20 / 24
望み
しおりを挟む何も持たず、着の身着のままで家を出た陽日は、足の赴くままに歩いた。
(悲しい、苦しい…)
ひっきりなしに零れる涙が、陽日の白いワンピースの胸元にいくつも染みを作った。頬を拭うこともせず、少女は夜の道を力の無くトボトボと進む。
(どうしたら良かったのかな…)
フラフラと何も考えずに進み、辿り着いたのはいつもの湖だった。真っ暗な水際沿いを陽日はいつもの桟橋へと進んでゆく。湖面は夜闇を吸い取ったように、ぬるりと澱んでおり、昼間とは全く違って見えた。
引き寄せられるように、陽日は暗い瞳で水面を見つめた。ポタリポタリと音もなく涙が湖へと消えてゆく。
「竜神ヶ淵…か。」
ポツリと、ずいぶん昔に聞いた名前を消えいるような声で呟く。
もしも本当に竜がいるのなら、陽日を攫ってはくれないだろうか。湖の底に連れ去ってくれないだろうか。
桟橋へとたどり着いた少女は、軋む板床をゆっくり踏みしめながら先端まで止まることなく歩みを進める。
冷たく心地よい夜風が陽日の長く伸びた髪を優しく撫でた。
そしてふと、思い出す。
(白蛇だと、なぜあの人は知っていたのだろう?)
白い鱗と赤い目の蛇。
彼の青い瞳が、一瞬赤く見えたような気がしたのも、陽日の願望だったのかもしれない。彼が竜神であったのなら、陽日を攫って欲しいという幻想のような願望。
履いてきたサンダルを脱ぐと、裸足のつま先を桟橋のギリギリに引っ掛けて、少女は夜空を見上げた。月が煌々と輝き、木々と空の境界線を浮かび上がらせている。星々が煌めき、遠い宇宙の果てで命が燃えているのを少女は黙ってじっと見つめた。風は優しく森を眠らせ、子守唄を歌う。
世界はこんなに美しいのに。
なぜ私は、孤独なのだろう。
「会いたいなぁ…。」
氷魚に、会いたい。
咲夜の気持ちを嘘でも受け入れれば、この心は少しでも満たされたのか。でもそれは、彼にも自分にも失礼な事だと、直ぐに陽日は気持ちを打ち消すを繰り返す。少年に愛されても愛せるか分からない状態で一緒にいた所で、と何度も意味の無い事を考えてしまう。
こんなことで、死にたくなってしまう自分が可笑しいのか。
真っ黒な湖が、自分を招いているように見えて陽日は、唇に薄く笑みを浮かべた。
ゆらりと、身体を揺らすとそのまま水音もなく湖の中へと姿を消した。
50
あなたにおすすめの小説
嘘をつく唇に優しいキスを
松本ユミ
恋愛
いつだって私は本音を隠して嘘をつくーーー。
桜井麻里奈は優しい同期の新庄湊に恋をした。
だけど、湊には学生時代から付き合っている彼女がいることを知りショックを受ける。
麻里奈はこの恋心が叶わないなら自分の気持ちに嘘をつくからせめて同期として隣で笑い合うことだけは許してほしいと密かに思っていた。
そんなある日、湊が『結婚する』という話を聞いてしまい……。
お前が欲しくて堪らない〜年下御曹司との政略結婚
ラヴ KAZU
恋愛
忌まわしい過去から抜けられず、恋愛に臆病になっているアラフォー葉村美鈴。
五歳の時の初恋相手との結婚を願っている若き御曹司戸倉慶。
ある日美鈴の父親の会社の借金を支払う代わりに美鈴との政略結婚を申し出た慶。
年下御曹司との政略結婚に幸せを感じることが出来ず、諦めていたが、信じられない慶の愛情に困惑する美鈴。
慶に惹かれる気持ちと過去のトラウマから男性を拒否してしまう身体。
二人の恋の行方は……
幸せの見つけ方〜幼馴染は御曹司〜
葉月 まい
恋愛
近すぎて遠い存在
一緒にいるのに 言えない言葉
すれ違い、通り過ぎる二人の想いは
いつか重なるのだろうか…
心に秘めた想いを
いつか伝えてもいいのだろうか…
遠回りする幼馴染二人の恋の行方は?
幼い頃からいつも一緒にいた
幼馴染の朱里と瑛。
瑛は自分の辛い境遇に巻き込むまいと、
朱里を遠ざけようとする。
そうとは知らず、朱里は寂しさを抱えて…
・*:.。. ♡ 登場人物 ♡.。.:*・
栗田 朱里(21歳)… 大学生
桐生 瑛(21歳)… 大学生
桐生ホールディングス 御曹司
Short stories
美希みなみ
恋愛
「咲き誇る花のように恋したい」幼馴染の光輝の事がずっと好きな麻衣だったが、光輝は麻衣の妹の結衣と付き合っている。その事実に、麻衣はいつも笑顔で自分の思いを封じ込めてきたけど……?
切なくて、泣ける短編です。
今宵、薔薇の園で
天海月
恋愛
早世した母の代わりに妹たちの世話に励み、婚期を逃しかけていた伯爵家の長女・シャーロットは、これが最後のチャンスだと思い、唐突に持ち込まれた気の進まない婚約話を承諾する。
しかし、一か月も経たないうちに、その話は先方からの一方的な申し出によって破談になってしまう。
彼女は藁にもすがる思いで、幼馴染の公爵アルバート・グレアムに相談を持ち掛けるが、新たな婚約者候補として紹介されたのは彼の弟のキースだった。
キースは長年、シャーロットに思いを寄せていたが、遠慮して距離を縮めることが出来ないでいた。
そんな弟を見かねた兄が一計を図ったのだった。
彼女はキースのことを弟のようにしか思っていなかったが、次第に彼の情熱に絆されていく・・・。
片想い婚〜今日、姉の婚約者と結婚します〜
橘しづき
恋愛
姉には幼い頃から婚約者がいた。両家が決めた相手だった。お互いの家の繁栄のための結婚だという。
私はその彼に、幼い頃からずっと恋心を抱いていた。叶わぬ恋に辟易し、秘めた想いは誰に言わず、二人の結婚式にのぞんだ。
だが当日、姉は結婚式に来なかった。 パニックに陥る両親たち、悲しげな愛しい人。そこで自分の口から声が出た。
「私が……蒼一さんと結婚します」
姉の身代わりに結婚した咲良。好きな人と夫婦になれるも、心も体も通じ合えない片想い。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる