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カフェと友人達
しおりを挟む「いい?メア。男は思ってるよりも単純なのよ。
大抵の男性は綺麗で、美人で、可愛くて、その上何でもうんうんって頷きながら聞いてくれる女性を好むらしいわ。」
そう教えてくれるのは、先程は黙りをしていたティアラで。彼女の言葉にメアリーナはやっぱりそうなのね、と思いながらも聞き返さずにはいられなかった。
「…そうなの?」
「そうよ。
それでね、知ってる?
隣のクラスのブルベ嬢の婚約者の話。
その方、廊下の曲がり角でぶつかっただけの平民の娘に誑かされたのよ。
なんでも、転んだまま自分を見つめる瞳がか弱くて護ってあげないといけないと思ったんですって。単純よね。
ま、言うまでもなくその娘は顔と身体の造りは良かったらしいわ。
その後の事よ。ブルベ嬢サイドが婚約破棄になる前にその平民の事を調べたら、放課後に働いている飲み屋で自慢気に話していたそうよ。『貴族の男を手玉に取ってやった』と。最初からその男に近づくつもりでぶつかっていたんですって。」
「…そんな単純な作戦に引っかかる人がいるの?」
メアリーナが眉根を寄せて首を傾げると、ティアラは大きく頷いた。
「いるから、破棄になっているのよ!
もちろんその子は学園を退学させられたわ。婚約者のいる貴族に近づいて家同士の縁を切らせたんですもの。当然よね。
大体、人の男に手を出すなんて腹黒いに違いないのに。」
「そうね、そういうのに気がつけないのよね。」
ティアラの言葉に、ウンウンと頷くカレンデュレアをちらりと見た後、メアリーナはそっと目を伏せた。
「そんな単純な生き物に振り回されてる私も大概ってことでしょう…?」
「違うわよ。」
「そういう事じゃないわよ。」
メアリーナの意気消沈した様子に、カレンデュレアとティアラは食い気味で否定した。
白を基調とした木製の可愛らしい椅子とテーブルが並ぶバルコニーにあるサンルームの一角で、メアリーナ、カレンデュレア、ティアラは温かいフルーツティーを飲み、ケーキをそれぞれ食べながら、顔を突き合わせて話し込んでいた。
前もってダリンタッド侯爵家の名前で予約されていたそのカフェのサンルームの中には、この少女達三人しかいない。
このカフェはティアラの家が営んでいるもので、カフェの店員達は、皆ダリンタッド侯爵家の使用人達だった。
だから、人の耳を気にすることなく込み入った話も出来る。これはいつも気を張って過ごす彼女達の、小さな楽しみのひとつだった。
先程の学園の中とは打って代わり、それぞれ砕けた口調になっている。彼女達は十五歳。まだ多感な時期の少女達である。
「つまりワタクシ達がメアに伝えたいのは、あの男はろくでもないって事なの。」
「婚約者の前で他の令嬢と腕を組んで歩いてるなんて、気持ち悪いわ。」
「…私が特に可愛くも無い顔で、オシャレやお化粧を頑張って見たところで、ロメオの望むような美女にはなれないから…。」
「あのねえ、メア。」
ティアラは、金色の髪を指先で遊びながら俯いたままのメアリーナを覗き込んだ。
「貴女は充分に可愛らしいし美しいわ。そんなアホなことを貴女に思わせる男なんて捨てたらいい。お馬鹿令嬢との勝負なんてする必要すらないのよ?」
「え?」
そのティアラの言葉に、メアリーナが目を見開くと、向かいに座るカレンデュレアも口元にカップを運びながら、優雅に微笑んだ。
「そうね、ワタクシもそう思うわ。何なら、ワタクシ達が証言してあげる。テューダーズ様の有責は確定しているようなものだし。学園であんなに生徒達に見られているのよ?どうやってもあちら側に責任があるわ。」
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