好きだと言ってくれたのに私は可愛くないんだそうです【完結】

須木 水夏

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初めまして?

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(嫌な事を思い出してしまったわ…)


 どうしても付き纏うロメオとの過去の記憶に、メアリーナは一瞬表情を暗くしたが、エディオの続けられた言葉にそんな記憶も何処かへとすっ飛んでしまった。


「本日はライオネルに呼ばれたのです。『お前は婚約者もいないし暇をしているのだろう、ある令嬢の相手を務めて欲しい』と。」

「…!!す、すみません。」


(な、なんて事なの…まさかそんな数合わせの為に公爵家の子息を誘うなんて。)


 ステップを踏みながら青ざめるメアリーナに、エディオは首を横に振ってくれるが、あまりの恐れ多さに少女の肩は小さく震えた。



「恐縮しないでください。メアリーナ嬢が謝ることではありません。
 それに、…貴女でなければこの話は最初から受けませんでしたから。」

「え…?それは、どういった意味で…?」

「私は貴女のことを知っていましたから。」



 メアリーナはエディオの言葉に新緑色の瞳を瞬かせた。
 ふわっと回った時、エディオの長い前髪がなびき吸い込まれそうな深緑色の瞳が見えた時、メアリーナの胸がドキリと大きく鼓動を立てた。
 髪の色と同じ濃紺の長いまつ毛が、シャンデリアの光を受けて穏やかな木漏れ日のように光る瞳に影を落とし、その目が真っ直ぐメアリーナを見つめていたからだ。
 急に恥ずかしくなった少女は頬を赤くしてパッと視線を逸らした。


「あ、あの、申し訳ございません。何方でお会いしたのか覚えておらず…。」

「それはそうですね。私が一方的に知っているだけなので。」

「そ、そうなのですか…?」

「…五年ほど前に、農作物の育成と土と肥料の関係についてフルバード伯爵に提言していらしたでしょう?」

「…!」


 メアリーナは大きく瞳を見開いて、エディオを仰ぎ見た。
 五年前、母が肺病でデュセルへと療養へと行ってしまった後、少女は暫くの間は寂しさで塞ぎ込んでいた。


『デュセルは空気も綺麗で食物も栄養たっぷりなんだそうですよ。きっとサラ様も直ぐに良くなってお戻りになられます。』


 乳母のアンナの気遣う言葉に、メアリーナは泣き尽くしてぼんやりとした頭がパッと覚めるような気持ちになった。


(栄養のある食べ物…こちらでも作る事が出来たら、お母様と一緒に暮らせるのではないかしら?)

 
 思い立ってからは早く、メアリーナは早速図書館へと通いつめた。元々本を読むのも調べるのも好きだったので苦ではなかった。


(窒素、リン、カリウムが植物に必要な三大栄養素。大気や土に含まれている…過剰でも欠乏しても駄目なのね。国の基準はどうなっているのかしら?
 デュセルのように肥沃な土壌の土地でないと、都市部では上手く育たないのかしら。)


 王都の近郊で作られている野菜でも新鮮な物は美味しい。けれど栄養面ではどうなのだろう。照射時間や寒暖の差、降水量、そしてそこに食物の栄養を更に上げるために必要なものは。

『土…肥料…』


 効能を認められて国に出回っている肥料は、北部の小さな村で作られたものだと最新の農業書には記載されていた。けれど北部と王都では気候がかなり違うはずだ。一種類だけの肥料で良いのだろうか。その土地にあったものが必要なのではないだろうか。

 その事に疑問を持ったメアリーナは父に相談した。何故、自分が農作物に興味を持ったのかも正直に話した。
 話を聞き終わった父はメアリーナの頭を撫でて、こう言ってくれたのだ。


『君はすごいな。甘えん坊だったのに急に大人になってしまったみたいだ。お母様の事を色々考えてくれてありがとう。研究は私の本分だ。メアの提案の件、私に預けてくれないか?』

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