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告げ口厳禁で
しおりを挟むガーヴィンは本当に任務の真っ最中だったらしく、未練がましくこちらを振り返りながら、後ろ髪を引かれるように城へと戻っていった。
サラは侍女のケリー達とそのまま植物園の中でぼんやりと過ごすのも悪くないわね、と一瞬考えたが、周囲からの痛い視線に気づくとそんな余裕は吹き飛んだ。仕方なく、軽くため息をついてその場を早々に後にする。
馬車に乗り、流れる景色を眺めながら、サラは先ほどの出来事を思い返していた。
…絶対に、あの後マクベス殿下はローゼマリア様を城に連れ帰ったはず。
だが、たとえ連れ帰ったとしても、彼女が行き来できるのは奥の宮や限られた敷地内のみ。正妃様がそれを許さないので、本城には入れない決まりだ。
(城の中でまた一悶着起こっていそう…。ガヴィは大丈夫かしら?)
先程別れた婚約者の意気消沈した顔が脳裏に浮かび、サラはもう一度小さくため息をついた。
(でも……)
マクベス殿下は、今後一体どうするつもりなのだろうか。
皇太子殿下には既に王妃様の出身国とは別の友好国から迎えた妃がいる。それ以下の王子たちも、未来に憂いがないようそれぞれ政略的に良縁を結ばされる運命だ。マクベス殿下がそうであったように。
であるのにも関わらず、あの体たらく。
マルベリア様とマクベス殿下の婚約解消は決定的だろう。マルベリア様本人が「もう良いわ」と言い切っている以上、表向きには問題はない。(もちろん、王家と公爵家の考えは違うかもしれないけれど。)
けれど、たとえその婚約が解消されたとしても、マクベス殿下がローゼマリア様と結婚するのはほぼ不可能だ。たしかに彼女には王家の血が流れている。けれど、それでも彼女は平民なのだから。
(しかも本人は「いやあよ」なんて軽い一言で拒否していたわ。
……マクベス殿下が王子であることを辞めれば、道は開かれるのかもしれないけれど。)
そんな想像を巡らせながら、サラは思った。ローゼマリア様は愛妾として生きる道を選びたいのかもしれない、と。貴族の子息であるガーヴィンを狙っている様子を見る限り、それは確信に近い。
(でも、分からないのは平民にもちょっかいをかけているってところよね?)
マルベリアは言っていた。「貴族どころか平民にも沢山いるんじゃないかしら」と。彼女の想像かもしれないが、恐らくそれが彼女の間者の報告なのだろう。平民に秋波を送ったところで、愛妾になれる可能性は限りなく低い。商人や裕福な平民であれば別なのかもしれないが。
「…お嬢様、眉間にシワが寄っておりますよ。」
「あら、ほんと?嫌だわ。」
サラは頭を小さく振ると眉間をぐりぐりマッサージをした。
「…ねえ、ケリー。」
「はい、なんで御座いましょう?」
「さっき見たあれ、お父様には黙っておいてね?」
「ええ?!どうしてです?」
不満顔のケリーを見て、サラはあ、やっぱ告げ口する気満々だったのねと思った。そんな事したらお父様がガーヴィンに何するのか分からないじゃない。お母様なら「ガーヴィン君に限ってそれはない」って真顔で言ってくれそうだけど、父は娘可愛さに目が曇りに曇っているから絶対に駄目。
「兎に角。駄目よ。」
「…解りました。」
渋々、といった様子で納得したケリーにほっと胸を撫で下ろしたサラだったけれど。
「あの童!どうしてくれようか…!!」
屋敷に帰って暫くして、階下で父がカンカンに起こっている声が聞こえてきて、少女ははたと気がついた。
「ハドウィンに口止めするの忘れてた。」
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