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二択
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「貴様ァァァァ!!」
離れた位置から、魔法使いが吠えた。
「おっと」
学者は背後から飛んできた火の玉を、さっと避ける。
怒りに目をぎらぎらさせた魔法使いが、こちらに手を構えている。その隣で神官も、目に憎悪の色を浮かべていた。
学者は動けずにいる僕の背後に回った。
「こういう魔法攻撃に対して、この羽衣は有効なんですよ~」
声だけで伝わってくる、ニタニタ笑い。
「何を隠れている! 出て来い、学者!!」
「さて」
魔法使いアルアの剥き出しの敵意にも、学者が動じている様子はない。
「お二人さん、それ以上近づくと、この戦士、本当に殺しますよ~!」
「もうすでに首を切っただろうが!」
神官メーテが叫ぶ。
「このくらいの傷、すぐに治療できます。
回復魔法が得意な神官さんなら、よくわかるでしょう?」
魔法使いが神官の方を見る。神官は悔しげに唇を噛んで黙っている。
「何が目的だ」
魔法使いが言う。
今度は息の吐く音だけで。背後にいる学者がニヤリと笑ったのが伝わってきた。
「今からこの奴隷をそちらに歩かせます。
私の側にいられても、邪魔なだけですからね。
あなた方は決してこちらを攻撃しないよう、手袋を外してください。
そして奴隷がそちらへ渡ったら、私がスキルで大人しくさせているうちに、手持ちの何かで拘束してください。
それができたら、私はこのパーティーを離れます。
あとはこの死にぞこない戦士を、煮るなり焼くなり好きにしちゃってください。
私のことは、くれぐれも追いかけてこないでくださいよ~」
「お前……このパーティーを抜けるつもりか」
魔法使いの声には、困惑の響きがあった。
「ええ、そうですけど?」
学者は不思議そうに気に返す。
「国王の命令に逆らうつもりなのか。そんなことして、どうなるかわかってるのか?」
学者は鼻をならす。
「この男の首を切った時点で、どうせ懲罰は免れないでしょう。
完璧に治癒した所で、この男やあなたたちが、帰還後の報告で黙ってくれるとは思えないですからね。
だったら大人しくパーティーを抜けます。
国に指名手配されるというのなら、それもまた一興ですよ~」
『何を考えてるんだ……?』
学者の言葉を聞いて、僕は混乱した。
『恨みが溜まっていたとして、この局面で戦士の首を切ることに何のメリットがあったというのだろう。
あげく、仲間を敵に回して、瀕死のゴダスと引き換えに自分は逃亡を余儀なくされて……
しかもゴダスをこの状態で渡すのなら、学者自身が言っている通り、この後、神官の力によって回復できる。
結局のところ戦士の命を奪うことはできないわけで、一体この男は、僕と戦士との戦闘にわざわざ割って入って何がしたかったんだ……?』
「分かった、こちらは武装解除する。
その奴隷をこちらに歩かせろ」と魔法使いが言った。
「話が早くて助かります~。
ではお願いします」
学者がそう言うなり、魔法使いは神官に小声で何か話しながら、手袋を外した。
神官は魔法使いに何か言い返している。学者のことが信用できないのかもしれない。
「今からあなたへは、あの二人のところへ行ってもらいます」
耳元で囁く声がした。どうやら口をほとんど動かさずに喋っているらしい。
「ちょうどよかったですね。あの二人のことも、殺すつもりでいたんでしょう?
体の自由がある程度利くよう、服従の呪いを軽くしてあげますから、あいつらに拘束される前に、思う存分やっちゃってください。
あっ、でも、妙な動きをしたらすぐにまた動けなくしますからね~。
こちらに逆らえるなどとは思わないでくださいよ~」
学者は小声ながら、興奮してべらべら喋っている。
僕はその話を聞き、納得した。
『そういうことか。
この男は最初から、あの二人も殺すつもりだったんだ。
そして何食わぬ顔でダンジョンから帰還し、「他のメンバーは魔物との戦闘で命を落としました」などと虚偽の報告をするつもりなのだろう。
僕を生きたまま連れ帰ったところで、奴隷が発言する機会なんて与えられない。
あの二人さえ殺してしまえば、学者の言い分だけが通ることになる。
国に追われる生活を送る気なんて、さらさらなかったんだ』
その時、向こう側もようやく話がまとまったらしく、二人揃ってこちらに視線を戻した。
神官が魔法具の手袋を外し、放り投げる。
魔法使いは言った。
「これでいいだろ。
その奴隷をこちらに歩かせろ」
「もう少し、武器から離れてください。
それと、腰の頭陀袋から拘束具になるものを一つ取り出して、それ以外は武器とともに放ってくださいよ~。
じゃないと、すぐに別の武器を取り出せるじゃないですか」
「ちっ」
神官が舌打ちする。
もしかすると、それを狙っていたのか。
「じゃあお前も、リーダーから離れろ!」
「わかりましたよ、これでいいですか?」
学者が僕の後ろから外れ、壁沿いに、横へ離れる。
それをみて魔法使いは、頭陀袋から縄を取り出した。
そして神官とともに、腰の頭陀袋を外し武器と同じ場所に放り投げ、そこから距離をあけた。
「これでいいか?」
「……まぁいいでしょう。
それじゃあ、奴隷をそちらに歩かせます。
完全にそちらへ行くまで、武器は取らないでくださいね~」
「わかってる!
早くしろ」
学者は僕の背中を押した。
「さ。頼みましたよ。
少しでも逆らう素振りを見せたら、すぐにまた動けなくしますからね」
体の縛りが緩くなるのを感じた。
僕は無抵抗の意志を示すために両手をあげる。
そして横にいる学者の顔を窺った。
学者の顔は、興奮に輝いている。
勝ちを確信した顔。どうやらこれは、演技ではなさそうだ。
『よほど自分のスキルに自信があるんだろうな。
あるいはここしばらくの鬱憤を晴らせる機会だから、気分が高揚して冷静さを欠いているのか……』
僕と目が合うと、学者が早くいけとばかりに、顎を動かした。
僕は魔法使いと神官がいる方に向かって歩き始める。
『思いつく選択肢は、二つ。
どうする。
どっちを選ぶ……?』
魔法使いアルアと神官メーテがいる方へ向かいながら、僕は必死で頭を回転させた。
離れた位置から、魔法使いが吠えた。
「おっと」
学者は背後から飛んできた火の玉を、さっと避ける。
怒りに目をぎらぎらさせた魔法使いが、こちらに手を構えている。その隣で神官も、目に憎悪の色を浮かべていた。
学者は動けずにいる僕の背後に回った。
「こういう魔法攻撃に対して、この羽衣は有効なんですよ~」
声だけで伝わってくる、ニタニタ笑い。
「何を隠れている! 出て来い、学者!!」
「さて」
魔法使いアルアの剥き出しの敵意にも、学者が動じている様子はない。
「お二人さん、それ以上近づくと、この戦士、本当に殺しますよ~!」
「もうすでに首を切っただろうが!」
神官メーテが叫ぶ。
「このくらいの傷、すぐに治療できます。
回復魔法が得意な神官さんなら、よくわかるでしょう?」
魔法使いが神官の方を見る。神官は悔しげに唇を噛んで黙っている。
「何が目的だ」
魔法使いが言う。
今度は息の吐く音だけで。背後にいる学者がニヤリと笑ったのが伝わってきた。
「今からこの奴隷をそちらに歩かせます。
私の側にいられても、邪魔なだけですからね。
あなた方は決してこちらを攻撃しないよう、手袋を外してください。
そして奴隷がそちらへ渡ったら、私がスキルで大人しくさせているうちに、手持ちの何かで拘束してください。
それができたら、私はこのパーティーを離れます。
あとはこの死にぞこない戦士を、煮るなり焼くなり好きにしちゃってください。
私のことは、くれぐれも追いかけてこないでくださいよ~」
「お前……このパーティーを抜けるつもりか」
魔法使いの声には、困惑の響きがあった。
「ええ、そうですけど?」
学者は不思議そうに気に返す。
「国王の命令に逆らうつもりなのか。そんなことして、どうなるかわかってるのか?」
学者は鼻をならす。
「この男の首を切った時点で、どうせ懲罰は免れないでしょう。
完璧に治癒した所で、この男やあなたたちが、帰還後の報告で黙ってくれるとは思えないですからね。
だったら大人しくパーティーを抜けます。
国に指名手配されるというのなら、それもまた一興ですよ~」
『何を考えてるんだ……?』
学者の言葉を聞いて、僕は混乱した。
『恨みが溜まっていたとして、この局面で戦士の首を切ることに何のメリットがあったというのだろう。
あげく、仲間を敵に回して、瀕死のゴダスと引き換えに自分は逃亡を余儀なくされて……
しかもゴダスをこの状態で渡すのなら、学者自身が言っている通り、この後、神官の力によって回復できる。
結局のところ戦士の命を奪うことはできないわけで、一体この男は、僕と戦士との戦闘にわざわざ割って入って何がしたかったんだ……?』
「分かった、こちらは武装解除する。
その奴隷をこちらに歩かせろ」と魔法使いが言った。
「話が早くて助かります~。
ではお願いします」
学者がそう言うなり、魔法使いは神官に小声で何か話しながら、手袋を外した。
神官は魔法使いに何か言い返している。学者のことが信用できないのかもしれない。
「今からあなたへは、あの二人のところへ行ってもらいます」
耳元で囁く声がした。どうやら口をほとんど動かさずに喋っているらしい。
「ちょうどよかったですね。あの二人のことも、殺すつもりでいたんでしょう?
体の自由がある程度利くよう、服従の呪いを軽くしてあげますから、あいつらに拘束される前に、思う存分やっちゃってください。
あっ、でも、妙な動きをしたらすぐにまた動けなくしますからね~。
こちらに逆らえるなどとは思わないでくださいよ~」
学者は小声ながら、興奮してべらべら喋っている。
僕はその話を聞き、納得した。
『そういうことか。
この男は最初から、あの二人も殺すつもりだったんだ。
そして何食わぬ顔でダンジョンから帰還し、「他のメンバーは魔物との戦闘で命を落としました」などと虚偽の報告をするつもりなのだろう。
僕を生きたまま連れ帰ったところで、奴隷が発言する機会なんて与えられない。
あの二人さえ殺してしまえば、学者の言い分だけが通ることになる。
国に追われる生活を送る気なんて、さらさらなかったんだ』
その時、向こう側もようやく話がまとまったらしく、二人揃ってこちらに視線を戻した。
神官が魔法具の手袋を外し、放り投げる。
魔法使いは言った。
「これでいいだろ。
その奴隷をこちらに歩かせろ」
「もう少し、武器から離れてください。
それと、腰の頭陀袋から拘束具になるものを一つ取り出して、それ以外は武器とともに放ってくださいよ~。
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「ちっ」
神官が舌打ちする。
もしかすると、それを狙っていたのか。
「じゃあお前も、リーダーから離れろ!」
「わかりましたよ、これでいいですか?」
学者が僕の後ろから外れ、壁沿いに、横へ離れる。
それをみて魔法使いは、頭陀袋から縄を取り出した。
そして神官とともに、腰の頭陀袋を外し武器と同じ場所に放り投げ、そこから距離をあけた。
「これでいいか?」
「……まぁいいでしょう。
それじゃあ、奴隷をそちらに歩かせます。
完全にそちらへ行くまで、武器は取らないでくださいね~」
「わかってる!
早くしろ」
学者は僕の背中を押した。
「さ。頼みましたよ。
少しでも逆らう素振りを見せたら、すぐにまた動けなくしますからね」
体の縛りが緩くなるのを感じた。
僕は無抵抗の意志を示すために両手をあげる。
そして横にいる学者の顔を窺った。
学者の顔は、興奮に輝いている。
勝ちを確信した顔。どうやらこれは、演技ではなさそうだ。
『よほど自分のスキルに自信があるんだろうな。
あるいはここしばらくの鬱憤を晴らせる機会だから、気分が高揚して冷静さを欠いているのか……』
僕と目が合うと、学者が早くいけとばかりに、顎を動かした。
僕は魔法使いと神官がいる方に向かって歩き始める。
『思いつく選択肢は、二つ。
どうする。
どっちを選ぶ……?』
魔法使いアルアと神官メーテがいる方へ向かいながら、僕は必死で頭を回転させた。
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