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視線のさき
2話ー1[つららの視線]
しおりを挟む知識はあると思っていた。知らない世界こそ多いけれど、知らないことは少ないはずだった。
だけどこの胸の高鳴りは初めてで、まさしく、つららの知らないものだった。
「乗りなさい」
「嬉しいなぁ、でもありがとう!私は濡れるの嫌いじゃないんだ。ほら、青春って感じする」
「あなたの濡れ方は青春を通り越して雑巾ですよ」
「清水、失礼なこと言わないで」
雨の中、傘もささずに笑顔で走りながら雨へ感謝の気持ちを述べる。そんな彼女に目を奪われて引き返したはいいが。一向に彼女が助け舟に乗る様子はない。
招こうとする客人に対し真顔で失礼なことを言いだすメイドの口を塞ぎながら、どうしたら車に乗ってくれるか考えていた。
「あの、行ってもいいですか?予備の制服まで濡れちゃいそうなので」
「よく見なさい、予備どころかあなた全身ビショビショだからきっと教科書も無事じゃないわ」
「なぜそんなに濡れたがるんです?」
口を塞いでいたつららの手を抜け出した清水は、淡々とした口調で聞いた。
「だって、楽しいじゃないですか」
あなたの存在が楽しいです。そう言いそうになった口を慌てて閉じる。そのキラキラした言い方に、そうなのかと引き下がりたくもなってしまう。
「……たしかに、あなたは楽しそうね」
「それにきっと、これは雨の中でどれだけ順応に対応できるかの試練じゃないかと思いまして!」
「それは勝手にあなたが試練にしているだけよ」
話が進みそうにない。名前も知らない女の子は、どうしても濡れていきたいようだ。
「そう‥‥だったらたまたま車通学だった私に会えたのは、あなたが神様に愛されていたからなのね」
「え‥‥」
「だってそうじゃない?私はいつも通りこの道を走っていたわけだけど、あなたは初対面だもの。何か縁があったんだわ」
「お嬢さま、その方ですがたぶん__」
「そっか!!すごいです!そうですね!」
ずぶ濡れの少女は顔を上げ、笑顔でつららの手を握る。
「私、あなたに会えて幸せです!」
雨が降りしきる中で空の色が明るくて。まるで、彼女を照らしているようだった。
雨が降るだけで感謝ができて、ちょっと助けただけで幸せだとこんなに笑えるものなのか。
「えぇ、早く乗るといいわ。着替えもそろそろくるから」
「はい!ありがとうございます、女神さん!」
どうやら今日は、素敵な出会いをしたらしい。彼女の澄みきった綺麗な瞳を見ながら、つららは優しく微笑んだ。
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