好きが言えない宰相様は今日もあの子を睨んでる

キトー

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15.食事を断った相手とは

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「先日の安息日さ、ジャッジってば少し自由時間が欲しいって言ってきてね」

「そうなんですね」

「でもすぐに、やっぱり要らないって撤回してきたんだー」

「そうですか」

 ジャッジ様の話が始まったのは良いのだが、なんだかただの世間話のようで、なぜそれを僕に聞かせるのかが分からない。
 反応に困りながらも相槌を打っていたら、次にエドワード殿下がとんでもない発言をした。

「おそらくジャッジは誰かさんを食事に誘いたかったんだろうね。でも、どうやら振られたみたいだねー」

「え……っ、ジャッジ様がですか!?」

「そーそー。面白いよね」

 面白く……は、ないが。ただただ驚きだ。
 だから思わず殿下の顔をまじまじと凝視するなんて不敬を働いてしまった。
 だがエドワード殿下はまったく気にする様子もなく、言葉通り面白そうに笑うだけだ。
 ジャッジ様は、おそらくモテている。
 次期宰相と言われるほどの能力の高さ、家柄の良さ、それに冷たい印象を与える怖さはあるが、凛とした佇まいは見惚れるほどに美しいと食堂でご令嬢が話していた。
 一度彼に叱られてみたいと目をキラキラさせて話しているのを聞いた時は、ぜひ僕の立場と変わってさしあげたいと思ったほどだ。
 そんなジャッジ様が食事に誘って、断られた?
 多くのご令嬢の憧れの的であるジャッジ様を振るとは、そんな大胆不敵な事をやってのけた人物はどこの誰なのだろう。
 きっと、ジャッジ様をいとも簡単に躱してしまうほどの凄い人物に違いない。
 ぜひひと目見てみたいものだが、いや、だが、そもそも──

「あの……なぜ僕にそんな話を?」

 ──そもそも、こんな話を僕が聞いて良いのだろうか。
 そんな当たり前の疑問が浮かんだが、エドワード殿下はあっけらかんと言い放つ。

「そりゃあもちろん、キミが無関係ではないからさ」

「え……」

 毎度毎度、僕を驚かせてくるエドワード殿下だが、今回ももれなく驚かせてきた。
 ジャッジ様の色恋話と僕と、いったい何の関係があるのだ。
 それともジャッジ様が振られた原因が僕にあるとでも言うのだろうか。
 そう考えて、サー……と、血の気が引いた。
 知らぬ間に僕の監視が負担になって、ジャッジ様の恋慕を邪魔していたとしたら、それはもう処刑騒ぎなんじゃないのか。
 真っ青な顔で固唾をのみ話の続きを待つ。
 すると、エドワード殿下は絶望的な僕とは正反対の明るい声で突然話題を変えてきた。

「僕の婚約者のローズは知ってる?」

「え……あ、はい、もちろんです」

「僕たち今はとーっても仲良しで、自他ともに認めるほどのラブラブっぷりなんだけどね」

「は、はぁ……」

 エドワード殿下の婚約者の事はもちろん知っている。
 とても美しいご令嬢で、お優しくて、何もかも完璧なお方だと聞いていた。
 だが、なぜ急に惚気話が始まったのだろう。
 それとも、不安な話で僕を煽るだけ煽って放置するといういたずらだったんだろうか。
 わけもわからないまま話を聞いてきたら、エドワード殿下がふぅ、と珍しくため息を吐いて僕を見た。

「そんな僕らだけどね、一時期、ちょっとギスギスしてた頃があったんだ」

「え、そうなんですか?」

 エドワード殿下の言葉は僕にとってとても意外だった。
 僕が学園に来た時は二人はとても仲睦まじくて、二人の間に障害なんて何も無いように思えた。
 しかし、殿下はそうではないのだと話す。

「僕はずっとローズを愛してたよ。だけどなかなかローズが信じてくれなくてね。学園に来てからはさらに僕から離れようとするもんだから……まぁ、一波乱あったよね」

 殿下は何もかも順風満帆に人生を送ってそうな印象だったが、そんな彼でも上手くいかない時期があったのか。
 横でグラーナム様の素振りの音が聞こえる中で、僕はエドワード殿下の珍しい話に耳を傾ける。

「彼女があまりに頑なだから、ついつい僕もいじわるしちゃったんだ。それで彼女を傷つけて、よくジャッジに叱られたものさ」

「ジャッジ様から……?」

「そう! 問題はそこなんだよ!」

 僕の相槌に、急に目を輝かせたエドワード殿下。
 手をパンッと叩いて、ここからが本題だと言わんばかりに僕にずずいと顔を寄せてきた。

「今は彼女の誤解も解けてラブラブだよ? でもジャッジってばさぁ、あの頃は僕に『色恋沙汰に振り回されるなんて情けない』なんて言っててね。今のジャッジを見てるとさ、ほーんと、どの口がって感じだよね」

「はぁ……」

「『冷静になれ』とか『相手の気持ちを考えろ』とか毎日のように偉そうに説教してきてさ。確かにあの頃の僕はちょっと焦りもあって冷静では無かったと自分でも思うよ。ジャッジの言っていた事は正しいのさ。でもね、今のジャッジを見てると、キミにだけは言われたくない案件だなって思うわけだよ」

「……」

 腕を組んで不貞腐れたように話す殿下に、僕はもう相槌すら打てなかった。
 だってこんなの、僕ごときが何と返事をすれば良いんだ。
 
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