中二少女のちょっとだけ〜幼なじみが元気のない時に現れるので今日も私は泣けないようです〜

歩くの遅いひと(のきぎ)

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中二少女のちょっとだけ

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たとえばちょっとだけ、元気のない日があったとして。
それでちょっとだけ、川を流れる魚たちが羨ましくなったりして。

「いいな‥‥」

なんて、ちょっとだけ。ドラマの主人公みたいじゃない?かっこいいかな、ちょっとだけ。
私、清水原(しみずはら)きみこは静かに川を眺めていた。

「あ、きみちゃんみっけ」
「‥‥ゆう」

幼なじみの芦原(あしわら)ゆう。
おっとりしていてのんびり屋のゆうは、私の元気がない時に現れる。

「今日は山中さんたちのとこ行かなくてもいいの?」

ゆうとは違うクラスだけど、部活から仲良くなったらしい山中しぃなという女の子たちと放課後よく遊ぶらしい。私とゆうはいつでも遊べるんだし、気を遣わなくてもいいのに。

「ん~、だってきみちゃんが下向いて歩いてたら着いてきちゃいますよそりゃ」
「どういう理屈よ‥‥」
「私にはきみちゃんレーダーというものが」
「はいはい、いいから隣に来るなら早く来てよ」
「へへ、ご指名ありがとうございまーす」

何がご指名だ‥‥。ちょっと呆れてしまったけど、返す元気はなくて。静かに前へと向き直る。

「私はさぁ、みんな大好きなんだよ」
「うん」
「でね、きみちゃんは大大だーい好きなんだ」
「なによそれ」

めいっぱい手を広げながら「これくらい好き」と笑うゆうに、ちょっとだけ笑ってしまった。

「変なの」
「変かなぁ」
「ちょっとだけ、変!」
「えぇ~?」

ちょっとだけタイミングが悪かった。ちょっとだけ、言葉選びを間違えた。
ただそれだけでも、ちょっとでは済まなくなっちゃって。
言い合いになって、ムキになって、逃げてしまった。

「ほんとゆうは私が泣きたい時にくるなら泣けないじゃん」
「泣いてもいいよ?私の胸でね」
「はは、ばーか」
「むぅ、ほんとなのになぁ」
「今はいいよ、後でお願い」

昔からゆうの言葉と存在はおまじないのようで。ただ立ち止まって悩むだけの私の背中をそっと支えて、押してくれる。

「ちゃんと向き合って、謝ってくる」
「へへ、きみちゃんかっこいい」
「だから今日はたくさん遊んでよ」
「もちろん、おうちで待ってるよ」

ニコニコと笑う笑顔に、どれだけ救われてきたんだろう。ゆうに背を向けて学校へ向かいながら、またちょっと笑ってしまった。

「‥‥あ、」
「ん?」
「帰ったらたくさん‥‥抱きしめてよね」
「‥‥へへ、もちろん。たーくさん甘えていいよ」
「そ、それだけ!」

ドッドッてちょっとだけ、胸が高鳴る。謝りに行くのは怖いはずなのに、変なの。

「‥‥へへ」

ちゃんと謝って、仲直りして、また明日も笑って会えるように。そしてやりきったら、思い切りゆうに甘えよう。


その後、私もごめんねって返されながら、何笑ってるのと怒られたのは、ゆうには内緒にしておかなくちゃ。







「鈍感も怖いけど、無自覚も怖いなぁ‥‥」

振り返らずに走ってくれてよかった。真っ赤になっちゃった顔をマフラーで隠しながら、約束通り帰路につく。

「すごいお願い‥‥されちゃったなぁ」

いつも通りのんびりと、好きだよなんて言いながら抱きしめることができるんだろうか。きみちゃんのことだからきっと、私から来てと言うに違いない。

「きみちゃん‥‥ばーか」

遊ぶのが楽しみな気持ちとそんなドキドキを抱えながら、私はマフラーを何度も結び直した。





おわり
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