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助けられた人
しおりを挟むワルツが終わりお互いに一礼をすると、エディオは自然にメアリーナの手を引いて、ダンスの輪を抜けホールの壁際へと導いた。そしてそこに立っていたウエイターより飲み物を受け取ると、慣れた手つきでメアリーナに手渡した。
(動きに隙がなくて綺麗…。流石は公爵家の子息様だわ…。)
また心地よい次の音楽が流れ始めたのを聴きながらメアリーナが飲み物の飲んで一息ついていると、エディオはぽつりと独り言のように話し始めた。
「実は、私はつい何年か前まで身体がとても弱かったのです。数年後には死ぬとまで言われていました。」
「…そうだったのですか?」
メアリーナは隣に立つ長身の青年をそっと見上げた。服を着ているので分からないが痩せているようには見えず、むしろ程よい筋肉が付いていてバランスの良い体つきをしている。とてもそんな過去があったようには見えない。
突然告げられた秘密の告白のような内容に、複雑そうに、けれど不思議そうに自分を見つめるメアリーナの視線に、エディオは口元に微笑を浮かべた。
「ええ。普通に生活をしていてもよく熱を出し寝込んでしまう事が多くて。歩く事も走る事もままならず、ベッドの上で本を読むのが唯一の楽しみとして生きてきました。
…四年前、フルバード伯爵が研究の最中にたまたまあの薬草を見つけるまでは。」
「父が?」
『薬草』と聞いてメアリーナはぴくりと反応した。フルバード伯爵が肥料の研究途中で見つけ、メアリーナが現在引き継いで研究を進めているものが存在していたからだ。もしかして、と少女は耳をすませた。
「ええ。細かく説明してしまうとかなり話が長くなってしまいますので省略しますが、その時フルバード伯爵は王都の土壌に合う肥料の研究をされていて、たまたま植物の栄養分を調べる為に近隣の森の植物の採取もされていたのです。
その中に私の病に効く薬草があったのです。」
「…もしかして、仰っておられるのは『ニース薬草』のことでしょうか?」
「そうです。ご存知なのですね。」
「ええ。今後研究を進めていく予定の薬草なので。まだ効能については滋養強壮になるということしかはっきりとは分かっていない未知の…けれど、期待の大きな薬草です。」
「そうですね。用法によって変わりますが、元は滋養強壮薬だと聞いておりました。
私は元々体に栄養を循環させる機能がきちんと働いていなかったのですが、ニース薬草を試したところ身体に合っていたのかたちどころに回復しました。動けるようになったところで身体は時間をかけて鍛えていき、今ではこの通りです。」
「…大変でいらしたんですね。治って本当に良かったです。」
メアリーナは心からの言葉をエディオに告げた。
エディオとは二歳しか違わなかったはずだ。少年として一番活発に過ごせる時代を何も出来ずにいたと告白するのも想像するだけでもきっと辛い事だっただろう。そう思うと、何も気の利いた言葉が出てこなかった。
「貴女のおかげなのですよ。」
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