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何故僕が?【ガーヴィン視点】
しおりを挟む「……とんでもない女に目をつけられてしまったな、ガーヴィン。」
「……。」
ガーヴィンは、不愉快極まりない顔をしたまま第三王子をジトッと見つめる。その視線に耐えかねたのか、ハーヴェイ殿下は軽く咳払いをした。
ここは、ハーヴェイ殿下の執務室。他にも側近候補として呼ばれたルベリオ・テンザール侯爵子息とサントス・シュライ辺境伯爵令息がそれぞれの席に腰掛けている。
先ほどの一件について、ガーヴィンが何が起きたのかを説明したところ、二人の表情は妙に神妙だった。
その反応が気になったガーヴィンが問いかけようとする前に、ハーヴェイ殿下が口を開く。
「少し前に、この二人も彼女の被害に遭っている。」
「……は?」
短い一言が、執務室に重たく響く。
「いや、分かる。分かるよ。でもその『は?』の言い方、ちょっと怖いからね?やめてくれ。」
「……。」
聞けば、彼女は城内に住んでいるのを良い事に、城にやってくる男達に見境なく声をかけているらしい。
「情けない事に引っかかってしまうやつもいてね。」
ハーヴェイはちらり、ルベリオとサントスに目を向けた。二人は慌てて「ちょっと抱きつかれただけです!」「ちょっとだけ鼻の下が伸びただけです!」と言った。
「そうだな、君達は靡きそうになったけれどその都度運良く私が通りかかって事なきを得たな。でもルベリオは婚約を解消されかかっているし、サントスは婚約者に打たれて泣いた。」
そう言われると、二人は一斉にしょんぼりと頭を垂れた。結構大変なことになっているようだ。
なまじ見た目が良い彼女は、一瞬で異性を虜にしてしまうらしい。ガーヴィンは効かなかったが。
ハーヴェイは机の上に置いてあった書類の束を軽く指で叩いた。そしてそれをガーヴィンへと寄越す。ぺら、と一枚捲るとそれは王家の影による報告書のようだった。
「あれはただの平民だ。本来ならば何も問題はないはずだが……。」
彼は一息ついて言葉を続ける。
「あれは既に男を知っているらしい。」
「……。」
部屋の中にいた男達はみんなあんぐりと口を開けた。この国では宗教的な観点から、結婚をする迄は貞操を守る事を決められている。それは貴族であっても平民であっても変わらない。身体の中に「魔」が入るのを防ぐ為という理由だが、単純に国が性によって乱れる事を良しとされていないからだ。
「しかも、貴族や平民を問わず、爵位持ちにまで手を伸ばしている。これは放置できない問題だ。」
その言葉に、ルベリオが顔をしかめながら口を挟む。
「まさか、マク…王族の血を引く子でも孕んでいるのでは……?」
「いや、兄は脳筋の癖に意外にも奥手でね。まだだ。だが、その可能性が今後否定できないのが厄介なんだ。」
ハーヴェイは苛立たしげに机を軽く叩いて大きくため息をついた。
「あれが騒ぎを起こすたびに、婚約破棄や解消が続出している。貴族間の対立や信頼関係の損失が国の利益を損なっている。」
「…うわー…。」
「引くな。」
私だって引いているんだ、とハーヴェイは眉根を寄せた。
「あれの母親もその手の面ではかなり手練だったらしいが、それでも力を持つ父がいた。
王妃の案を飲み、妾を城内に閉じ込めることで争い事に巻き込まれないようにしてやった。ある意味優しさというものだ。」
「…その娘は?」
「…父王も、扱いに困っている。自分の娘だが王位継承権はないし特に可愛いとも思っていないようでね。
けれど、その血の半分は確かに王族のものであるし、その事は平民の子どもでも知っている。仮に、我が国を狙う敵国にでも攫われて子を孕まされでもしたのなら危険分子になり得ないとも言えない。
だから成人すれば名を廃し、彼女を北の修道院へと入れるとしていた。」
「同意ですね。」
「…遅いと思わないか?」
「はい?」
「あれが成人するまであと二年もあるんだ。もっと早くに対応するべきだった。
それで、だ。」
何が悪い予感がする。
「ガーヴィン。囮になってくれないか?」
「は?」
※この国の成人は20歳です(~¯︶¯)~
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