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19.ここからまた始まる

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「……」

「……」

 沈黙が続くが、俺は言いたい事は全部言った。
 だから先輩の出方を伺っていたら、ポカンと間抜け面をした先輩がいつもの様に眉間にシワを寄せたから、ようやく立て直したようだ。

「付き合ってなかったら俺たちは何なんだ!?」

 立て直してさっそく怒鳴る先輩だが、その質問に名前をつけるとしたら、

「あの、せ……セフレかなって……」

 だと思うのだが、俺の答えに先輩は絶句した。

「セフ……っ、何でだよっ!?」

「だ、だって! 友達だからする事なんだって言ってたし……」

「ダチ同士でンな事するか!」

「アンタが言ったんでしょうがっ!!」

 俺は何で怒られているんだ。怒るのはこっちの方だろ。
 俺だって友達同士のスキンシップにしては濃すぎると思ったさ。
 でもあれは全部先輩の嘘だったのか。
 俺は考えて悩んでセフレって考えに辿り着いたってのに、それに、それに……

「そ、それにっ! 俺は……先輩から好きだなんて聞いてない……し」

 そうだよ、俺は先輩から好意を伝えられた事なんか一度もない。
 だから言ってやったら先輩は歯ぎしりしながらまた俺の肩口に顔を埋めた。

「ンなの……見りゃ分かんだろっ」

「分かりませんよ! 嘘つきの先輩の考える事なんか……」

 くぐもった声で分かれよと俺に言うが、俺がこの世界に生まれて何年ボッチだったと思ってるんだ。
 言葉にしてもらわないと分かるわけ無いだろ。

「~~っ、好きだ!!」

「ひえっ!?」

 言葉に、されてしまった。
 心のどこかで期待していた言葉をこうも突然言われると、どう対処して良いのか分からなくなって変な叫び声しか出なかった。
 そんな俺を置いて、更に先輩はまくし立てる。

「顔が好きだ! 一目惚れだ! めちゃくちゃ可愛いと思ってる!」

「はぇ!? あのっ、えぇ!?」

「腕の中に納まる小せえ体も好きだ! めちゃくちゃ押し倒したくなる!」

「え、えっ、待ってちょっと……!」

「俺の前だけコロコロ変わる表情も好きだ! 俺が笑わせてぇし泣かせてぇ! ちょっと高めの澄んだ声も好きだ! ずっと聞いていたい! 不良の俺に勉強を教えようとするお人好しすぎる性格も好きだ! 俺がわがまま言っても何だかんだ受け入れてくれる所も全部好きだ!」

「待って先輩! 分かったから! 分かりましたからっ!!」

「ちょろ過ぎる所もたまに不安になるが何だかんだ目が離せなくて好きだ!」

「ちょろ……!? な、なんだとぉ!」

「だから……!」

 バカにしてるのかって事まで混ざりながらまくし立てた先輩が、今までにないほど強い視線で俺を捕えたもんだから、俺は知らずに息を呑む。

「俺と! 付き合え…………鈍感野郎っ……」

 じっと見据えたまま発せられた声は、先程の威勢はどうしたのか、だんだんと小さくなっていった。いつもの自信に溢れた先輩の面影も無く、揺れる瞳が俺を見据える。
 もぉ、もぉなんだよホントに。
 今まで俺を騙してきたくせに。好き勝手してきたくせに。
 俺の気も知らないでそんな顔で俺を見ないでよ。
 捨てられた子犬が必死で追いかけて来たみたいな顔するなよ。
 なんだよもぉ。
 しょうがないから拾ってあげるよ。しょうがないから絆されてやるよ。
 なんか知らないけど涙が出てきたけど、なんか知らないけどさっきみたいに悲しい涙じゃないからほっといた。

「おれも……好き、です……」

 言った途端塞がれた唇は少ししょっぱくて、俺が良いって言うまでキスしないんじゃなかったのかよって思ったけど、自然と俺の腕は先輩の背中に回っていた。
 
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