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父の気持ち
しおりを挟む「…メア。君の話には二つ、大きな間違いがあるな。」
「間違い、ですか?」
「まず一つ目は、婚約は家同士の都合ではあったが、絶対的なものではなかったという点だ。」
「そ、そうなのですか?」
父の言葉にメアリーナは翡翠の瞳を見開いた。てっきり他家と同じように、なにか契約ごとの上結ばれた婚約だと思っていた。
「テューダーズ伯爵は、結び付きを得られれば確かに参入している事業の効率は何十年か後には上がるかもしれない。けれど、上がらないかもしれない。
端的に言うと、特に両家とも提携してもしなくてもあまり問題は無いんだ。
君が知っている通り我が伯爵家は王家に連なる学者の家系だが、テューダーズ伯はワインの製造販売を主な領地の利益としている。その様な関係性だからお互いに特出した利益はないんだ。
丁度君達が出会った頃は、テューダーズ伯が新しいワインの研究をしていてね。彼と私は同級生で、その縁で私にその研究の手助けを求めて良く家にロメオ君を連れて話し合いにきていたんだ。…まあ、結局その話は纏まらなかったんだが。
私達が君たちの婚約を決めたのは、テューダーズ子息とメアリーナがお互いに良いと言ったからだよ。」
「お互いに…。」
「今となっては判断を間違えていたのかもしれないが…あの頃の君達はとても仲が良かったからね。」
父はそっとため息をついて、「二つ目は」と続けた。
「君に魅力がないなんて、そんな訳はない。テューダーズ子息は何と言うか…見る目がないんだね。
メアはこれから益々美しくなるよ、君のお母様がそうであるように。君は今はまだ発育途中なんだ。
メアのその知的な美しさは、優雅な所作や真っ直ぐ伸びた背筋、そして聡明な瞳からも伝わってくる。」
「私…。」
父の言葉に気恥ずかしくなりながらも、メアリーナは本当にそうだろうか?と思った。
少女の母はメアリーナと同じく翡翠色の瞳をしていて、パッと華やかというよりは、笑顔ひとつで周りを優しく包み込むような、まるで春の光のような、そんな穏やかな美しい人だ。
「好きだった人に容姿について酷い事を言われれば、誰だって自信を無くすだろう。でも知っていて欲しい。
君はこれから先、今よりもずっと美しく成長するだろう。まるで蝶が蛹から羽化するようにね。
…テューダーズ子息はそれを分かっていて、メアリーナを婚約者にと望んだのだと思っていたのだがね。」
「え?この婚約は当家から申し込んだのでは無いのですか?」
「いや、あちらからのものだよ。
言っただろう、研究の話が纏まらなかったと。本来であれば、そこで関係を断ちたかったのだけどね…。」
父は言いにくそうにしながらも教えてくれた。テューダーズ伯爵という人物の事を。
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