【完結】ただ好きと言ってくれたなら

須木 水夏

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あの日の事

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 授業の合間に、ぼんやりとサラはつい三日ほど前の事を思い出していた。
 その日は、ガーヴィンと出掛ける約束をしていた。けれど、前々日にドタキャンの手紙が届いて儚く消えてしまった約束の日の事だ。


 


 本来、二人(侍女や騎士もいるけど)で遊びに行くはずだった王都の新しい植物園は、王宮の広い敷地内の一角に建てられたその近代的な建物で、今現在カップルや家族連れの憩いの場となっている。

 植物園、と聞くと硝子でできた四角の平屋の広い温室の中に道が敷いてあり、至る所より天井から植物が吊るされた形のものがこの国では一般的だったが、今回の新しい植物園は遥か西方の先進国の様式が取り入れられた新しいものなのだ。
 二階建てのまあるいドーム型の建物で、中央に中庭がドーンッ、と開いているらしい。壁と天井は全て硝子張り、二階は太陽光を取り入れつつ、最新型のセントラルヒーターの機能も備え付けられている。一階は外枠に沿ってシダ系の植物が並べられ、中庭側に軽食なども食べられるお洒落なカフェが併設されている。中庭の風景を見ながら食事ができるという算段だ。

 また、どの角度からでも植物を観察できるように四箇所の螺旋階段に沿うように多種多様な植物が配置されているらしい。
 勿論、中庭を除いて夏季も冬季も室内は温度が一定に保たれているので、いつ行っても美しい花々が咲き乱れている。
 中庭は、イベントや季節の植物でいっぱいになるのだそう。
 そして、この円形の建物はもう一棟あり、中央入口から真っ直ぐ突っきる形の通路で繋がっている。そちらは湿地帯の植物や、苔むした回廊が見られるのだとか。また、小さな池も所々に設置されていて、暖かい海にしか住んでいない色鮮やかな魚や、金色の魚、体長が2メートルもある巨大魚などの展示がされているという。

 まさに国家プロジェクトと言っても過言ではない、王室企画、主に王妃様の提案された植物園なのである。


「うわーーー、いいなあ。」


 こういう説明やイラストを見ていると、サラの好奇心は刺激されてムズムズしてしまう。初日に行きたいと思っていたのだが、人が多すぎて行けなくて二ヶ月経ってしまった今。


(普通に、行きたい。)


 
 そうなのだ。
 ガーヴィンとの楽しいウキウキらんらんハッピーデートの為に、いつも通りサラはパンフレットを取寄せたり、実際に訪れた人の話を聞いたりして、植物園を事前に調べまくっていた。けれど彼より行けなくなったという手紙が来て、その日は一旦落ち込んでいたのだが。



「…実地体験しておくべきでは?」


 ガバッと顔を上げると、そうだ、次のデートの為に行ってみようと十分後には意気込んでいたのだった。

 そして、週末に一緒に行きたいと言った妹のエイヴァと侍女のケリーと、騎士のハドゥインと四人で連れ立ってウキウキワクワクしながら植物園を訪れたのだった。

 そして、そこで見てしまったのだ。




 





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