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秋田君はイライラしている
しおりを挟む神奈川高校テニス部室の小窓からかわいい小鳥達が群れをなして集まっているのが見える。小鳥達の色は様々。東京、埼玉、千葉と首都圏各地から集まってきている。その数は年々増加。俺が三年生になって、卒業が差し迫っているせいか、更にその数は膨れ上がっている。
それは俺にもチャンスがあると喜ぶべきか、この群れの狙いは俺ではないという事実を受け止め憂うべきか。俺は大いに迷い、イライラしている。
俺のトレードマークである天然パーマには、ある特徴がある。それは、ストレスがたまればたまるほど、くるくる具合がきつくなるのだ。
高校入学当初。
たった今俺の横で着替えをしている男に出会うまでは、俺の頭は緩やかな波を打つ程度だった。だが、こいつと行動を共にするようになってから、あんなに穏やかだった波が、嵐のように渦を巻いている。これは、ひとえに「宮川亮」のせいだ。間違いない。
亮と同じ部活に所属したのがアフロよりも悲惨なパーマになる始まりだったように思う。
クラスの美少女達はいつも亮の横に張り付いている俺には目もくれない。時を経る毎にボリュームを増す頭が目に入らないのだろうか?
俺は、本来話好き。だから、女子の前で無言になる亮の代わりに話をしようとすると口を揃えて女子達は言うのだ。
「秋田は黙ってて」
「私は宮川くんと話してるの」
「あっちいってて」
「どうして、こんな扱い受けなきゃならないんだ? 納得いかない。
確かに俺よりは大分頭がいいし、ちょっとだけテニスはうまい。そして、無駄に顔が整っているのは認める。だが、それだけだ」
俺は声を大にしてそう主張しても、女子達はいう。
「それは負け犬の遠吠えっていうのよ」
酷い云われようだったが、心の広い俺はそこまでは許したさ。
だが、俺が狙っていた女子が宮川に告白している姿を、部活終わりに目の前で見せつけられるのは耐え難かった。
「ごめん」
俺の意中の彼女を容赦なく切り捨てる宮川に泣きはじめる彼女。そこに、優しく慰める俺に振り向いてくれたなら、この怒りも丸く収まったかもしれない。でも彼女は言ったのだ。ハッキリと。容赦なく。
「秋田は、ムリ!」
その一言でとうとう誰よりも丈夫だった俺の堪忍袋の緒がぶちっと盛大な音を立ててキレた。
こんな大勢の女子達の前で愛想を振り撒くことなく仏頂面している男のどこがいい? 好きな女に好きだといえない腑抜けた男のどこがいい?
だから、俺はハッキリといってやる。ずっといいたかったことを包み隠さず、今ここで。
「お前、いい加減にしろよ。水島といい加減付き合うなり何なりしろよ」
着替え終わった俺は力任せにロッカーを閉めると、また弾かれて半開きになっていた。
それがまた癪に障って、俺は宮川を睨み付ける。
「秋田にとやかく云われる筋合いはない。俺たちのことは放っておいてくれ。いつからお節介になったんだよ」
いつもならそのくらいじゃ、動じないはずの宮川は苛ついた声でそういった。その理由も俺はよく知っている。
「まさに、屋上で水島が告白受けるのが気に入らないからって、そうやって俺に当たるなんてガキめ。今も外にいるお前の追っかけファンの女の子たちに不甲斐ないお前の姿を見せてやりたいぜ。君たちがご執心の男はこんなに煮え切らないどうしようもない男なんだって」
「あぁ、そうして貰った方が俺は嬉しいね。日々の煩わしさから解放される」
宮川はイラっとしながらも平静を装おうとしているようだったが、その態度が気に入らない。
「そもそもお前がフリーだと思い込んで、みんな自分にもチャンスがある。お前の隣にって押しかけてきてんだろ? こんな事態を招いたのは、さっさと水島とくっつくないお前のせいだ。みんな被害者なんだよ。あの子達も、俺のこの髪も!」
ぐるぐるに巻かれた髪は、生まれてから一番悲惨な状態。天然パーマどころかパンチパーマ擬きになっている。亮は反論しようと口を開きかけるも、俺はそれを容赦なく叩き落とした。
「お前のせいでな、迷惑被ってるのは、俺だけじゃない。水島だって同じだよ。お前にご執心の小鳥達が攻撃するのは決まって、水島だ。
あぁ、わかってるよ。あさみに頼んで、水島への嫌がらせを阻止してるのくらいな。でも、そんなもんじゃもう守りきれねぇぞ」
女達の嫉妬は、陰険で湿っぽい。蛇のように、しつこく絡み付いてくる。そういうものらしいことをあさみが言っていた。俺は男でモテたことなんて一度もないからわからないがな。という言葉は、付け足さずに俺は続ける。
「そんな裏でこそこそしてないで「水島と俺は付き合ってるから手を出すな」くらい、いえねぇのかよ!」
「お前にはわからないだろうけどな……俺と唯は、そういう単純なもんじゃないんだよ」
宮川の反論してくる声はもっと感情的なものかと思ったら、酷く情けない声。俺は、怒りの熱を引っ込めて全身からため息を吐き、代わりに凍った視線を送りつけた。この期に及んでまだ、逃げ腰かよ。心底軽蔑しそうだ。
「そんなの、大した問題じゃないだろ。ただお前が小心者なだけだ。そんな幼馴染という聞こえのいい言葉に責任転嫁するなよ。俺がお前だったらな、迷わずとっくに答えを出してるよ。
誰だってな、怖いんだよ。ずっと変わらなかったものを変えるのは。長ければ長いほど、勇気がいるんだよ。変化を怖れるのは、誰だって同じだ。
でも。それを恐れていたら、なにも変わらないんじゃないのか? ずっとそれでいいのかよ。水島だって、どうすべきか悩んでるんだろうよ。その壁を壊してやるのは、切っ掛けを作ってやるのは、お前の役目なんじゃないのか?」
亮は、秋田に背を向けて「いちいち声がでかいんだよ」と言いながら、部室から出ていこうとする。その背中に最後の一撃を加えるために、部屋全体が揺れるほどの声量で叫んでいた。
「どうせ、水島が戻ってくるの待ってんだろ? チャンスはこれで最後だと思えよ」
「うるせぇよ」
宮川は捨て台詞を吐いて、部室のドアから消えていった。あれは、微妙だなと思う。行動を起こすか起こさないか五分五分。長年の付き合いで何となくわかった。
だけど、もう知らんぞ。口うるさく押し付けられた俺の責務は完了だ。
やることはやったんだから文句いわせねぇぞ、あさみ。矯正ストレートパーマ代頂くからな!
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