8 / 12
⑧波紋
しおりを挟む季節が冬を迎える頃、塚本とエディの仲は親密さを増していた。
ペガサスのメンバーが、まずそれに気付いた。
アストロで顔を合わせるとき、エディの態度が違った。完全に恋人を見る目で塚本を見ている。潤んだ目は一層濡れたようになり、仕草ひとつひとつに色気が漂うようになった。恋をしている証拠だった。
楽屋でちょっとエディが席を外したすきに、ケンが口を切った。
「この前夜中に廊下で話し声がしたんだ。誰かと思って外に出てみたら、塚本さんがエディを送ってきたとこだった。最近よく見かける。俺の部屋、隣だからわかるんだ」
「塚本さんのこと、『澄生』って呼んでるよな」
そうつぶやいたのはヨージだ。
「そうそう!あの『澄生~』はフツーの呼び方じゃないよ。ちょっと甘えがかかってて、アレっ、この二人ってすぐわかった」
と、スティーブが言う。
「高橋さんには俺から言うよ━━」
リーダーのテリーの言葉には、四人全員が頷いた。
高橋さん、はペガサスのマネージャーだ。大阪のアマチュア時代からずっと一緒にいて、ペガサスを育ててくれた人た。エディをスカウトしたのも彼だし、人一倍可愛がっている。
耳に入れない訳にはいかないだろう、例え反対されるにしても━━
※ ※ ※
ある晩、エディはアストロの階段を上がるところで不意に腕をつかまれた。
はずみで、着ていた白と茶のフェイクファーのジャケットの前がはだける。
下には目の覚めるようなブルーのセーターと、色を合わせたブルーのパンツをはいていた。
背の高い男が前を塞いだ。
グレーがかった薄い茶色の瞳が、のぞき込むようにして、エディの顔を見た。
シルバースターズのヘンリー喜多嶋だった。フランス系アメリカ人とのハーフで、彫りの深い顔立ちの美形ベーシストだ。ギターのテクニックは凄いが、ドラッグをやったり、私生活は謎だった。
そのヘンリーが突然話しかけてきたのだ。
「エディ、最近また色っぽくなったな」
「何それ、からかってるの?」
手を腰に回そうとしたので、その手を振り払い、エディは階段を駆け上がろうとした。しかし長い脚が、通せんぼするように行く手を阻む。
「からかってねえよ。褒めてるんだけどなあ━━ なあ、この頃よくトスカナに塚本澄生と来てるらしいな」
どこかで塚本とエディの噂を耳にしたらしい。
「それがどうしたの。食事に行っただけだよ」
「ふうん━━塚本って男もイケるんだ。良かったか?」
ヘンリーはニヤリと笑って、エディの怒った顔を面白そうに見た。
エディはカッとなって、ヘンリーを引っ叩きそうになった。思わず手を挙げようかと思ったその時に、上からおりてきた声に遮られた。
「エディ、ヘンリー どうした。そこで何してる」
テリーが上から下りてきたのだった。二人の雰囲気に何か異変を感じて、割り込んできた。テリーの後ろには、シルバースターズのリーダー、マイクもいた。
マイクの姿を見て、ヘンリーはハッとしてエディから離れ、
「何でもねぇよ」
と、ぶっきらぼうに言うと階段を上がって行ってしまった。
ヘンリーは年上で親分肌のマイクには、頭が上がらない。そのマイクとテリーは大親友なのだった。
ペガサスはアイドル系、シルバースターズは実力派バンドと路線こそ違え、同じ榊原プロの人気グループだ。今日のようなことは別として、メンバー同士は普段から仲が良かった。
シルバースターズは皆、酒とタバコと女に溺れているような面もあった。が、そのテクニックと人気ゆえに、回りがその不良性を許していた。
いつもの二階席に皆で座ると、人には聞こえないような低い声で、エディはテリーから諭された。
「いいか、エディ ヘンリーが何を言ったか大体察しは付くよ。塚本さんとの事、何か嗅ぎつけたんだろう。」
「えっ━━」
「俺達はみんな知ってるよ。だけどな、今は回りに知られないほうがいい。塚本さんの立場もあるだろ。ああいう口の軽いヤツには、気をつけろ。絡まれたら余計なこと喋らされるぞ。なるべく俺達と一緒にいて、あんまり一人になるなよ」
「わかりました。ありがとう、リーダー」
男同士の仲が表沙汰になって、ファンの手前、今プラスになることはないと、エディもよくわかっていた。
他のバンドの男達から、エディが好奇の目で見られるのは、今に始まったことではない。
まずその容姿に興味を引かれるのだが、男に抱かれている、という噂があれこれ聞こえてくると、ヘンリーのようにエディにちょっかいを出そうと考える男達が現れた。
その頃は、楽屋が相部屋ということもしばしばあった。ペガサスが着替えを始めると、エディの裸をチラチラ盗み見る視線がある。そんな時はさり気なく全員でエディを囲んで遮った。
お前、女みたいだな、と、あからさまにからかわれる事もあり、気の強いエディが言い返してケンカになる。それを放って置く訳にもいかず、全員で殴り合いに発展してしまうことも重なった。
他のバンドとのケンカの原因は、ほとんどエディだったのである。
0
あなたにおすすめの小説
番を拒み続けるΩと、執着を隠しきれないαが同じ学園で再会したら逃げ場がなくなった話 ――優等生αの過保護な束縛は恋か支配か
雪兎
BL
第二性が存在する世界。
Ωであることを隠し、平穏な学園生活を送ろうと決めていた転校生・湊。
しかし入学初日、彼の前に現れたのは――
幼い頃に「番になろう」と言ってきた幼馴染のα・蓮だった。
成績優秀、容姿端麗、生徒から絶大な信頼を集める完璧なα。
だが湊だけが知っている。
彼が異常なほど執着深いことを。
「大丈夫、全部管理してあげる」
「君が困らないようにしてるだけだよ」
座席、時間割、交友関係、体調管理。
いつの間にか整えられていく環境。
逃げ場のない距離。
番を拒みたいΩと、手放す気のないα。
これは保護か、それとも束縛か。
閉じた学園の中で、二人の関係は静かに歪み始める――。
オメガ修道院〜破戒の繁殖城〜
トマトふぁ之助
BL
某国の最北端に位置する陸の孤島、エゼキエラ修道院。
そこは迫害を受けやすいオメガ性を持つ修道士を保護するための施設であった。修道士たちは互いに助け合いながら厳しい冬越えを行っていたが、ある夜の訪問者によってその平穏な生活は終焉を迎える。
聖なる家で嬲られる哀れな修道士たち。アルファ性の兵士のみで構成された王家の私設部隊が逃げ場のない極寒の城を蹂躙し尽くしていく。その裏に棲まうものの正体とは。
あなたと過ごせた日々は幸せでした
蒸しケーキ
BL
結婚から五年後、幸せな日々を過ごしていたシューン・トアは、突然義父に「息子と別れてやってくれ」と冷酷に告げられる。そんな言葉にシューンは、何一つ言い返せず、飲み込むしかなかった。そして、夫であるアインス・キールに離婚を切り出すが、アインスがそう簡単にシューンを手離す訳もなく......。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる