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それぞれの婚約者
しおりを挟む「第二王子様は少しだけ頭が足りないのだけれど、元々はとてもお優しくて誠実な方だったのよ。」
「(頭が足りないってはっきり言った!)」
「それが、あの女に出逢ってからあっという間にただの愚か者へと成り下がってしまったという訳。
人前で恥ずかしげも無く抱擁したり口付けを交わしたり。挙句の果てに私との婚約を破棄しあの女と婚約したいという世迷言を自分の臣下に言い始めていたの。」
「…?!」
「愚かでしょう?その様なことを報告されてしまったら私も彼を庇うことは出来ないわ。」
「庇おうとされてたのですか?!」
それはそれでどうなのだ?そういうものなのか?
「私と殿下は恋愛関係では無いもの。正直に言ってくれたのであれば妾として囲うのを直ぐにでも許したわ。私が後継を産んでからにはなるけれど。
でもそれも、もう無しよ。
長い年月を重ねた分の情もあったし、勿論未来を見据えて彼と関わってきたのよ。だからこそ、落胆も大きいのかしらね。」
「マルベリア様……。」
悪態をつきつつもマルベリアはそう言ってはあ、と小さく溜息をついた。
すると。
「サラさん、ローゼマリアさんは魔性の女性なのですって。」
「魔性…?」
紅茶を優雅に飲みながらのエミリア(いつの間にか昼食一人だけ早く食べ終わってる?!)の言葉に、サラは彼女に顔を向け首を傾げた。
「魔性の女。則ち『いつの間にか男性を虜にしている女』の事よ。」
「はあ。」
「実際にはいつの間にか、では無くてボディータッチ多めに殿方と接していらっしゃるの。王族の血を引き王宮で暮らしていてもやはりそういった面では教育がされていらっしゃらないそうよ。」
「…エミリア様は、平気でいらっしゃるのですか?」
「平気とは?
…ああー。私の婚約者のことですわね。正直、どうでもいいとすら思っていてよ。」
「どうでも…。」
「マルベリア様と違って、私と彼は一年ほど前に繋いだ縁でしたの。父に言われてしょうがなく。それももう切りますけれど。」
「それってやっぱり…。」
「ええ、相手方の不貞によるものとなるでしょう。白昼堂々と浮気をなさってらしたのですもの、本人も解っていると思うわ。婚約の白紙撤回をお父様と既に話しているところなの。
本当にどうでも良いのよ。最初から関心を持てなかった方ですの。」
ふふ、とエミリアは綺麗に微笑んだ。その顔には、本人が言う通り一片の憂いも見当たらない。
「はあ。私もそうしておけば良かったわ。」
「まあ。マルベリア様は公爵家の姫君ですもの。王も婿に行く先としてしっかりと考えての長い婚約期間だったのだと思いますが、マクベス殿下が愚かすぎたとしか言えませんわね。」
「ねー…。あんなにお馬鹿さんだったとは流石に分からなかったわ。」
不敬がすぎる会話に、サラは終始ドギマギしていたがここは公爵令嬢のサロン。存在しているのは少女が三名と、あとはサンドラルドに忠誠を誓った者達のみだ。皆口が岩よりも固いことだろう。
「兎に角、あの女は危険よ。早めに婚約者にお伝えなさい。それとも、サラも私達と同じように解消を求めているのかしら?」
「…いいえ。まだ本人に何の確認も出来ていない時点です。」
「まあ、そうなのね。」
「ジェリー様は怒りのあまり令息の頬を殴ってしまったら、相手が正気を取り戻して婚約解消になる前に泣いて縋ってきたらしいのだけど…。サラさんもそうなさったら?」
「ええ?!そ、それはちょっと…」
(ジェリー様強っ?!)
でもそうか。そういうタイプじゃないと辺境は無理か。納得しつつ、サラはそう出来たらスッキリするかな?と少し思った。別にガーヴィンを打ちたい訳では無いけれど。あの時のイラッとした気持ちが心をチラリと過ぎる。
でも、どちらかと言うと。
「婚約云々よりも、今は誤魔化されている事の方がモヤモヤしてしまっていて…。」
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