特別なレッスン

ひらおかゆきこ

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③秘密の時間★


それから何度か、エディは水島に抱かれた。

3度目の時だったか、エディはピンクのブラウスにライトブルーのパンツというスタイルだった。胸元のフリルのボウタイの上に、ゴールドの丸いブローチを付けている。

水島は、向かい合った時に、

「危ないから外しておこうね」
 
と言って、すぐブローチを外し、ベッドサイドに置いた。
はらり、とボウタイがゆるみ、ブラウスも下に落ちた。

遅い午後のひととき──ピアノの止んだレッスン室のソファの上で、あるいはベッドに場所を変えて、エディは水島の指技に溺れ、奥まで貫かれ、何度も頂点ヘ導かれた・・・

水島が首に顔を埋めると、エディが遮る。

「先生──そこはダメ──」

「ん、わかってる、跡はつけないよ──」

テレビに出るアイドルの首筋にキスマークはご法度だ。
水島は舌を這わせるだけで止める。
その代わり外に見えないところには、エディが身を捩る程の噛み跡が残された。

白い肌が、高みに登りつめると、上気してピンク色に染まる。
その肌色で、感じている様子が、たまらなく水島を唆った。

「あ・・・っ せん、せい───」

「きれいだよ、エディ──」

少年と少女の中間のような危うい魅力・・・

押さえつけた時に、少年らしいみずみずしさで、水島の愛撫に震えたスティーブとはまるで違う、妖しい美しさがある。

エディが性的に早熟だったのは、自分の性的指向に気づいていて、それを確かめたい気があったからだ。
本当に男が好きなのかどうかを・・・

水島は、妻がいるのに、エディとの情事を重ねる。

年若い少年の──妻とは違う魅力にぞくぞくするものを感じていた。
それが間違いなく曲を生み出す原動力になっていた。

エディは、マネージャーの目を盗んでは、水島のレッスン室へ通った。ステージが終わってから、待っていた水島の車に乗り込んだり、エディの部屋に水島が迎えに来たこともあった。

しかし、水島の車の助手席に乗る美少年の姿は、いやでも人目を引き、目ざとい雑誌記者達が、何人か気付き、噂になった。

※ ※ ※

『最近水島滋之の車に、ペガサスのエディが、乗ってるのを見たんだけどなあ』

『へぇ、一人でか?』

『うん、しかも深夜だぜ。水島氏の仕事部屋のマンションから一緒に出てきたんだ。どう考えても怪しいよな』

『そこはレッスン室か?』

『レッスン室兼仕事場らしいけど、普通なら他のメンバーとか、マネージャーとかが一緒だろう? さあ──何のレッスンをしてたんだか!』

※ ※ ※

もう少しで週刊誌に出るところを、慌てて榊原プロが、手を回したので、スキャンダルは免れた。

エディと過ごすことで、ただでさえ多忙な、水島の仕事は遅れがちになっていた。

その事に気付いた人物がいた──

夜、ライブハウスのステージが終わった時、控え室の廊下の隅で、エディは呼び止められた。

「エディ、お疲れ様」

「あ、長谷部先生、お疲れ様です」

作詞家の長谷部晃だった。エディはきっとまた何か叱られる、と思って緊張した。

長谷部はポケットから何かを取り出し、手を広げて見せた。

「忘れ物だよ」

長谷部が差し出した、手の平には、丸いブローチがのっていた。18金で、小さなダイヤが幾つか付いている。エディが母親からもらったものだ。

「これ、君のだろう」

「はい・・・」 

それは、水島の寝室のベッドの上で、外されたブローチだ。
ベッド脇の棚に置かれた筈だ。

なぜ水島先生じゃなくて、この人がそれを持って来たのか──
あの部屋に、この人も入ったのか── 
ベッドに乗らないと、気付かない場所に置かれた物を、この人は見つけたのか──

そして僕と、水島先生の事を咎めたんだ・・・

エディは一瞬で、二人の関係を理解した。

大人同士の、長い間に築かれていた、密やかな関係を垣間見た気がして、エディは黙ってしまった。 

「もう一人で、水島のレッスン室に行ってはいけないよ、わかったね」

短い沈黙のあと、エディは小さく答えた。

「わかりました──先生」


    
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