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拒絶
しおりを挟む向かい合った席の向こう側、少年はじっと陽日を見つめていた。何を告げられるのか分かっているかのように、いつものような柔らかな笑顔はそこになく、無表情なのが顔が整っている分少し怖く見える。
陽日は大きく息を吸い込むと、少年の瞳を見つめ返した。
「…咲夜さん、この婚約を解消して頂けませんか。」
「……。」
「あの、私」
「解消はしません。絶対に。」
少女の言葉を打ち消すかのように被せられた少年の強い否定の言葉に、陽日は吃驚して息を飲む。
まるで意地になっているかのように…実際に意地になっているのかもしれないが、彼が何故こんなに自分に執着するのか陽日には理解できない。出会ってからこの5年、彼に対して冷たくはしていないまでも、愛想良く接した記憶が少女にはないのに。
「…どうして?」
「どうして、とは?」
「…なぜ、そこまで私に…執着されるんですか?」
陽日の言葉に咲夜は一瞬大きく目を見開いた。そして痛みを感じたように眉を顰める。
「…貴女が好きだからです。貴女も分かるでしょう、何年経っても諦められない相手がいるのだから。」
こちらを睨みつけるような咲夜の眼に、陽日は言葉を失う。
解っていてなぜ。
少年の言葉に、少女は小さく身体を震わせた。白く小さな手を膝の上でぎゅっと握りしめる。
「…不毛だと思います、こんな事…。」
「僕もそう思います。」
「…!それなら…っ」
解消した方が良いのに、と陽日が言おうとすると、途端に咲夜は見たこともないような晴れやかな笑顔になった。
何故かその顔に、陽日は背中をゾクリとさせる。
「何度言われても婚約は継続させるし、今年の夏には君と僕は結婚をします。
僕は貴女を一目見た瞬間に心を奪われてしまったんです。その責任は貴女にとって欲しい。…その為に、僕はこの数年、何をしていたと思います?」
「…何、を?」
作り物めいた、美しい笑顔だった。けれど咲夜の眼は全く笑っていない。15歳の少年が浮べるにはあまりにも浮世離れしているその表情に、陽日は身体の芯が冷えていくのを感じた。
「ご実家の診療所。」
「え…」
「大変なことになってるでしょう?」
まるで今日の天気の話をしているように。にこやかに話す咲夜の顔を、陽日は愕然とした表情で見つめた。まさか。
「まさか…。」
「貴女を手に入れる為に少しだけ、情報操作をしました。」
にっこりと微笑む少年は、ただそれだけですと言うとカップソーサーを持ち上げて、紅茶を一口飲んだ。
患者のめっきり訪れなくなった診療所。金策に走り回る両親の姿。会話もなく、溜息の増えた彼らの後ろ姿。
最近では自分や月花の学費ですら危うい事を、陽日ははっきりと聞かされていないものの、両親達の態度で気が付いていた。それでも外聞もあるのか、陽日がアルバイトの話を持ち出すと、余計な事をするなと叱られていたのだ。
その状況になった原因が、咲夜にあるだなんて。
「貴方が…」
「だから、貴女は僕と結婚するしかないんです。ご両親も月花ちゃんも、助けたいでしょう?大丈夫、僕は病院の跡取りです。これからは僕が貴女の家族を含めて、守りますから。」
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