【完結】死ぬとレアアイテムを落とす『ドロップ奴隷』としてパーティーに帯同させられ都合よく何度も殺された俺は、『無痛スキル』を獲得し、覚醒する

Saida

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ダンジョンの主

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ジルさんに問われ、僕が話したこと。

子供の時から持っていた、矛盾した気持ちについて。

『魔物に負けないくらい強くなりたい』という思いはありながら、どこかで、『どうして人間を殺してはいけないのに、魔物は殺してもいいのだろうか』という疑問があったということ。

そういった気持ちから、魔物を殺すのではなく魔物と心を通わせることのできるテイムスキルが欲しいと思っていたこと。

その後、ドロップ奴隷として、容赦なく殺される側、人間に支配される側を経験をして、自分の願望がより鮮明になったこと。

『人間にとって都合の良い資源が手に入るという理由だけで、魔物に死の苦痛を与えることはしたくない』


ジルさんは、黙って僕の話を聞いていた。

もしかしたらこの場で殺されるかもしれないな、と思った。3.5回分あったオーバーヒールの残機は、1消費したから残りは2.5回。ジルさんが本気を出せば、3回くらい、あっという間にやられそうだ。

でもそれならそれで仕方がない。

僕の思想や存在自体が、人間の脅威に、ドースさんやラコの危険につながるのなら、ここで潔く消してもらった方がいい。

ジルさんだったら、最も苦しまない方法で僕を殺してくれる気がする。

そんなことを思いながら、僕は正直に打ち明けた。


ジルさんは目を閉じて考えていた。

やがてそれを開き、呟いた。

「気持ちはわかる、けどなぁ……」

ジルさんの声は静かだった。

「他の命を奪うことに対して罪悪感を抱く気持ちは、理解できるし、共感もする。

でも現実問題として、魔物を一切殺さずに生きていくことができるのかな。


僕たち都市に暮らす人間の生活は、ダンジョンで得られる資源の上に成り立っている。

魔法石しかり、ドロップアイテムしかり。それらは魔物が棲む地下に潜って、彼らの住処を荒らし、彼らの命を奪わなければ得ることのできないものだ。

たしかに君のドロップした現実離れした能力を持つもりがあれば、君は自分の手を汚さずとも、魔物からドロップしたアイテムを得て、それで生活することができるかもしれない。

でも君の考えを聞いた限りでは、『自分の手さえ血に染まらなければ、それでいい』と思ってるわけじゃないんだろう?」

「はい」

僕は即答した。

「だよね。

君の抱えている思想は、自分だけが魔物を殺さないで済めばいい、罪悪感から逃れられればそれでいいってものじゃない。

究極的には、『全ての人間にもう魔物を殺させたくない』って願望なんでしょう。

これまで人間が犯さざるを得なかった『他者の命の上に、自分たちの生を成り立たせている』という業の深い行いから、彼らを、そして自分をも解放したいという願望だよね」

「そうです。まさにそれです」

自分の気持ちが伝わったという興奮で、激しく頷いた。


「だとしたら僕は」

ジルさんは首を振った。

「君の考えには賛同できないな。

だってそれはもう人間の仕事じゃない。

神のなすべきことだ」


僕は考えて、答えた。

「ジルさんのおっしゃっていることは、正しいと思います。

でも人間が魔物にやってきたことを認めてしまうと、僕たちがスキル奴隷として扱われることも、否定できなくなるとは思いませんか」

「うーん、どうだろう。それはまた別の話なんじゃないかな。

私も君もスキルは持っているけれど、ただの人間だよ? 魔物とは違う」

「本当にそう言い切れますか」

「……どういう意味?」

ジルさんの声が尖った。

「僕たちスキルを与えられた存在が、本当に魔物でないと言い切れますか」

「それはつまり……君は魔物の側に立つっていう認識でいいのかな。

だとしたら人間側の僕は、君を地上に出すことはできなくなると思うけど」

「違います、そうじゃないんです」

僕は慎重に言葉を選んだ。

「『魔物が相手だったら、その命を自分たちのために利用してもいい』って考え方を良しとすれば、その次に必ず、誰かがこう言い出すはずです。『じゃあどこまでが魔物なんだ』って」


「それは」

ジルさんが反論しようとしたのを、僕は遮った。

「もちろん僕もジルさんも、明らかに人間です。

見た目も、考えることも、体のつくりだって、どこをどう捉えたって魔物のそれとは違う。第三者から見ても、それは疑う余地のないことに思えます。

でも、スキルを持ってしまっている。魔物が持つ力と同じくらい強力で……厄介な力を。

そしてほとんどの人間は、それを持ってはいません。


『自分たちが豊かで快適な生活を送るためだったら、利用できるものはなんでも利用する』という考え方の人間がいるとして。

スキルを持つ僕たちのことを、人間と魔物、どっちに分類すると思いますか?」


僕の話を聞くジルさんの顔は真剣だった。

何を考えているのか、全く読み取れない。


「ジルさん。僕は神になりたいわけじゃないんです。

ただ、自分や自分と同じ立場にある人々――高い確率でスキルを獲得する少数派の民族に生まれた人たちが、

魔物と同様に、『人間に都合よく利用され、必要に応じて殺される存在』になっていることを、

何としてでもやめさせたいと望んでいるだけなんです。

僕たちが魔物に対して同じことをしていたら、そう主張することに無理がありませんか」


ジルさんは黙考した。その目はぎらぎらと光、鋭い刃のようだった。

そして口を開いた。

「なるほどなぁ……

ややこしい話だし、偏った考え方にも聞こえるけれど。

魔物の命を奪うことは、自分たちがスキル奴隷として利用されることと同じ、か。

君の考えは……完璧に理解したとまでは言わないけれど、何となくつかめた気がするよ。

でも、『魔物も人間もどっちも大事』って考え方だから、

『魔物の味方をして人間を滅ぼす』っていう考えにはつながりそうにないね」

「もちろんです」


ジルさんは僕の顔をじっと見た。

そしてふっと、緊張を解いた。

「分かった。

ごめんね、カウガ君。疑うような真似をして」

僕は首を振った。

「国に反抗する立場で人生を送っているとさ、味方でさえも疑わなきゃならないって場面がよくあってね……」

「はい。なんとなくですけど……分かる気がします」


「ありがとう」ジルさんは頷いて、照れくさそうに笑った。

「わかった。君の気持ちを尊重するよ。

僕だって、魔物を殺さずに済むならそっちの方がいいとは思うからね。

まぁ、カウガ君が思い描く理想にたどりつくのはそう簡単なことではないかもしれないけれど、とりあえず、目の前のことからやっていこうか。

そのために……『殺さずの銛』をドロップしたんだよね?」

「はい」

ジルさんが自分のややこしい思いを汲み取ってくれたと分かり、心の底から安心した。


「じゃあひとまずはその銛を使って、極力魔物を殺さずにこのダンジョンを探索してみようか。

魔物をただ倒すってよりもぐっと難易度が上がるかもしれないけれど、たぶん僕とカウガ君ならできない話じゃないよね。

ここのダンジョンは好戦的な魔物が少ないし、力の差をある程度見せたら、みんなびびって逃げていくだろうしね」

「はい。よろしくお願いします」

「うん、じゃあどんどん先に進んじゃおうか。

アイテムと経験値を稼げるだけ稼いで、ドースとラコちゃんの腰を抜かそうじゃないか」

「はい!」




ジルさんと僕は魔物を一匹も殺さずに、『殺さずの銛』で突き刺すだけにとどめた。

そしてダンジョンの地下深くへと、どんどん足を進めていく。

気付けば得られた経験値とドロップアイテムは、とんでもない量になっていた。


「こんなに大量のアイテムを持ち帰ったら……二人とも、腰抜かすどころじゃ済まないね」

ジルさんがホクホクした顔で言う。

「ははっ。ほんとそうですね」

ドロップしたばかりのイエローマンドリルの毛皮を拾って頭陀袋に入れながら、僕も陽気に返す。


「それにカウガ君も……レベルアップし過ぎて、もはや別人じゃない?」

ジルさんは犬のように、僕の首をクンクン嗅いで言った。

「そうですか?」

満更でもない気持ちだ。

「うん。こんなにたくましくなったカウガ君みたら、ラコちゃん一発で惚れるだろうなぁ……。

良かったね!」

ジルさんはばしばし僕の肩を叩く。

「いや、ジルさん。僕とラコは兄弟みたいなもので……」

「ふーん」

ジルさんが、絶妙にむかつく顔でこちらを見ている。

「だから、違いますって」

「まぁそういうことにしといてあげるよ。ひひひ」

僕は呆れてため息をついた。




「ここだね」

「みたいですね」

あれよあれよという間に。

地図によれば最下層――第四階層の主がいる魔窟まで、僕たちは辿りついてしまった。

ドースさんの言っていた通り、それほど強い魔物が出てこないダンジョンとはいえ。

まさかこんなにすんなりと、最下層の主――いわばこのダンジョンの主のところまで、来られてしまうとは。

『ジルさんのスキルとサポートが、強力過ぎたな……』

僕は頼もしさと同時に、思想上の理由で敵になりかけた恐怖が蘇ってきて、複雑な気持ちで彼女を見た。

「ん、なに? 惚れた?」

僕は何も聞かなかったことにして、前を向く。

「……行きましょうか」

「へへっ……じゃあラスボスもサクッと決めちゃいましょうや」

姿見のダンジョン、最後の魔窟に、僕たちは乗り込んだ。
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