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早まるお父様
しおりを挟む「…お父様。」
部屋に入ると、顔を真っ赤にして怒り心頭の父が室内を行ったり来たりしていた。そして、サラを一目見るや否や口を開いた。
「サラ!あの男との婚約を解消する準備を進めよう!」
……やっぱり。そう言うと思っていたわ。まったく、これで何度目かしら。
サラは大げさにため息をついてみせた。
「しません。」
「いいんだぞ?今なら慰謝料もぶんどってやろう!」
「し ま せ ん。だいたい、ガヴィは不貞なんて働いていませんから、お金なんて取れません。」
そうなのだ。父はことあるごとに、サラとガーヴィンの婚約を解消させようと画策してくるのだ。
昔、母同士が率先して決めた婚約話に、父はにこにこ聞き役に徹していただけだった。(サラは産まれたてであったし、その時の状況も本当の事は知らないけれど。)だがサラが成長するにつれ、娘の愛らしさ、可愛らしさに目覚めてしまい、他家に嫁がせるのが惜しくなってしまったのでしょうね――と母は語る。
ちなみに、ガーヴィンには妹がいて我が家の弟と結婚させる予定である。
「また娘が出来るのよ?交換条件という形で良いじゃない」と母が言った時、父は「いやそうなんだけど、でも違うんだ!」と言ったらしい。…それは、そう。
まあそれは置いといて。
「うぐぅっ……。うちの娘はなんて優しいんだ……。あんな、あんな顔だけの男になんてやれるか!」
「お父様……ガヴィは顔だけじゃありません。」
むっと明らかに機嫌を損ねたサラに、父は慌てて言い募る。
「ああ、違うんだ、サラ!そうじゃない!私は……私はただ、お前を嫁に出したくないだけなんだ!」
「まだ嫁ぎませんよ、お父様。」
この家から離れるのには少なくとも後三年はある。二歳年下の弟が経営学を学び終えるのを待つ必要があるからだ。先の事を考えすぎなのよお父様は。
「そうだとしても、いつか行ってしまうだろう?」
「私を可愛いと思ってくれるのは嬉しいですが、いつまでも嫁に行かなければ困るのはお父様ですよ。」
「? 何故困るんだ?全然困らないぞ?」
(あ、本気で困らないと思っているわね。)
いやそれではサラが困る。
「兎に角、ガーヴィンとお別れするつもりはありません。それより……お父様、ハドウィンからどんな報告を受けたのですか?」
「あの童が、平民の女と腕を組んでイチャイチャしていた、と聞いたぞ。」
「……あら。」
(ローゼマリア様だっていうのは、伝えなかったのかしら?)
「その相手が、まさかアマルナ様のお子だとはな……。厄介なことをしおって……!」
(聞いてるじゃないの!)
またしても父の額に青筋が浮かぶ。サラも内心では確かに面倒なことを抱え込んでくれたわね、と思わざるを得なかった。
恐らく、ガーヴィンのローゼマリア様に関する行動の裏には、ハーヴェイ殿下の命令が絡んでいるのだろう。もしかすると、ちょっと危険なことも含まれているのかもしれないわね。それで黙っているのだとしたら。
「……厄介ですわね。」
「!! 婚約解消を――」
「しませんてば。」
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