セブンティーン

ひらおかゆきこ

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⑪苦い夜

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その年の5月5日、エディがいなくなった。

朝一訪れた榊原プロで、田代は異変を知り、ペガサスのケンの部屋に寄った。ケンがエディとは一番仲がいい。何か知っているかもしれないと思った。
玄関先で立ち話をした。

「エディがいないって聞いたけど━」

「まだわかんないよ。塚本さんのとこじゃないのか?今マネージャーが探しに行ってるよ。今までもちょくちょくこんなことあったからさ」

ケンはまだよく状況が、わかっていないようだった。

「昨日アストロに行ったのか?君ら」

「リハ終わってから行ったよ。でも俺は一杯飲んですぐ帰った。だって記念ライブの前日だぜ」

「エディも一緒だったんだよな」

「エディもいたよ。お前も早く帰れよ━━って声掛けて、俺は先に出たんだ」

「誰か来てたか?他に」

「えっと、俺達の他は、シルバースターズの奴らがいた」

※ ※ ※

前の晩5月4日、打ち合わせが済んだあと、エディが一足遅れてアストロに姿を見せた。

「エディ、こっち」

ケンが手招きするのが見えた。
薄暗い中、いつもの席に近付くと、ケンとスティーブの他に、シルバースターズのヘンリーが一緒にいる。珍しい組み合わせだ。

一瞬どうしようかと思ったが、ケンの言葉につられてヘンリーの隣に座った。

「あしたデビュー記念ライブだってな。一年経ったんだな、頑張れよ」
ヘンリーが珍しく優しい口調で、話し掛けてきた。

「あ、うん。ありがとう」

「何飲むんだ、今日は奢るよ」

「いいよ、そんな━━」

「明日は忙しくてここには来ねぇだろうし、遠慮するなよ」

普段ならこんな事はないのに、明日記念日ということもあり、ここでヘンリーに突っけんどんにする理由が、エディにはなかった。

「ウィスキーか?」

「いや、僕は・・」

「お子様だもんな」
ケンが冷やかす。

本当はこっそりウィスキーも飲んでいたが、今日はあまり酔っ払う訳にいかない。しかしジュースではつまらない。
「コークハイにするよ」

「ウィスキーは苦いんだろう」
今度はヘンリーにからかわれた。

「どうせお子様だよ」

グレーがかった瞳が、エディを見下ろした。吸い込まれそうな目だ。口元で小さく笑うと、ウェイターを呼んで飲み物を注文し、自分はタバコに火をつけた。

高い鼻梁、分厚いが形のいい官能的な唇。多くの女性ファンを夢中にさせる美貌だった。

客の出入りが激しくなった。シルバースターズのメンバー達も次々と姿を見せ、席を替わったり、ホールに踊りに行ったり、好き勝手な動きをはじめていた。

その時、シルバースターズのドラムのジャンが、ケンを呼びに来た。
どうやら他の店に行くようだ。

「俺、ちょっと『M』に寄ってから帰るから」
ケンが立ち上がった。
「向こうでリエに会ったら、すぐ帰るよ」

『M』というのは、近くにある別のクラブだ。リエはケンのガールフレンドで、Mでダンサーをしている女の子だった。
今からジャンと一緒に、そこに行くらしい。ジャンの恋人も来ているのかもしれない。

「俺も一緒に行くよ」
スティーブも席を立つ。

「エディ、今日は遅くなるなよ」 
ケンが振り返りながら言った。

「わかってるよ」

エディはMが好きではない。騒がしい店なので、あまり行きたがらないのを知ってて、ケンは誘わなかった。
エディは日頃からアストロで、ぼうっとしてるのが、一番落ち着くのだった。

バンドの演奏がスローな曲から、急にハードロックに変わった。
ヘンリーは相変わらずタバコを吹かして、ステージのバンドを眺めている。

こんなヤツの横に、黙って座っているのも変だと、エディはコークハイを飲んだら帰ろうと思った。
ただいつもよりコークハイが苦く感じる・・・・・

久し振りだからなのか、酔いが回る。ステージのライトが目にチカチカした。
 
「おい、エディ━━ 大丈夫か?」
急にヘンリーに肩を掴まれた。エディはテーブルに突っ伏しそうになっていた。

「酔ったのか?」

「うん━━」
体がひどく重くなっていた。

「帰ろう、送るよ━━ペガサスのマンションだよな?」
ヘンリーに抱えられるようにして、階段を降りた。

それから後の記憶が、エディにはなかった・・・・・


※ ※ ※

気が付くと、エディはマンションの自分の部屋にいた。
ベッドで裸で寝ている。
時計を見ると、夜中の12時近い。

思い出そうとしても、頭がまだガンガンする。
何があったのだろうか━━

隣に、ベッドに腰を掛けてタバコを吸っているヘンリーがいた。
上半身裸で、ズボンを履こうとしていた。

その姿を見て、体が凍りついた・・・

「目が覚めたか?エディ」

呆然としているエディの耳元で、ヘンリーが言った。
 
「お前、あの時スゲェ声出すんだな━━興奮したよ。良かったぜ、エディ」

聞いた途端、頭が真っ白になった。
何も覚えていない。この男と寝たのか━━?

「じゃあ俺、帰るな」
シャツを羽織り、ボタンを掛けると、ヘンリーは部屋から出ていった。

エディは体を動かそうとしたが、ひどく重だるくて動かない。
なんとか服を着かけたところで、玄関で物音がし、入れ違いに塚本澄生が入ってきた。

「エディ━━どうしたんだ、何があった?」

顔が青ざめて声も震えている。

「待ってても帰って来ないから━━そしたら窓を見たら、この部屋に灯りが付いてるのに気付いて━━」

「今そこで、シルバースターズのヘンリーとエレベーターの所で会ったよ。何があったんだ━━あいつと一緒だったのか━━エディ!!」

塚本に激しく肩を揺さぶられ、エディはその場に崩れた。

何も覚えていなかった。
コークハイの苦さだけが、口に残っていた・・・・・

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