないなんて無理がある。
「可愛いね、衣玖さん」
「ちゃんでいい」
「え?でも」
「今さらさん付けされたって違和感しかないから。衣玖ちゃんでいい」
「あり、がとう」
顔を真っ赤に染めた衣玖ちゃん。久々に見た新しい表情。好きな気持ちは止まらなくて、今でも心臓は痛いくらいに動いてる。
幸せな甘い痛みだ。
「好きだよ衣玖ちゃん」
「~~~~!!」
「衣玖ちゃん?」
「それは、その……どういう」
どういう?
どういう好きってことが聞きたいんだろうか。
「もちろん、アイドルみたいな"好き"だよ!」
たからかに言い切った。衣玖ちゃんは私の素敵な"推し"とも言える存在。クラスメイトだなんて関係なく、同じ空気を吸うのは申し訳ないと感じているくらいにファンだ。本当のことを言うと衣玖ちゃんはらただでさえ赤かった顔をまたさらに真っ赤にして。
「勘違いしちゃったでしょ!」
なんて叫んで教室を飛び出してしまった。
なんだったんだろう。
「勘違い‥‥?」
一体なにを勘違いするっていうの。
考えてみて、もしあの赤い顔に、感じるものがあるとすれば。
「…………え?」
‥‥期待しちゃっていいんでしょうか。
聞いても返ってくるはずはないから、今日は大人しく帰ってしまおう。なんだか今日は特に熱い。
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