セブンティーン

ひらおかゆきこ

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⑧波紋

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季節が冬を迎える頃、塚本とエディの仲は親密さを増していた。

ペガサスのメンバーが、まずそれに気付いた。

アストロで顔を合わせるとき、エディの態度が違った。完全に恋人を見る目で塚本を見ている。潤んだ目は一層濡れたようになり、仕草ひとつひとつに色気が漂うようになった。恋をしている証拠だった。

楽屋でちょっとエディが席を外したすきに、ケンが口を切った。

「この前夜中に廊下で話し声がしたんだ。誰かと思って外に出てみたら、塚本さんがエディを送ってきたとこだった。最近よく見かける。俺の部屋、隣だからわかるんだ」

「塚本さんのこと、『澄生』って呼んでるよな」
そうつぶやいたのはヨージだ。

「そうそう!あの『澄生~』はフツーの呼び方じゃないよ。ちょっと甘えがかかってて、アレっ、この二人ってすぐわかった」
と、スティーブが言う。

「高橋さんには俺から言うよ━━」
リーダーのテリーの言葉には、四人全員が頷いた。

高橋さん、はペガサスのマネージャーだ。大阪のアマチュア時代からずっと一緒にいて、ペガサスを育ててくれた人た。エディをスカウトしたのも彼だし、人一倍可愛がっている。

耳に入れない訳にはいかないだろう、例え反対されるにしても━━

※ ※ ※

ある晩、エディはアストロの階段を上がるところで不意に腕をつかまれた。

はずみで、着ていた白と茶のフェイクファーのジャケットの前がはだける。
下には目の覚めるようなブルーのセーターと、色を合わせたブルーのパンツをはいていた。

背の高い男が前を塞いだ。
グレーがかった薄い茶色の瞳が、のぞき込むようにして、エディの顔を見た。

シルバースターズのヘンリー喜多嶋だった。フランス系アメリカ人とのハーフで、彫りの深い顔立ちの美形ベーシストだ。ギターのテクニックは凄いが、ドラッグをやったり、私生活は謎だった。

そのヘンリーが突然話しかけてきたのだ。

「エディ、最近また色っぽくなったな」

「何それ、からかってるの?」

手を腰に回そうとしたので、その手を振り払い、エディは階段を駆け上がろうとした。しかし長い脚が、通せんぼするように行く手を阻む。

「からかってねえよ。褒めてるんだけどなあ━━ なあ、この頃よくトスカナに塚本澄生と来てるらしいな」

どこかで塚本とエディの噂を耳にしたらしい。

「それがどうしたの。食事に行っただけだよ」

「ふうん━━塚本って男もイケるんだ。良かったか?」

ヘンリーはニヤリと笑って、エディの怒った顔を面白そうに見た。
エディはカッとなって、ヘンリーを引っ叩きそうになった。思わず手を挙げようかと思ったその時に、上からおりてきた声に遮られた。

「エディ、ヘンリー どうした。そこで何してる」

テリーが上から下りてきたのだった。二人の雰囲気に何か異変を感じて、割り込んできた。テリーの後ろには、シルバースターズのリーダー、マイクもいた。

マイクの姿を見て、ヘンリーはハッとしてエディから離れ、
「何でもねぇよ」
と、ぶっきらぼうに言うと階段を上がって行ってしまった。

ヘンリーは年上で親分肌のマイクには、頭が上がらない。そのマイクとテリーは大親友なのだった。

ペガサスはアイドル系、シルバースターズは実力派バンドと路線こそ違え、同じ榊原プロの人気グループだ。今日のようなことは別として、メンバー同士は普段から仲が良かった。

シルバースターズは皆、酒とタバコと女に溺れているような面もあった。が、そのテクニックと人気ゆえに、回りがその不良性を許していた。

いつもの二階席に皆で座ると、人には聞こえないような低い声で、エディはテリーから諭された。

「いいか、エディ ヘンリーが何を言ったか大体察しは付くよ。塚本さんとの事、何か嗅ぎつけたんだろう。」

「えっ━━」

「俺達はみんな知ってるよ。だけどな、今は回りに知られないほうがいい。塚本さんの立場もあるだろ。ああいう口の軽いヤツには、気をつけろ。絡まれたら余計なこと喋らされるぞ。なるべく俺達と一緒にいて、あんまり一人になるなよ」

「わかりました。ありがとう、リーダー」

男同士の仲が表沙汰になって、ファンの手前、今プラスになることはないと、エディもよくわかっていた。

他のバンドの男達から、エディが好奇の目で見られるのは、今に始まったことではない。

まずその容姿に興味を引かれるのだが、男に抱かれている、という噂があれこれ聞こえてくると、ヘンリーのようにエディにちょっかいを出そうと考える男達が現れた。

その頃は、楽屋が相部屋ということもしばしばあった。ペガサスが着替えを始めると、エディの裸をチラチラ盗み見る視線がある。そんな時はさり気なく全員でエディを囲んで遮った。

お前、女みたいだな、と、あからさまにからかわれる事もあり、気の強いエディが言い返してケンカになる。それを放って置く訳にもいかず、全員で殴り合いに発展してしまうことも重なった。

他のバンドとのケンカの原因は、ほとんどエディだったのである。
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