16 / 87
どこで覚えた土下座
しおりを挟む「サラ…!」
ガーヴィンの声が聞こえたと思ったら、彼はそのままサラの目の前に両膝を付き頭を地面にすり付けたのだった。
「…えっ?」
「ごめんなさい!!」
足元の烟るような白金髪にサラは思わず目が点になった。
片膝を折り、胸に片手を当てて頭を垂れる形がこの国の一般的な謝罪の仕方である。
「ごめんなさい」と言っているからには、これも一種の謝り方なのだろうが、初めて見る謝罪の形だった。しかも、ガーヴィンが勢いよく頭を下げた時に「ゴンッ!」と鈍い音がした気がする。頭は無事なの?
サラ達の周りには先程と同じように植物を鑑賞していた人々がいた。ガーヴィンの大声による謝罪で、今では彼らは皆、今度は何事かとこちらを興味津々に見つめている。
あ、この状況はあんまり良くないわ。社交界的にもガーヴィンの将来的にも。
サラはドレスが地面につくのも構わずに咄嗟に屈むと、こそっと小さな声で彼に耳打ちした。
「ちょ、ちょっと、ガヴィ?頭が汚れてしまうから辞めてちょうだい?」
「頭が汚れる事なんかどうだっていい!」
なんで更なる大声で返すの?通路の向こう側にいる人も今ので振り返ったんですけど。
「良くないわよっ…。ほ、ほら、人も見ているし」
「でもサラが怒っている!」
「…怒っていないわ。」
「嘘だ!」
バッと顔を上げたガーヴィンのおでこはやはり赤くなっていた。その大きな空色の目からも、今にも涙が零れ落ちそうになっている。ああ、そんな顔しないで欲しいわ。私が貴方の泣き顔に弱いことを知っているでしょう?というか、泣き顔になると色気の度合いが増すのはどうして?
でも顔を見てくれた。今度はちゃんと焦点があっているし、聞くなら今だとサラは思った。
「先程の方はローゼマリア様かしら?」
「?!知って…?」
「あの髪の色と目の色では、誰だって分かってしまうと思うわ。」
「……。」
「…理由をきちんと話してくれるのかしら?」
「……。」
「あら?黙りになってしまうの?」
「…ハーヴェイ殿下のところに行って、サラに話しても良いのか確認を取ってから…。」
小さく呟くように言いながら、悪いことをした子どもみたいにガーヴィンはしょげてしまっている。サラはよしよし、といつも通りにその頭を撫でてあげたくなったけれど、ぐっと我慢した。
マルベリア様達の言っていた通り、第三王子絡みだったのだわ。何かしらの要望があったのは分かったわ。
納得したわ。
…いえ、全然納得できないわ。
要望でも何でも、三回も私の知らないところで彼女と会っていたなんて。頭では分かっていても心が波立ってしょうがない。私だって腕を組んで歩いたりまだあまりした事がないのに。(お父様に結婚してからにしなさい!と止められているから)
「ねえ、ガヴィ。」
「…はい。」
「さっき殿下はまたその男と、とローゼマリア様に言っていたわ。今回だけでは無いのかしら?」
「……。」
「……。」
教えてくれないのね?
「婚約をかい「解消なんてしない!」
「…解消したくないのであれば、誤解をさせるようなことをしないで?」
「はい。すみません。」
「…ガヴィって私の事好きなのかしら?」
「当たり前…!」
「今日まで好きだと一度も言ってくれていないわ。」
「……。」
サラがそう言うと、忽ち空色の瞳が長い睫毛に閉じ込められてしまう。あら。こう言っても言ってくれなのね。サラは心の中で大きくため息をついた。
正直、ガーヴィンがサラの事を好きなのは彼が言ったように、当たり前の事実なのだ。
どこからどう見ても誰から見ても。
彼は幼馴染であり婚約者のサラの事が大好きであったし、言葉にはせずともその愛はこの十一年間存分に伝わってきていた。好かれていないかもしれない、なんて本気で考えたりはしていない。(ローゼマリアと二人でいた所を見た日には普通に嫉妬をしてしまったから、ちらりと心に浮かんでしまったけれど。)
だから、今回の事もサラはガーヴィンが浮気をするだろう等一ミリも考えていなかった。不安に思っていた訳では無い。ただ、正直に話してくれていない事に不満を抱いただけなのである。
本当は分かっているのだ。
そもそも彼がサラに「好き」と言ってくれなくなったのは、彼自身の過去が原因なのだということも。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
【お知らせ】
土日は更新は1本のみです٩( ᐖ )و ̑̑ ♪
また月曜日からよろしくお願いします~(_*˘꒳˘*)_
450
あなたにおすすめの小説
私のことはお気になさらず
みおな
恋愛
侯爵令嬢のティアは、婚約者である公爵家の嫡男ケレスが幼馴染である伯爵令嬢と今日も仲睦まじくしているのを見て決意した。
そんなに彼女が好きなのなら、お二人が婚約すればよろしいのよ。
私のことはお気になさらず。
思い出さなければ良かったのに
田沢みん
恋愛
「お前の29歳の誕生日には絶対に帰って来るから」そう言い残して3年後、彼は私の誕生日に帰って来た。
大事なことを忘れたまま。
*本編完結済。不定期で番外編を更新中です。
嘘つきな唇〜もう貴方のことは必要ありません〜
みおな
恋愛
伯爵令嬢のジュエルは、王太子であるシリウスから求婚され、王太子妃になるべく日々努力していた。
そんなある日、ジュエルはシリウスが一人の女性と抱き合っているのを見てしまう。
その日以来、何度も何度も彼女との逢瀬を重ねるシリウス。
そんなに彼女が好きなのなら、彼女を王太子妃にすれば良い。
ジュエルが何度そう言っても、シリウスは「彼女は友人だよ」と繰り返すばかり。
堂々と嘘をつくシリウスにジュエルは・・・
あなたなんて大嫌い
みおな
恋愛
私の婚約者の侯爵子息は、義妹のことばかり優先して、私はいつも我慢ばかり強いられていました。
そんなある日、彼が幼馴染だと言い張る伯爵令嬢を抱きしめて愛を囁いているのを聞いてしまいます。
そうですか。
私の婚約者は、私以外の人ばかりが大切なのですね。
私はあなたのお財布ではありません。
あなたなんて大嫌い。
許婚と親友は両片思いだったので2人の仲を取り持つことにしました
結城芙由奈@コミカライズ3巻7/30発売
恋愛
<2人の仲を応援するので、どうか私を嫌わないでください>
私には子供のころから決められた許嫁がいた。ある日、久しぶりに再会した親友を紹介した私は次第に2人がお互いを好きになっていく様子に気が付いた。どちらも私にとっては大切な存在。2人から邪魔者と思われ、嫌われたくはないので、私は全力で許嫁と親友の仲を取り持つ事を心に決めた。すると彼の評判が悪くなっていき、それまで冷たかった彼の態度が軟化してきて話は意外な展開に・・・?
※「カクヨム」「小説家になろう」にも投稿しています
幼馴染と仲良くし過ぎている婚約者とは婚約破棄したい!
ルイス
恋愛
ダイダロス王国の侯爵令嬢であるエレナは、リグリット公爵令息と婚約をしていた。
同じ18歳ということで話も合い、仲睦まじいカップルだったが……。
そこに現れたリグリットの幼馴染の伯爵令嬢の存在。リグリットは幼馴染を優先し始める。
あまりにも度が過ぎるので、エレナは不満を口にするが……リグリットは今までの優しい彼からは豹変し、権力にものを言わせ、エレナを束縛し始めた。
「婚約破棄なんてしたら、どうなるか分かっているな?」
その時、エレナは分かってしまったのだ。リグリットは自分の侯爵令嬢の地位だけにしか興味がないことを……。
そんな彼女の前に現れたのは、幼馴染のヨハン王子殿下だった。エレナの状況を理解し、ヨハンは動いてくれることを約束してくれる。
正式な婚約破棄の申し出をするエレナに対し、激怒するリグリットだったが……。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる