【完結】ただ好きと言ってくれたなら

須木 水夏

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どこで覚えた土下座

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「サラ…!」



 ガーヴィンの声が聞こえたと思ったら、彼はそのままサラの目の前に両膝を付き頭を地面にすり付けたのだった。



「…えっ?」

「ごめんなさい!!」


 

 足元の烟るような白金髪にサラは思わず目が点になった。
 片膝を折り、胸に片手を当てて頭を垂れる形がこの国の一般的な謝罪の仕方である。
 「ごめんなさい」と言っているからには、これも一種の謝り方なのだろうが、初めて見る謝罪の形だった。しかも、ガーヴィンが勢いよく頭を下げた時に「ゴンッ!」と鈍い音がした気がする。頭は無事なの?

 サラ達の周りには先程と同じように植物を鑑賞していた人々がいた。ガーヴィンの大声による謝罪で、今では彼らは皆、今度は何事かとこちらを興味津々に見つめている。


 あ、この状況はあんまり良くないわ。社交界的にもガーヴィンの将来的にも。
 サラはドレスが地面につくのも構わずに咄嗟に屈むと、こそっと小さな声で彼に耳打ちした。


「ちょ、ちょっと、ガヴィ?頭が汚れてしまうから辞めてちょうだい?」
「頭が汚れる事なんかどうだっていい!」



 なんで更なる大声で返すの?通路の向こう側にいる人も今ので振り返ったんですけど。



「良くないわよっ…。ほ、ほら、人も見ているし」
「でもサラが怒っている!」
「…怒っていないわ。」
「嘘だ!」



 バッと顔を上げたガーヴィンのおでこはやはり赤くなっていた。その大きな空色の目からも、今にも涙が零れ落ちそうになっている。ああ、そんな顔しないで欲しいわ。私が貴方の泣き顔に弱いことを知っているでしょう?というか、泣き顔になると色気の度合いが増すのはどうして?
 でも顔を見てくれた。今度はちゃんと焦点があっているし、聞くなら今だとサラは思った。



「先程の方はローゼマリア様かしら?」
「?!知って…?」
「あの髪の色と目の色では、誰だって分かってしまうと思うわ。」
「……。」
「…理由をきちんと話してくれるのかしら?」
「……。」
「あら?だんまりになってしまうの?」



「…ハーヴェイ殿下のところに行って、サラに話しても良いのか確認を取ってから…。」


 小さく呟くように言いながら、悪いことをした子どもみたいにガーヴィンはしょげてしまっている。サラはよしよし、といつも通りにその頭を撫でてあげたくなったけれど、ぐっと我慢した。
 マルベリア様達の言っていた通り、第三王子ハーヴェイ殿下絡みだったのだわ。何かしらの要望があったのは分かったわ。

 納得したわ。

 …いえ、全然納得できないわ。


 要望でも何でも、三回も私の知らないところで彼女と会っていたなんて。頭では分かっていても心が波立ってしょうがない。私だって腕を組んで歩いたりまだあまりした事がないのに。(お父様に結婚してからにしなさい!と止められているから)



「ねえ、ガヴィ。」
「…はい。」
「さっき殿下は、とローゼマリア様に言っていたわ。今回だけでは無いのかしら?」
「……。」
「……。」


 教えてくれないのね?


「婚約をかい「解消なんてしない!」
「…解消したくないのであれば、誤解をさせるようなことをしないで?」
「はい。すみません。」
「…ガヴィって私の事好きなのかしら?」
「当たり前…!」
「今日まで好きだと一度も言ってくれていないわ。」
「……。」




 サラがそう言うと、忽ち空色の瞳が長い睫毛に閉じ込められてしまう。あら。こう言っても言ってくれなのね。サラは心の中で大きくため息をついた。


 正直、ガーヴィンがサラの事を好きなのは彼が言ったように、の事実なのだ。
 どこからどう見ても誰から見ても。
 彼は幼馴染であり婚約者のサラの事が大好きであったし、言葉にはせずともその愛はこの十一年間存分に伝わってきていた。好かれていないかもしれない、なんて本気で考えたりはしていない。(ローゼマリアと二人でいた所を見た日には普通に嫉妬をしてしまったから、ちらりと心に浮かんでしまったけれど。)
 だから、今回の事もサラはガーヴィンが浮気をするだろう等一ミリも考えていなかった。不安に思っていた訳では無い。ただ、正直に話してくれていない事に不満を抱いただけなのである。


 本当は分かっているのだ。

 そもそも彼がサラに「好き」と言ってくれなくなったのは、なのだということも。













 

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