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タメ口昇格

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「えっ、梨央君エゴサしたの? 強いね」
「普段はしないんですけど」
「話題になってるから気になっちゃうよね」

 翌日、さっそく石野さんに昨日のことを聞いてみた。

「しゅうりお? 分からないな~。しゅうりおのりおは梨央君のことだと思うけど」
「そっか。BLの専門用語かと思ったけど、俺のことをファンの人であだ名とか付けてるのかもしれないですね」
「それ、カプ名ってやつじゃないですか?」
「田岡さん」

 二人で話していたら、いつの間にか田岡さんが横にいた。

「お疲れ様です!」
「お疲れ様です。カプ名ってなんですか?」

「カップリングの名前です。攻めと受けの名前を省略して、一つの単語にする感じですね。ファンの人たちが作るみたいですよ。まだ始まってないからドラマの役名じゃなくて本人の名前で付けたってとこかな」

「へ~、勉強になります」

 田岡さんにお礼を言うと、満足気に頷かれた。

「それにしても、ドラマ開始前から名前が付くなんてすっごい良い調子です。このまま上手く行くといいですね!」
「はい」
「ほら、三吉君もおいで! 是非、うちの三吉と交流して演技の役に立ててください!」

 そう言って三吉さんが無理矢理連れてこられた。ドラマの撮影も順調で、そろそろ二人の距離が縮まるところだ。終盤になると、恥ずかしいシーンも入る。もちろん全年齢のドラマだからあからさまな箇所は避けるけど、それでも受け身の俺は喘ぎ的な声を出さないといけないらしい。うん、無理だ。

「三吉さん、宜しくお願いします」
「……宜しくお願いします」

 あとは若いお二人にみたいなことを言われて石野さんと田岡さんが行ってしまい、三吉さんと二人きりになった。
 横を見るが、三吉さんと視線は合わない。

 三吉さんと話していてなんとなく感じたことだけど。もしかして俺……嫌われてない?

 いや、嫌われてるは言い過ぎかもしれないけど、避けられている気がする。単純にクールだと思っていた自分がアホだ。

 だって、交流してって言われて一言も話さない上視線も合わせないってよっぽどじゃないか。何かしたかなぁ、俺。
 いやいや、ちょっと避けられてる風でも、仕事はちゃんとしなくちゃ。

「三吉さん二十三歳って聞いたんですけど、今年二十三? それとも二十四ですか?」

 一瞬こっちを見てくれたが、また前を向かれてしまった。きっと現場の様子を確認しているんだ。そう思おう。

「今年二十四です。同じ年ですよ」
「そうなんですか! 偶然! じゃあ、もしよかったらタメ口でも平気ですか?」
「……分かった」

 う~~~ん。間があった上、声のトーンが下がったな。嫌われてるの確定かも。寂しい。
 まあ、でも、ドラマの撮影が終わるまでは表面上でも仲良くさせてもらおう。
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