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触れる
しおりを挟むまだ続々と出てきそうな思い出話に陽日の顔はすでに真っ赤で、氷魚から顔を背けて湖の方を向いている。
陽日もそれらを覚えていた。一番最初に出会ったあの時、綺麗だけど変な人だと思って、だんだんと仲良くなって、それから11歳になるまで、少なくとも月に1~2回は氷魚と過ごしていた。
(忘れられていなかった…)
嬉しい気持ちに胸がいっぱいで、少女の顔の熱をなかなかひかせてくれない。
冷たい空気が頬を冷やしてくれるのを待ちながら、陽日は小さくため息をついた。
クスクスと笑いながら氷魚は陽日にゆっくりこちらへと歩いてくる。
少女は近づいてくる青年に、鼓動が早くなるのを感じてうろたえた。逃げたい衝動に駆られたけれど、桟橋の端に立っているため、それ以上は下がれない。
青い宝石のように煌めく瞳が、あの頃よりもすぐ近くで陽日の薄茶色の眼を覗き込んだ。
(綺麗…)
陽日は思わず見蕩れて見つめ返してしまい、ハッと我に返って目を逸らした。少女の動揺を知ってか知らずか、その間、氷魚はずっと微笑んでいる。
「しばらく会わないうちに、大きくなったな。」
「…もうすぐ、成人なので。」
「…そっか。あんなにちっちゃかったのに。」
「…その、親戚のおじさんみたいな言い方、辞めてください。」
「ええ、おじさんはないだろう?」
「……」
恥ずかしさで減らず口を叩きながら、俯いて視線を逸らしたまま、陽日は胸の前で両手を握りしめていた。
その手に不意に氷魚の大きな温かい手伸びてきた。そのまま触れて、びくりと少女は身体を揺らす。
冷たい指先を包み込まれるように握られて、両手を繋いでいる状態になり、陽日はやっと落ち着いてきていた顔色を再び赤く染めてしまう。
「…4年も来なかったのに、今日はどうしたの?」
「どうって…ただ、」
握りしめられた手を意識してしまい、話に集中できていなかった。心臓の音が耳のすぐ近くで聴こえる。
「会いたくて。」
だから、口からするりと零れ落ちたのは、ただの本音だった。言ってしまった後に、陽日は時が止まったかのように呼吸と動きを止めた。
何を。
(何を言っているの、私はー!?)
ぶわりと身体中に冷や汗が吹き出した。顔は燃えるように熱いし、おそらく握られている手も汗ばんでいるだろう。手を離して欲しいと思いながらも、彼の反応が怖くて顔を上げることも出来ない。
「…わわ、私、あ、ああ貴方のこと」
話を逸らさなくては、なにか別のことを言わなくては、と吃りながらも慌てて言葉を紡ぐ。こんなに感情が大きく動くことは今までほとんどなかったのに、もはや何を言っているのか、陽日は自分でも分からなかった。
「こ、湖に住む、りゅ、竜、なのだと、思ってました…」
その言葉を言ったあとで再び、はたと我に返る。誤魔化そうと思っていたのに、突拍子もないことを口にしてしまった。
(本当に何を言っているの私……)
別の意味でまた冷や汗をかき始めた陽日の頭上から、ふっと息を吐く音が聞こえて。
「…そうだ、と言ったら?」
「へ?」
「オレがその、龍神だと言ったら?」
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