特別なレッスン

ひらおかゆきこ

文字の大きさ
1 / 3

①レコーディング


1968年の夏。

その日マーキュリーレコードのスタジオでは、人気ロックバンド・ペガサスの新曲レコーディングが行われていた。

ペガサスは5月にデビューして、すぐに人気爆発した、トップアイドルグループだ。

キーボードのエディ萩原と、ヴォーカルのスティーブ西野が、人気を二分する存在だ。二人はともに17歳。肩まで髪を伸ばした、女の子の様に可愛らしいエディと、どこか陰のある野生的なルックスのスティーブは、好対照だった。

ところが今日は、肝心のヴォーカル、スティーブの体調が最悪だ。昨日から39度近い高熱を出し、無理を押して、スタジオに連れてきた。やっと先程レコーディングが終わったところなのだった。

「スティーブ、大丈夫か?まだ熱があるんだって?」

休憩室のソファに座り込んでしまったスティーブに、いたわるように近付いて来たのは、作曲家の水島滋之だ。

「はい・・・」

水島滋之は30歳。今一番売れている作曲家だ。作詞家の長谷部晃とのゴールデンコンビで、次々ヒット曲を出している。ペガサスのデビュー曲も手掛けて、大ヒットさせた。今、その第二弾を吹き込んだところだ。

水島はいつも高級ブランドのスーツを颯爽と着こなしている、ダンディな紳士だ。スリムな体つき、柔らかい物腰、切れ長な優しい目。

何よりその手から生み出される華麗な楽曲は、エディやスティーブ達、若きミュージシャンには、あこがれだった。

水島は、隣に座って、ねぎらいの言葉を掛けた。

「すごく良かったよ!リズム感いいね──声もよく出てたし、最高だったよ」

「ありがとうございます・・・」

やっとの事で、そう言いながら、スティーブの顔は赤い。明らかに熱が上がっている。潤んだ目が水島を見上げる。

「早く帰って休みなさい。喉を大切にしてね」

水島はスティーブの肩を優しく抱いている。

キーボードのエディは、少し離れた場所から、なんとなく二人の様子を見ていたが、次の瞬間、目が水島の手に釘付けになった。

肩に置いている水島の手が、だんだん下がってきて、スティーブの腰のあたり、更には内腿の奥を撫でている。それが敏感なところに触れたのか、スティーブは座ったまま、身を捩る様にして、水島の肩に顔を埋めた。

そして熱を確かめるように、水島がスティーブの手を握った。しかしそれにしては、握り方がおかしい。指を絡め過ぎている。

『え・・・っ?』

水島の目つきは、いつもと違う。優しいだけの水島先生から、牡の目になっている。

『水島先生、まさかスティーブと──』

エディは瞬時に、二人の関係の明らかな変化を感じ取った。

すでに男に愛されたことのあるエディには、カンでわかったのだ。 

『どうして、僕より先にスティーブに・・・・・』

それは確かな妬みだった。

スティーブのしなやかな胴回りも、キュッと引き締まったヒップラインも、それに続く長い脚の線にも、水島は色気を感じたのか。

そしてあの甘いハスキーな声。少し厚みのある唇から出される、スティーブの声は、男のエディが聞いてもセクシーだ。官能を揺さぶられるところがある。そこに水島も刺激されたのか・・・

エディは動揺していた。そんなに自分は水島が好きだったのだろうか。この嫉妬は何だろう。

水島は大人の魅力があって、素敵な男性だ。もう少しそんな水島に、気に入られたい、と思っていたエディに、その出来事はショックだった。
 
ファンの少女達より、年上の男に惹かれる自分を、この時エディは自覚していた───

タクシーが来たので、スティーブはマネージャーに抱えられる様にして、そのまま病院へ向かった。 

気持ちが揺れ動くまま、エディもスタジオをあとにした。
    
感想 0

あなたにおすすめの小説

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

邪神の祭壇へ無垢な筋肉を生贄として捧ぐ

BL
鍛えられた肉体、高潔な魂―― それは選ばれし“供物”の条件。 山奥の男子校「平坂学園」で、新任教師・高尾雄一は静かに歪み始める。 見えない視線、執着する生徒、触れられる肉体。 誇り高き男は、何に屈し、何に縋るのか。 心と肉体が削がれていく“儀式”が、いま始まる。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

騙されて快楽地獄

てけてとん
BL
友人におすすめされたマッサージ店で快楽地獄に落とされる話です。長すぎたので2話に分けています。

久々に幼なじみの家に遊びに行ったら、寝ている間に…

しゅうじつ
BL
俺の隣の家に住んでいる有沢は幼なじみだ。 高校に入ってからは、学校で話したり遊んだりするくらいの仲だったが、今日数人の友達と彼の家に遊びに行くことになった。 数年ぶりの幼なじみの家を懐かしんでいる中、いつの間にか友人たちは帰っており、幼なじみと2人きりに。 そこで俺は彼の部屋であるものを見つけてしまい、部屋に来た有沢に咄嗟に寝たフリをするが…

キサラギムツキ
BL
長い間アプローチし続け恋人同士になれたのはよかったが…………… 攻め視点から最後受け視点。 残酷な描写があります。気になる方はお気をつけください。

BL団地妻-恥じらい新妻、絶頂淫具の罠-

おととななな
BL
タイトル通りです。 楽しんでいただけたら幸いです。

番を拒み続けるΩと、執着を隠しきれないαが同じ学園で再会したら逃げ場がなくなった話 ――優等生αの過保護な束縛は恋か支配か

雪兎
BL
第二性が存在する世界。 Ωであることを隠し、平穏な学園生活を送ろうと決めていた転校生・湊。 しかし入学初日、彼の前に現れたのは―― 幼い頃に「番になろう」と言ってきた幼馴染のα・蓮だった。 成績優秀、容姿端麗、生徒から絶大な信頼を集める完璧なα。 だが湊だけが知っている。 彼が異常なほど執着深いことを。 「大丈夫、全部管理してあげる」 「君が困らないようにしてるだけだよ」 座席、時間割、交友関係、体調管理。 いつの間にか整えられていく環境。 逃げ場のない距離。 番を拒みたいΩと、手放す気のないα。 これは保護か、それとも束縛か。 閉じた学園の中で、二人の関係は静かに歪み始める――。