1 / 2
中二少女のちょっとだけ
しおりを挟むたとえばちょっとだけ、元気のない日があったとして。
それでちょっとだけ、川を流れる魚たちが羨ましくなったりして。
「いいな‥‥」
なんて、ちょっとだけ。ドラマの主人公みたいじゃない?かっこいいかな、ちょっとだけ。
私、清水原(しみずはら)きみこは静かに川を眺めていた。
「あ、きみちゃんみっけ」
「‥‥ゆう」
幼なじみの芦原(あしわら)ゆう。
おっとりしていてのんびり屋のゆうは、私の元気がない時に現れる。
「今日は山中さんたちのとこ行かなくてもいいの?」
ゆうとは違うクラスだけど、部活から仲良くなったらしい山中しぃなという女の子たちと放課後よく遊ぶらしい。私とゆうはいつでも遊べるんだし、気を遣わなくてもいいのに。
「ん~、だってきみちゃんが下向いて歩いてたら着いてきちゃいますよそりゃ」
「どういう理屈よ‥‥」
「私にはきみちゃんレーダーというものが」
「はいはい、いいから隣に来るなら早く来てよ」
「へへ、ご指名ありがとうございまーす」
何がご指名だ‥‥。ちょっと呆れてしまったけど、返す元気はなくて。静かに前へと向き直る。
「私はさぁ、みんな大好きなんだよ」
「うん」
「でね、きみちゃんは大大だーい好きなんだ」
「なによそれ」
めいっぱい手を広げながら「これくらい好き」と笑うゆうに、ちょっとだけ笑ってしまった。
「変なの」
「変かなぁ」
「ちょっとだけ、変!」
「えぇ~?」
ちょっとだけタイミングが悪かった。ちょっとだけ、言葉選びを間違えた。
ただそれだけでも、ちょっとでは済まなくなっちゃって。
言い合いになって、ムキになって、逃げてしまった。
「ほんとゆうは私が泣きたい時にくるなら泣けないじゃん」
「泣いてもいいよ?私の胸でね」
「はは、ばーか」
「むぅ、ほんとなのになぁ」
「今はいいよ、後でお願い」
昔からゆうの言葉と存在はおまじないのようで。ただ立ち止まって悩むだけの私の背中をそっと支えて、押してくれる。
「ちゃんと向き合って、謝ってくる」
「へへ、きみちゃんかっこいい」
「だから今日はたくさん遊んでよ」
「もちろん、おうちで待ってるよ」
ニコニコと笑う笑顔に、どれだけ救われてきたんだろう。ゆうに背を向けて学校へ向かいながら、またちょっと笑ってしまった。
「‥‥あ、」
「ん?」
「帰ったらたくさん‥‥抱きしめてよね」
「‥‥へへ、もちろん。たーくさん甘えていいよ」
「そ、それだけ!」
ドッドッてちょっとだけ、胸が高鳴る。謝りに行くのは怖いはずなのに、変なの。
「‥‥へへ」
ちゃんと謝って、仲直りして、また明日も笑って会えるように。そしてやりきったら、思い切りゆうに甘えよう。
その後、私もごめんねって返されながら、何笑ってるのと怒られたのは、ゆうには内緒にしておかなくちゃ。
「鈍感も怖いけど、無自覚も怖いなぁ‥‥」
振り返らずに走ってくれてよかった。真っ赤になっちゃった顔をマフラーで隠しながら、約束通り帰路につく。
「すごいお願い‥‥されちゃったなぁ」
いつも通りのんびりと、好きだよなんて言いながら抱きしめることができるんだろうか。きみちゃんのことだからきっと、私から来てと言うに違いない。
「きみちゃん‥‥ばーか」
遊ぶのが楽しみな気持ちとそんなドキドキを抱えながら、私はマフラーを何度も結び直した。
おわり
0
あなたにおすすめの小説
俺を振ったはずの腐れ縁幼馴染が、俺に告白してきました。
true177
恋愛
一年前、伊藤 健介(いとう けんすけ)は幼馴染の多田 悠奈(ただ ゆうな)に振られた。それも、心無い手紙を下駄箱に入れられて。
それ以来悠奈を避けるようになっていた健介だが、二年生に進級した春になって悠奈がいきなり告白を仕掛けてきた。
これはハニートラップか、一年前の出来事を忘れてしまっているのか……。ともかく、健介は断った。
日常が一変したのは、それからである。やたらと悠奈が絡んでくるようになったのだ。
彼女の狙いは、いったい何なのだろうか……。
※小説家になろう、ハーメルンにも同一作品を投稿しています。
※内部進行完結済みです。毎日連載です。
私に告白してきたはずの先輩が、私の友人とキスをしてました。黙って退散して食事をしていたら、ハイスペックなイケメン彼氏ができちゃったのですが。
石河 翠
恋愛
飲み会の最中に席を立った主人公。化粧室に向かった彼女は、自分に告白してきた先輩と自分の友人がキスをしている現場を目撃する。
自分への告白は、何だったのか。あまりの出来事に衝撃を受けた彼女は、そのまま行きつけの喫茶店に退散する。
そこでやけ食いをする予定が、美味しいものに満足してご機嫌に。ちょっとしてネタとして先ほどのできごとを話したところ、ずっと片想いをしていた相手に押し倒されて……。
好きなひとは高嶺の花だからと諦めつつそばにいたい主人公と、アピールし過ぎているせいで冗談だと思われている愛が重たいヒーローの恋物語。
この作品は、小説家になろう及びエブリスタでも投稿しております。
扉絵は、写真ACよりチョコラテさまの作品をお借りしております。
隣人の幼馴染にご飯を作るのは今日で終わり
鳥花風星
恋愛
高校二年生のひよりは、隣の家に住む幼馴染の高校三年生の蒼に片思いをしていた。蒼の両親が海外出張でいないため、ひよりは蒼のために毎日ご飯を作りに来ている。
でも、蒼とひよりにはもう一人、みさ姉という大学生の幼馴染がいた。蒼が好きなのはみさ姉だと思い、身を引くためにひよりはもうご飯を作りにこないと伝えるが……。
俺の可愛い幼馴染
SHIN
恋愛
俺に微笑みかける少女の後ろで、泣きそうな顔でこちらを見ているのは、可愛い可愛い幼馴染。
ある日二人だけの秘密の場所で彼女に告げられたのは……。
連載の気分転換に執筆しているので鈍いです。おおらかな気分で読んでくれると嬉しいです。
感想もご自由にどうぞ。
ただし、作者は木綿豆腐メンタルです。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる