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やってくれたな【ガーヴィン視点】
しおりを挟むサラが襲われていたその時。
ガーヴィンはよりにもよって城の中にいた。サラに手紙に話していた通り、正に缶詰状態だったからだ。
前日に一度伯爵家に戻り、昨夜分の婚約者への手紙を書き、「もう帰りたい」と顔に書いてある従者に押し付けてもう一度登城した。
「サラに会えない事がこんなに辛いとは……。」
苦虫を潰したような顔で呟きながら、ガーヴィンは馬車へと乗った。その顔色は優れず、とても疲れているように見えた。
愛しい少女に会えなくなってから、一週間。ガーヴィンはあまりよく眠れなくなった。非常に夢見が悪いのだ。サラと一緒に毎日過ごしている内は、全く見ていなかったあの夢をまた見るようになってしまっていた。
幼少の頃に繰り返し見ていた、恐らくガーヴィンのトラウマの元の黒い影のような女の夢。
それは、昔のように此方に近寄ってくる訳では無い。何故ならば夢の中ではガーヴィンの隣にはサラがいるから。
けれど、こちらを陰気に見つめる視線に夢の中だとしても晒されていたくなくて、ガーヴィンの眠りはよく中断された。
「はあ。不毛すぎる。」
いくら王家の為の仕事の為とはいえ、自分の好きな人にも会えず、そのせいで悪夢を見て眠りも浅く、生産性が下がっているのは本当に頂けない。文句を垂れつつも彼がハーヴェイの言う事を聞いているのは、今後のサラの将来、ひいては自身の将来にも関わってくる事だからだ。
(回りくどいやり方だ。)
効率の悪さに内心呆れながらも、簡単に解決できる問題ではないため、慎重に周囲から固めている。
その作業に没頭して学業を休むほど急いでいた理由は、ハーヴェイ殿下から「サラが襲われる可能性がある」と聞かされたからだった。
そしてちょうど運良く、襲撃による怪我の治療のため、しばらくミガンの静養地で療養していた伯爵令嬢が王都へと戻ってきた。
彼女は自分を庇って命を落とした騎士への誓いを果たすべく、襲撃者を必ず捕らえ罪を償わせたいと、密かに連絡を取っていたハーヴェイに決意を表明した。その際、襲撃当日に目撃した《男》の情報を詳細に語ってくれたおかげで、この短期間で《相手》を追い詰めるための証拠が揃った。
「あともう少し。あともう少しでサラに会える……。」
ガーヴィンの寝不足による疲労感とイライラはピークだったが、作業が終わればサラに会える――今はそれだけが彼を支えていた。
それなのに。
「おそ、われた?」
「本当にすまない。」
「どういう事です?騎士は?影は?」
「すまない、近くで見ていた。いや違う、確実に捕らえる為に待っていたら、出遅れてしまって……。」
「はあ?!」
「ウィントマン嬢に怪我はない!」
目の前で深く頭を下げるハーヴェイに、ガーヴィンはパクパクと口を動かす。その顔が怒りで真っ赤に染まるまでに時間はかからなかった。
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