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見覚えのある人がいた
しおりを挟む好きな人レーダーというものは、何時いかなる何時も正確に働くものらしい。
どんなに遠く離れていても。
それが、例え植物園の一階と二階くらいの距離があったとしても。垂れ下がるシダの間から一瞬見えただけであったとしても。(もしかして、ちょっと気持ち悪い?)
硝子天井より差し込む、穏やかな冬の陽の光にサラの目の端でキラリ、と何かが光った。その瞬間に、光の出処を求めて彼女はパッと階下を見下ろした。首を傾けてシダの隙間にじっと視線を向ける。
(あ。)
螺旋階段のすぐ側、そこに居たのはやはり愛しいガヴィンだった。
(合っていたわ!ガヴィの白金髪の輝きだったわ!)
一瞬だけ手すりから身を乗り出そうとして、淑女の振る舞いでは無いと思い返し、心を鎮めたサラは自分の感覚に感心した後に、ふと違和感を持った。
何故、ここに彼がいるのか?と。
確か用があって行けない、という手紙を貰っていたような。そんなような?あれ?
サラが首を傾げながらもガーヴィンを見ていると、彼の向こう側に背の低い誰かがいることに気がついた。この位置からだと良く見えないけれど、誰かが、いる。
「誰…?」
「なあに、姉様?」
「ん?ううん、何でもないわ。」
エイヴァが目をぱちくりさせて不思議そうに此方を見上げてきたので、サラは慌てて首を振った。どきどきと心臓が音を立てている。
(いや、まさか。)
まさかね、と嫌な予感が心に過ぎるのを必死に誤魔化しながら。そして、エイヴァやケリー達に気が付かれないようにしながら。一階の植物を見遣るようにチラチラと視線を向ける。
(ん…んんー?!)
何だあれは。
愛しのガーヴィンの腕に何かが巻きついている。何か、…なんだあれ。
ピンク色の髪…?
「…はあ?」
「え?」
「あ、な、なんでもないなんでもない、ほら!あっちに大好きなポワポワの樹があるわよ~。」
「ポワポワの樹?ほんとだあー!」
ポワポワの樹とは妹が何時も図鑑を見ながら『ポワポワしてる~』と言っているスモークツリーの事である。目をキラキラさせながら吸い込まれるようにエイヴァは其方へと歩いていった。
危ない、思ったよりもドスの効いた声が出てしまっていたようだ。エイヴァが驚いたようにこちらを見ていた。
妹が歩いていったその向こう側、侍女のケリーとお付の騎士ハドゥインはベンチに座って楽しそうにキャッキャウフフと植物を鑑賞していた。
おい、普通にデートしとるやんけ。護衛の仕事はどうしたの?ここは王妃の管理する植物園だから所々に騎士が配置されていてとても治安は良いので問題ないのだけど。
そこは良いのだけど!
うふふと笑いながら、サラは笑っていない目でもう一度一階のその二人を見た。
ガーヴィンの隣、本来ならサラが居るはずの場所にいるのは、知らない少女だった。
少し赤みがかった白金髪に、目の色はよく見えないが抜けるように白い肌に、彼女の着ているライトイエローのドレスが、はしゃぐ心情を現しているのかふわふわと揺れている。女装してる男子かな、と思ってみたけれど(無理がある)どう見ても女の子だった。しかも多分とても可愛い。顔が遠すぎて見えないけど、絶対可愛い。
サラは、ギリッと掴んでる木製の吹き抜け手すりを握りつぶしそうになりながら、待てよ、と頭の中で思う。
(ピンク色の髪の毛って、ローゼマリア様なのでは…?)
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