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①レコーディング
1968年の夏。
その日マーキュリーレコードのスタジオでは、人気ロックバンド・ペガサスの新曲レコーディングが行われていた。
ペガサスは5月にデビューして、すぐに人気爆発した、トップアイドルグループだ。
キーボードのエディ萩原と、ヴォーカルのスティーブ西野が、人気を二分する存在だ。二人はともに17歳。肩まで髪を伸ばした、女の子の様に可愛らしいエディと、どこか陰のある野生的なルックスのスティーブは、好対照だった。
ところが今日は、肝心のヴォーカル、スティーブの体調が最悪だ。昨日から39度近い高熱を出し、無理を押して、スタジオに連れてきた。やっと先程レコーディングが終わったところなのだった。
「スティーブ、大丈夫か?まだ熱があるんだって?」
休憩室のソファに座り込んでしまったスティーブに、いたわるように近付いて来たのは、作曲家の水島滋之だ。
「はい・・・」
水島滋之は30歳。今一番売れている作曲家だ。作詞家の長谷部晃とのゴールデンコンビで、次々ヒット曲を出している。ペガサスのデビュー曲も手掛けて、大ヒットさせた。今、その第二弾を吹き込んだところだ。
水島はいつも高級ブランドのスーツを颯爽と着こなしている、ダンディな紳士だ。スリムな体つき、柔らかい物腰、切れ長な優しい目。
何よりその手から生み出される華麗な楽曲は、エディやスティーブ達、若きミュージシャンには、あこがれだった。
水島は、隣に座って、ねぎらいの言葉を掛けた。
「すごく良かったよ!リズム感いいね──声もよく出てたし、最高だったよ」
「ありがとうございます・・・」
やっとの事で、そう言いながら、スティーブの顔は赤い。明らかに熱が上がっている。潤んだ目が水島を見上げる。
「早く帰って休みなさい。喉を大切にしてね」
水島はスティーブの肩を優しく抱いている。
キーボードのエディは、少し離れた場所から、なんとなく二人の様子を見ていたが、次の瞬間、目が水島の手に釘付けになった。
肩に置いている水島の手が、だんだん下がってきて、スティーブの腰のあたり、更には内腿の奥を撫でている。それが敏感なところに触れたのか、スティーブは座ったまま、身を捩る様にして、水島の肩に顔を埋めた。
そして熱を確かめるように、水島がスティーブの手を握った。しかしそれにしては、握り方がおかしい。指を絡め過ぎている。
『え・・・っ?』
水島の目つきは、いつもと違う。優しいだけの水島先生から、牡の目になっている。
『水島先生、まさかスティーブと──』
エディは瞬時に、二人の関係の明らかな変化を感じ取った。
すでに男に愛されたことのあるエディには、カンでわかったのだ。
『どうして、僕より先にスティーブに・・・・・』
それは確かな妬みだった。
スティーブのしなやかな胴回りも、キュッと引き締まったヒップラインも、それに続く長い脚の線にも、水島は色気を感じたのか。
そしてあの甘いハスキーな声。少し厚みのある唇から出される、スティーブの声は、男のエディが聞いてもセクシーだ。官能を揺さぶられるところがある。そこに水島も刺激されたのか・・・
エディは動揺していた。そんなに自分は水島が好きだったのだろうか。この嫉妬は何だろう。
水島は大人の魅力があって、素敵な男性だ。もう少しそんな水島に、気に入られたい、と思っていたエディに、その出来事はショックだった。
ファンの少女達より、年上の男に惹かれる自分を、この時エディは自覚していた───
タクシーが来たので、スティーブはマネージャーに抱えられる様にして、そのまま病院へ向かった。
気持ちが揺れ動くまま、エディもスタジオをあとにした。
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