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太陽
しおりを挟む陽日は、その場所がとても好きだった。
家のすぐ側で、立派で綺麗な神社もあり、街の中心にあって日当たりもよく、風光明媚な場所なのに、昼間でも人に出会うことは滅多にない。
晴れた日には海のようにも見える、対岸まで何処までも広い凪いだ水面に太陽の光を映して、そこに同じように映りこんだ空も木々もキラキラと煌めく、その世界をぼーっと見るのが好きだった。
その湖が好きだった。
黒田 陽日は、6歳と幼い少女だったが、一人で遊ぶのが好きな、というか性に合った子どもだった。
友だちは一定数いるけれど、陽日は内向的な性格だった。
一緒にいると楽しい半面、いつの間にか愛想笑いを浮かべながら相手の話や行動に合わせてばかりで、それは少女にとって、ずっと行うのはとても疲れることだったのだ。
だから、晴れた休みの日は一人で湖の畔にある桟橋の先っぽで、家から持ってきた遠足で使うレジャーシートを広げてちょこんと座っていた。
全く寂しくはなかったし、少女は寧ろ誰もいないことにほっとした。退屈をしないように何冊か本も持って行き、大抵一冊をまるまる読み切って家に帰る。
自宅は、月花という名前の可愛らしい妹が産まれたばかりでてんやわんやで、両親も祖父母も陽日に構う時間が無い。
彼らは診療所の仕事もあるので、その邪魔をしないようにと、幼い少女が気を使った結果でもあった。
お姉さんになるのだから、と親に言われたが、実はまだ月花が起きている時に数回も会えていないので実感が湧かない。
けれど、眠っている時に見る妹の顔はふくふくとしていて、思わず触りたくなるような可愛さだった。
陽日の髪や目は、母に似て色素が薄く、太陽の下では金色にも見える薄茶色だったけれど、月花は、父と同じ漆黒の髪と瞳を持っていた。
母いわく、月花の顔立ちは陽日の赤ちゃんの時とそっくりなのだそうだ。
それを聞くと、胸の中にぽっと温かい火が灯った。私に似た私の妹。
大きくなったら、ここにも一緒に遊びにこれるのだろうか。自分と同じでこの場所を気に入るだろうか。二人で静かに本を読んだりお喋りをしながら過ごせるだろうか。
そんなことを考えながら、ふんわりと笑みを浮かべていると。
「…子どもがこんなところで何をしている?」
突然、男の人の声が聞こえて陽日は文字通り、驚いて飛び上がった。
吃驚して振り返ると、さっきまで誰もいなかったはずの畔の桟橋の中ほどに少年が一人で腰掛けていた。
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