好きだと言ってくれたのに私は可愛くないんだそうです【完結】

須木 水夏

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それからのこと【完結】

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 あの婚約破棄の際、テューダーズ伯爵はバルティカ男爵に、フルバード伯爵家との婚約破棄の損害金を支払うように請求をしたそうだ。男爵は自らもフルバード家に対する慰謝料の支払いがあった。自身の娘を傷物にされた上に高位貴族からの半ば命令のような督促であったが、バルティカ男爵はその支払いもすることに合意し、テューダーズ伯爵はこれで少しは慰謝料の補填が出来ると安心したのだが。
 そこから暫くして大変な事がおこったらしい。

 バルティカ男爵は今世紀農業界に最も革命を起こしたと言われている人物だった。
 その彼の作っている肥料の中に本国のみならず近隣諸国も使っているワイン専用の葡萄に使う肥料があったらしい。
 恐らくはバルティカ男爵が手を回したのだろう。テューダーズ伯爵が仕入れていた本国並びに各国の葡萄農家より、次々と取引解消の知らせが届き、慌てたテューダーズ伯爵がバルティカ男爵に返金をする、何とかしてくれと取り成そうとしても言われた通りに金は支払ったのだから、と全く相手にされなかった。覆水盆に返らず。とはこの事を言うのだろう。

 遂にテューダーズ伯爵家は家業が立ち行かなくなり、爵位を返上するに至ったそうだ。ロメオはそれを受けて平民となり、あの夜会の日はそれを父親から告げられた当日だったらしい、という内容を事情聴取をされた彼が言っていたと後から聞かされた。
 彼があの日夜会に現れたのは、メアリーナの屋敷まで一度行き、当たり前だが門番に通して貰えず。
 外壁の影に隠れてメアリーナが現れるのを待っていたところ、たまたま出掛けるところだった伯爵が、「帰りはマルテッド侯爵家へと寄ってメアリーナと合流して帰る」と門番に伝えているところを聞いたからだった。

 何故夜会までやって来たのかと聞かれたロメオは、メアリーナを説得して寄りを戻しフルバード家に婿として迎えてもらうためだったと答えたらしい。最後まで自分本位の人間で、腹が立つというよりと最早呆れるという感想の方が大きかった。

 その後、ロメオや彼の父がどうなったのかメアリーナは知らない。


 ティファニー・バルティカは男爵家の籍を抜けて平民となり、国の一番南の外れにある修道院で一人の女の子を産んだ。その子が金髪に青い目の子だったのかは分からない。その子どもを男爵が引き取って育てているという話を、風の噂で耳にした事はあるが、それ以上のことはメアリーナは知らない。



 一つ、最近になってメアリーナにとっての朗報がある。エディオの病気に効いた『ニース薬草』が、母親のサラの肺病にも効く可能性が発見されたのだ。
 『ニース薬草』自体がまだどのくらいの効能を持ち合わせているのか未知であり、これからメアリーナとエディオの研究の課題となる。
 母を含めたたくさんの人々を救えるかもしれないと思うと、メアリーナは喜びの涙をこぼし、エディオはそんな彼女を優しく抱きしめた。
 父は相変わらず肥料や土の研究を推し進めていて、母の元へと栄養たっぷりな食物を届ける日もそう遠くないだろう。




 メアリーナは、一年半ほどエディオと清い交際を続けている。婚約者となった彼は、前髪を少しだけ短くして、その綺麗な顔が見えるようになってしまったせいで女性達から狙われているが、本人は研究とメアリーナの事にしか興味がない。  
 あと半年もすると、エディオがフルバード伯爵家へ入婿をする形で結婚をする事も決まっていた。




「…今でも時々不思議な気持ちになるわ。」

「何がだい?」

「エディと出会えた事よ。」

「本当だね。いつも周りの友人達に感謝してるよ。」

「私もだわ。こんな可愛くない私を…」

「誰の妻が可愛くないだって?
 私の妻は世界一、いや宇宙一可愛くて美人なのに。変なことを言わないでおくれ。」

「ふふ、ありがとうエディ。」
 
「こちらこそ、ありがとうメア。」


 優しく笑い合う二人は、これから始まる先の長い未来を想像して、そっと寄り添った。








【終わり】



 


☆★……………………………………★☆


ここまでお付き合い頂きまして、ありがとうございました!
これにて、こちらの物語は終了となります。また新しく女の子たちがわちゃわちゃしているコメディーなお話を描き始めております、どうぞお時間のある時に読んでいただけると嬉しいです!
ありがとうございました!




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