【完結】死ぬとレアアイテムを落とす『ドロップ奴隷』としてパーティーに帯同させられ都合よく何度も殺された俺は、『無痛スキル』を獲得し、覚醒する

Saida

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見返りとして得たもの

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目の前に、真っ白な空間が広がっていた。

「ああ、また殺されたのか」と、僕は無気力に思った。


僕が立っている位置よりも低いところに、川が流れている。

体がそちらに近づいて行く。近づけば段々と目線が低くなり、川が近くなる。

川の先には、また別の世界がある。

僕にはなぜか、はっきりとそれがわかる。

この川を渡って向こうの世界へ行けば、僕はやっと解放される、楽になる。

だから行こう。僕はそう思う。


しかしいつもと同じ、目の端に映ったものを見てしまう。

川の手前にあるもの。

木。嘘みたいに赤い実がたくさんなっている。

『近づくな。

そんな木は放っておいて川を渡れ!』

いくらそう念じても、体は勝手にその木へと向かう。

そしてその木になっている赤い実の一つに手を伸ばしてしまう。

こうなってしまうともうだめだ。


手に取った実は、どうしようもなく美味そうに見えて。

ちょっとだけ、匂いを嗅ぐだけだからと、僕は自分に言い訳しながら、その実を顔に近づける。

この世のものとは思えないほどの、甘い香り。

当然、匂いを嗅ぐだけで済むはずがない。

僕はその実を齧ろうとし……ふと顔に当たる視線に気がついて、顔を上げる。


川の向こうから、実を食べようとする僕を見ている奴がいる。

僕は川の向こうに立っているそいつの姿を、もう何度も見たことがある。

初めてそいつを見たのは、スキルが与えられた日の夢。
いわゆる、「神のお告げ」と呼ばれていた夢の中でだ。

そこで初めて、そいつのことを見た。

そして以来、僕は命を落とすたび、この真っ白な空間でその神の姿を目撃している。


体の形は間違いなく人なのに、顔や手や足や、部分的に幾つもの魔物が組み合わさっているような、異様な存在。

その神が、川の向こうからこちらを眺めている。

どういう気持ちで、僕を眺めているのか。

『その実を食べるな』か。それとも、『好きなだけ食べて、好きなだけ苦しむといい』だろうか。

いずれにせよ、僕の行動はシナリオに書かれているかのように決まっている。

僕は欲望に押し流される。

そして手の中にある実を、口の中に含んでしまう。


『ああ、またやってしまった』

気がつくと、手の中に赤い実は残っていない。

甘い汁で、手がベトベトになっている。

僕は無我夢中で、手に残ったその汁をなめる。

すると体が、小刻みに振動を始める。

そこでやっと、我に帰る。


顔を上げると、川の向こうの異形と目が合う。

『神なんだったら……助けてくれよ!』

僕は八つ当たりするように、異形に向かって助けを乞う。

しかしその心の叫びは、何の効果も持たない。


「ァァァァァァ!!!」

全身の血が、カッと燃えるように熱くなる。

そして全身の肉という肉が引きちぎられるような痛み。

真っ白な世界が、がらがらと崩れていく。


川。

そして異形の、スキル神。

喉から手が出るほど望む、川の向こうにある安息の世界。

しかしそれらの可能性は失われ、僕はどす黒い世界へと連れ戻される。





「お~、おかえりなさい。

今回も無事、蘇生しましたね~」

見慣れた蛇顔、左右に開いた口髭が、目の前にある。

この男が分厚いレンズの眼鏡をかけているのはダンジョンの中でだけだから、『ああここは、ダンジョンの中なのだな』と、そんなことから現在地を把握する。


希少なスキルを授かった僕を、『何としてでも自分の担当にしたい』と、他の役人を出し抜いて、わざわざ当日に迎えにきた張本人。

名前は、ザン・ダールアン。

パーティーでの役職は、専門の知識を武器にして仲間を補佐するオールマイティな役回り、『学者』。

彼の専門領域は、生物医術。

あらゆる生物の生態・肉体構造に精通し、それを意のままに操るもの。

僕を何度も殺すことを担当する男。そしてそれを、心から楽しんでいる極悪人。


「まだまだ残機に余裕があるみたいですから、回復の必要はありませんね~

それでは二死目、さっそく始めましょうか~」



ダンジョンの各階に居座る主を倒すと、高確率で現れる聖なる泉。

泉があれば、人を蘇生するほどの強力な術を幾度か使っても、魔力が足りなくなることなどない。

ダンジョンに潜り、新たな泉が現れるたび、僕はそのそばで学者の手にかかって、何度も殺される。

これが僕の日常だ。


あのときこの男ではなく、タスラ兄さんの言葉を信じていれば。

身を隠し、逃亡者として、兄さんの知人である骨董屋に助けを求めていれば。

こんな目に遭わずに済んだのかもしれない。


いや。

いまさら嘆いても、全ては遅い。

僕は自分の生を、そして死さえも、完全に失ってしまった。

そしてその見返りに得たのは。


「ァァァァ!!!」

「あはっ、あはは! あはははは!!!」

殺される時にもたらされる、想像を絶する痛みだけだった。
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