【完結】ただ好きと言ってくれたなら

須木 水夏

文字の大きさ
7 / 87

ふわふわした友人達

しおりを挟む







「まあ、怖い顔。どうしたのサラ。」

「…ご機嫌よう。マルベリア様。」



 お昼休みの前、前の席に座る公爵令嬢マルベリア・サンドラルドが朝以来、つかのまの休憩時間にサラの顔を見て驚いたように言った。美しい切れ長の目元が珍しく丸くなり、サンセットトパーズ色の瞳がくるりん、と良く見えている。



「ちょっと嫌なことがありまして。…後で、聞いてくださいます?」

「ええ、もちろんよ。それはエミリアも呼んでも良いのかしら?」

「はい、勿論です。」



 エミリア・フォークスは、侯爵令嬢である。愛らしい見た目の彼女もまた、高位貴族特有の淡い金髪に水色の瞳をしている。


 高位貴族のみが机を並べる教室の中で、入学初日に三人が並びの席だった。


「御機嫌よう。マルベリア・サンドラルドよ。以後よろしくお願いしますわね。」

「御機嫌よう。エミリア・フォークスですわ。よろしくお願いします。」

「御機嫌よう。サラ・ウイントマンでございます。どうぞよろしくお願い致します。」

「…早速、お伺いしたいのだけれど。」


 銀髪を青いレースのリボンでハーフアップに結い上げ、凛とした眼差しで公爵令嬢であるマルベリアがそう口火を切った。何だろう、とサラとエミリアが身構えていると。


「…学長様の御髪って、どう思われます?」


 と彼女は言ったのだ。
 ちなみに学長の髪型は非常に整えられた鬘なのだが、恐らくマルベリアが言っているのは前髪の事だった。自然にしておくかクルクルと巻いていたり、丁寧に横に分けて糊で止めているのが通常の男性の髪型だった。しかし、学長の前髪は前に真っ直ぐぐん、と伸びている。前髪で顔に影が出来るくらいに、ただ真っ直ぐ伸び、そして形良く整えられているのだ。櫛を使して下から上、上から内側へという風に固めてあるようでふんわり長い棒状の前髪がそこに存在しているのである。非常に珍しい形をしているのだ。いつ何時に見ても顔に影ができるのでもしかしたら庇の役割があるのかもしれない。

 サラが何と答えて良いのか考えあぐねていると、隣にいたエミリアが真面目な顔で「…お手入れが私達よりも大変そうでございましたわね。」と答えた。それはサラも思った。言って良いのか迷っていた。
 くっ。逃げられない、と悟ったサラは少し考えた後。至極真面目に、

「…蝙蝠の休憩場(庇の下の部分)としても、最適かと存じます。」

 と返事をした。それが二人にとても気に入られたらしい。
 何でもマルベリアとエミリアは幼少期よりの幼馴染であり、学園に入学したら同年代の子女の友達を増やしたい!と密かに燃えていたようで。サラのユーモアさは、問題なくその試験(?)に合格したのだった。






しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

私のことはお気になさらず

みおな
恋愛
 侯爵令嬢のティアは、婚約者である公爵家の嫡男ケレスが幼馴染である伯爵令嬢と今日も仲睦まじくしているのを見て決意した。  そんなに彼女が好きなのなら、お二人が婚約すればよろしいのよ。  私のことはお気になさらず。

嘘つきな唇〜もう貴方のことは必要ありません〜

みおな
恋愛
 伯爵令嬢のジュエルは、王太子であるシリウスから求婚され、王太子妃になるべく日々努力していた。  そんなある日、ジュエルはシリウスが一人の女性と抱き合っているのを見てしまう。  その日以来、何度も何度も彼女との逢瀬を重ねるシリウス。  そんなに彼女が好きなのなら、彼女を王太子妃にすれば良い。  ジュエルが何度そう言っても、シリウスは「彼女は友人だよ」と繰り返すばかり。  堂々と嘘をつくシリウスにジュエルは・・・

思い出さなければ良かったのに

田沢みん
恋愛
「お前の29歳の誕生日には絶対に帰って来るから」そう言い残して3年後、彼は私の誕生日に帰って来た。 大事なことを忘れたまま。 *本編完結済。不定期で番外編を更新中です。

幼馴染と仲良くし過ぎている婚約者とは婚約破棄したい!

ルイス
恋愛
ダイダロス王国の侯爵令嬢であるエレナは、リグリット公爵令息と婚約をしていた。 同じ18歳ということで話も合い、仲睦まじいカップルだったが……。 そこに現れたリグリットの幼馴染の伯爵令嬢の存在。リグリットは幼馴染を優先し始める。 あまりにも度が過ぎるので、エレナは不満を口にするが……リグリットは今までの優しい彼からは豹変し、権力にものを言わせ、エレナを束縛し始めた。 「婚約破棄なんてしたら、どうなるか分かっているな?」 その時、エレナは分かってしまったのだ。リグリットは自分の侯爵令嬢の地位だけにしか興味がないことを……。 そんな彼女の前に現れたのは、幼馴染のヨハン王子殿下だった。エレナの状況を理解し、ヨハンは動いてくれることを約束してくれる。 正式な婚約破棄の申し出をするエレナに対し、激怒するリグリットだったが……。

拝啓、婚約者様。ごきげんよう。そしてさようなら

みおな
恋愛
 子爵令嬢のクロエ・ルーベンスは今日も《おひとり様》で夜会に参加する。 公爵家を継ぐ予定の婚約者がいながら、だ。  クロエの婚約者、クライヴ・コンラッド公爵令息は、婚約が決まった時から一度も婚約者としての義務を果たしていない。  クライヴは、ずっと義妹のファンティーヌを優先するからだ。 「ファンティーヌが熱を出したから、出かけられない」 「ファンティーヌが行きたいと言っているから、エスコートは出来ない」 「ファンティーヌが」 「ファンティーヌが」  だからクロエは、学園卒業式のパーティーで顔を合わせたクライヴに、にっこりと微笑んで伝える。 「私のことはお気になさらず」

あなたなんて大嫌い

みおな
恋愛
 私の婚約者の侯爵子息は、義妹のことばかり優先して、私はいつも我慢ばかり強いられていました。  そんなある日、彼が幼馴染だと言い張る伯爵令嬢を抱きしめて愛を囁いているのを聞いてしまいます。  そうですか。 私の婚約者は、私以外の人ばかりが大切なのですね。  私はあなたのお財布ではありません。 あなたなんて大嫌い。

25年の後悔の結末

専業プウタ
恋愛
結婚直前の婚約破棄。親の介護に友人と恋人の裏切り。過労で倒れていた私が見た夢は25年前に諦めた好きだった人の記憶。もう一度出会えたら私はきっと迷わない。

お飾りの侯爵夫人

悠木矢彩
恋愛
今宵もあの方は帰ってきてくださらない… フリーアイコン あままつ様のを使用させて頂いています。

処理中です...