【完結】ただ好きと言ってくれたなら

須木 水夏

文字の大きさ
12 / 87

2回目のドタキャン、だと?

しおりを挟む




 



 手紙の中のガーヴィンは酷く落ち込んでいるようだった。
「どうしてもハーヴェイ殿下の要請を断れなかった」と言い訳を述べ、「最近、殿下の人遣いが荒い。側近候補降りようかな…。」と迷いの吐露。そして「サラに申し訳ない、この埋め合わせは必ずするから。次は必ず行こうね。」と二枚に渡る便箋の中、少し右上がりの癖のある文字で綴られていた。

 何故か悪い予感しかせず、もやっとした気持ちが少女の胸に広がる。手紙と共に本日も送られてきたのは、黄色のガーベラの花束だった。

 花言葉は『究極の愛』。ガーヴィンがこの意味を知っているはずがないとサラはやはり思う。
 絶対に侍女か家令に選ばせている気がする。ガーヴィンに悪気は無いだろう、婚約者に手紙とともに花を贈りたいけど何を送って良いのか検討もつかないから選んで、と。そう言っている姿が容易に想像が着いた。

 そしてその想像に、なんだか腹が立った。






「…植物園に行くわ。」

「え?お嬢様?」

「準備をして頂戴。」

「は、はい、只今!」



 ケリーは驚いたような顔をしていたが、二度あることは三度あるという。サラはそれを確かめる必要があるわと、そう思ったのだ。


「…ガヴィ。貴方は今日、誰と会うの…?」




 拗ねたように口を尖らせながら、サラは呟いた。こんな所で尋ねてみても、当たり前だが答えは返ってこない。けれど、怖くて本人には聞けない。
 サラは再び窓の外へと目を向けた。烟る淡い水彩画のような雨の世界は、不安な少女の心そのものだ。



 

 



 休日の植物園は、やはり少し混んでいた。無料で解放されている公園内は、冬の暖かい陽射しを求めて平民が沢山寛いでいる。その横を通り過ぎ、この前入った有料の温室へとサラは足を向けた。

 こちらは、空いているわけでは無いが外よりも人が少なく暖かだった。
 ほっと一息付き、ケリーと護衛騎士のハドウィンと共に室内をゆっくり散策する。何となく、にいるのでは?とサラは自分のガーヴィン探知レーダーに頼りながらも進んで行った。

 すると。



(やっぱり居たわ。)



 キャッキャとはしゃぐ女の声が聞こえてくる。陽の光にピンク色の髪がふわふわと遊んでいるのがサラの目に留まった。直ぐ近くにいる婚約者ガーヴィンの姿も。どちらかと言うと、彼を先に見つけてその次に居て欲しくなかったその女性ローゼマリアの姿を確認してしまった形だったけれど。



「うわあ!何ですかあれ。えっ?!ガーヴィン様…?」

「ええっ?!」


 少女がショックを受けるよりも先に、ケリーのハドウィンがサラの後ろで声を上げた。すると、その声に気がついたのだろう。ぱっとガーヴィンがこちらに視線を向け、大きな目を益々大きく見開いた。その口の形がサラの名前を描いた。



(あ、バレてしまったわ。)




 一瞬狼狽えてしまったサラは、きょろっと後ろに控える侍女達の方に視線をやった。その視線の先、ケリーとハドウィンは睨みつけるようにガーヴィンを見ている。
 あ、敵認定されちゃってる。どうしよう。

 







 
 
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

私のことはお気になさらず

みおな
恋愛
 侯爵令嬢のティアは、婚約者である公爵家の嫡男ケレスが幼馴染である伯爵令嬢と今日も仲睦まじくしているのを見て決意した。  そんなに彼女が好きなのなら、お二人が婚約すればよろしいのよ。  私のことはお気になさらず。

思い出さなければ良かったのに

田沢みん
恋愛
「お前の29歳の誕生日には絶対に帰って来るから」そう言い残して3年後、彼は私の誕生日に帰って来た。 大事なことを忘れたまま。 *本編完結済。不定期で番外編を更新中です。

25年の後悔の結末

専業プウタ
恋愛
結婚直前の婚約破棄。親の介護に友人と恋人の裏切り。過労で倒れていた私が見た夢は25年前に諦めた好きだった人の記憶。もう一度出会えたら私はきっと迷わない。

嘘つきな唇〜もう貴方のことは必要ありません〜

みおな
恋愛
 伯爵令嬢のジュエルは、王太子であるシリウスから求婚され、王太子妃になるべく日々努力していた。  そんなある日、ジュエルはシリウスが一人の女性と抱き合っているのを見てしまう。  その日以来、何度も何度も彼女との逢瀬を重ねるシリウス。  そんなに彼女が好きなのなら、彼女を王太子妃にすれば良い。  ジュエルが何度そう言っても、シリウスは「彼女は友人だよ」と繰り返すばかり。  堂々と嘘をつくシリウスにジュエルは・・・

あなたなんて大嫌い

みおな
恋愛
 私の婚約者の侯爵子息は、義妹のことばかり優先して、私はいつも我慢ばかり強いられていました。  そんなある日、彼が幼馴染だと言い張る伯爵令嬢を抱きしめて愛を囁いているのを聞いてしまいます。  そうですか。 私の婚約者は、私以外の人ばかりが大切なのですね。  私はあなたのお財布ではありません。 あなたなんて大嫌い。

許婚と親友は両片思いだったので2人の仲を取り持つことにしました

結城芙由奈@コミカライズ3巻7/30発売
恋愛
<2人の仲を応援するので、どうか私を嫌わないでください> 私には子供のころから決められた許嫁がいた。ある日、久しぶりに再会した親友を紹介した私は次第に2人がお互いを好きになっていく様子に気が付いた。どちらも私にとっては大切な存在。2人から邪魔者と思われ、嫌われたくはないので、私は全力で許嫁と親友の仲を取り持つ事を心に決めた。すると彼の評判が悪くなっていき、それまで冷たかった彼の態度が軟化してきて話は意外な展開に・・・? ※「カクヨム」「小説家になろう」にも投稿しています

幼馴染と仲良くし過ぎている婚約者とは婚約破棄したい!

ルイス
恋愛
ダイダロス王国の侯爵令嬢であるエレナは、リグリット公爵令息と婚約をしていた。 同じ18歳ということで話も合い、仲睦まじいカップルだったが……。 そこに現れたリグリットの幼馴染の伯爵令嬢の存在。リグリットは幼馴染を優先し始める。 あまりにも度が過ぎるので、エレナは不満を口にするが……リグリットは今までの優しい彼からは豹変し、権力にものを言わせ、エレナを束縛し始めた。 「婚約破棄なんてしたら、どうなるか分かっているな?」 その時、エレナは分かってしまったのだ。リグリットは自分の侯爵令嬢の地位だけにしか興味がないことを……。 そんな彼女の前に現れたのは、幼馴染のヨハン王子殿下だった。エレナの状況を理解し、ヨハンは動いてくれることを約束してくれる。 正式な婚約破棄の申し出をするエレナに対し、激怒するリグリットだったが……。

お飾りの侯爵夫人

悠木矢彩
恋愛
今宵もあの方は帰ってきてくださらない… フリーアイコン あままつ様のを使用させて頂いています。

処理中です...