【完結】ただ好きと言ってくれたなら

須木 水夏

文字の大きさ
10 / 87

それぞれの婚約者

しおりを挟む






「第二王子様は少しだけ頭が足りないのだけれど、元々はとてもお優しくて誠実な方だったのよ。」

「(頭が足りないってはっきり言った!)」

「それが、に出逢ってからあっという間にただの愚か者へと成り下がってしまったという訳。

 人前で恥ずかしげも無く抱擁したり口付けを交わしたり。挙句の果てにわたくしとの婚約を破棄しあの女と婚約したいという世迷言を自分の臣下に言い始めていたの。」

「…?!」

「愚かでしょう?その様なことを報告されてしまったらわたくしも彼を庇うことは出来ないわ。」

「庇おうとされてたのですか?!」


 それはそれでどうなのだ?そういうものなのか?



「私と殿下は恋愛関係では無いもの。正直に言ってくれたのであれば妾として囲うのを直ぐにでも許したわ。わたくしが後継を産んでからにはなるけれど。
 でもそれも、もう無しよ。
 長い年月を重ねた分の情もあったし、勿論未来を見据えて彼と関わってきたのよ。だからこそ、落胆も大きいのかしらね。」

「マルベリア様……。」


 悪態をつきつつもマルベリアはそう言ってはあ、と小さく溜息をついた。
 すると。



「サラさん、ローゼマリアさんは魔性の女性なのですって。」

魔性ましょう…?」



 紅茶を優雅に飲みながらのエミリア(いつの間にか昼食一人だけ早く食べ終わってる?!)の言葉に、サラは彼女に顔を向け首を傾げた。



「魔性の女。則ち『いつの間にか男性を虜にしている女』の事よ。」

「はあ。」

「実際には、では無くてボディータッチ多めに殿方と接していらっしゃるの。王族の血を引き王宮で暮らしていてもやはりそういった面では教育がされていらっしゃらないそうよ。」

「…エミリア様は、平気でいらっしゃるのですか?」

「平気とは?
 …ああー。私の婚約者のことですわね。正直、どうでもいいとすら思っていてよ。」

「どうでも…。」

「マルベリア様と違って、私と彼は一年ほど前に繋いだ縁でしたの。父に言われてしょうがなく。それももう切りますけれど。」

「それってやっぱり…。」

「ええ、相手方の不貞によるものとなるでしょう。白昼堂々と浮気をなさってらしたのですもの、本人も解っていると思うわ。婚約の白紙撤回をお父様と既に話しているところなの。
 本当にどうでも良いのよ。最初から関心を持てなかった方ですの。」



 ふふ、とエミリアは綺麗に微笑んだ。その顔には、本人が言う通り一片の憂いも見当たらない。



「はあ。わたくしもそうしておけば良かったわ。」

「まあ。マルベリア様は公爵家の姫君ですもの。王も婿に行く先としてしっかりと考えての長い婚約期間だったのだと思いますが、マクベス殿下が愚かすぎたとしか言えませんわね。」

「ねー…。あんなにお馬鹿さんだったとは流石に分からなかったわ。」



 不敬がすぎる会話に、サラは終始ドギマギしていたがここは公爵令嬢のサロン。存在しているのは少女が三名と、あとはサンドラルドに忠誠を誓った者達のみだ。皆口が岩よりも固いことだろう。



「兎に角、あの女ローゼマリアは危険よ。早めに婚約者にお伝えなさい。それとも、サラもわたくし達と同じように解消を求めているのかしら?」

「…いいえ。まだ本人に何の確認も出来ていない時点です。」

「まあ、そうなのね。」

「ジェリー様は怒りのあまり令息の頬を殴ってしまったら、相手が正気を取り戻して婚約解消になる前に泣いて縋ってきたらしいのだけど…。サラさんもそうなさったら?」

「ええ?!そ、それはちょっと…」
(ジェリー様強っ?!)


 でもそうか。そういうタイプじゃないと辺境は無理か。納得しつつ、サラはそう出来たらスッキリするかな?と少し思った。別にガーヴィンを打ちたい訳では無いけれど。あの時のイラッとした気持ちが心をチラリと過ぎる。

 でも、どちらかと言うと。



「婚約云々よりも、今は誤魔化されている事の方がモヤモヤしてしまっていて…。」













しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

私のことはお気になさらず

みおな
恋愛
 侯爵令嬢のティアは、婚約者である公爵家の嫡男ケレスが幼馴染である伯爵令嬢と今日も仲睦まじくしているのを見て決意した。  そんなに彼女が好きなのなら、お二人が婚約すればよろしいのよ。  私のことはお気になさらず。

思い出さなければ良かったのに

田沢みん
恋愛
「お前の29歳の誕生日には絶対に帰って来るから」そう言い残して3年後、彼は私の誕生日に帰って来た。 大事なことを忘れたまま。 *本編完結済。不定期で番外編を更新中です。

25年の後悔の結末

専業プウタ
恋愛
結婚直前の婚約破棄。親の介護に友人と恋人の裏切り。過労で倒れていた私が見た夢は25年前に諦めた好きだった人の記憶。もう一度出会えたら私はきっと迷わない。

嘘つきな唇〜もう貴方のことは必要ありません〜

みおな
恋愛
 伯爵令嬢のジュエルは、王太子であるシリウスから求婚され、王太子妃になるべく日々努力していた。  そんなある日、ジュエルはシリウスが一人の女性と抱き合っているのを見てしまう。  その日以来、何度も何度も彼女との逢瀬を重ねるシリウス。  そんなに彼女が好きなのなら、彼女を王太子妃にすれば良い。  ジュエルが何度そう言っても、シリウスは「彼女は友人だよ」と繰り返すばかり。  堂々と嘘をつくシリウスにジュエルは・・・

あなたなんて大嫌い

みおな
恋愛
 私の婚約者の侯爵子息は、義妹のことばかり優先して、私はいつも我慢ばかり強いられていました。  そんなある日、彼が幼馴染だと言い張る伯爵令嬢を抱きしめて愛を囁いているのを聞いてしまいます。  そうですか。 私の婚約者は、私以外の人ばかりが大切なのですね。  私はあなたのお財布ではありません。 あなたなんて大嫌い。

許婚と親友は両片思いだったので2人の仲を取り持つことにしました

結城芙由奈@コミカライズ3巻7/30発売
恋愛
<2人の仲を応援するので、どうか私を嫌わないでください> 私には子供のころから決められた許嫁がいた。ある日、久しぶりに再会した親友を紹介した私は次第に2人がお互いを好きになっていく様子に気が付いた。どちらも私にとっては大切な存在。2人から邪魔者と思われ、嫌われたくはないので、私は全力で許嫁と親友の仲を取り持つ事を心に決めた。すると彼の評判が悪くなっていき、それまで冷たかった彼の態度が軟化してきて話は意外な展開に・・・? ※「カクヨム」「小説家になろう」にも投稿しています

幼馴染と仲良くし過ぎている婚約者とは婚約破棄したい!

ルイス
恋愛
ダイダロス王国の侯爵令嬢であるエレナは、リグリット公爵令息と婚約をしていた。 同じ18歳ということで話も合い、仲睦まじいカップルだったが……。 そこに現れたリグリットの幼馴染の伯爵令嬢の存在。リグリットは幼馴染を優先し始める。 あまりにも度が過ぎるので、エレナは不満を口にするが……リグリットは今までの優しい彼からは豹変し、権力にものを言わせ、エレナを束縛し始めた。 「婚約破棄なんてしたら、どうなるか分かっているな?」 その時、エレナは分かってしまったのだ。リグリットは自分の侯爵令嬢の地位だけにしか興味がないことを……。 そんな彼女の前に現れたのは、幼馴染のヨハン王子殿下だった。エレナの状況を理解し、ヨハンは動いてくれることを約束してくれる。 正式な婚約破棄の申し出をするエレナに対し、激怒するリグリットだったが……。

お飾りの侯爵夫人

悠木矢彩
恋愛
今宵もあの方は帰ってきてくださらない… フリーアイコン あままつ様のを使用させて頂いています。

処理中です...