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警告【ガーヴィン視点】
しおりを挟む「サラに怪我が無かったと言えば、私が納得するとでも?」
「あ、いや、その……。」
「私の婚約者を護るという約束を果たせず、挙句の果てに危険に晒した時点で、貴方はただの嘘つきだ。」
ガーヴィンの言葉が響くたび、部屋の空気は凍りついていく。
彼は一瞬、怒りで血流が顔に集まったように見えたものの、次の瞬間には氷のように冷え、感情が見えない静かな表情へと変わった。いつもの人形のような無表情だが、その静けさの裏には、荒れ狂う嵐のような怒りが渦巻いている。
だが、その怒りがかえって彼を冷静にし、凶器のような言葉を紡がせていた。
「誰が怪我をしたんです?」
「え……?」
「貴方の曖昧な言い方から察するに、サラ以外の誰かが怪我を負ったということですよね?」
「あ、ああ……。彼女を庇ったお付の侍女だ。」
ガーヴィンは即座に思い至った。幼い頃からサラの傍に寄り添い、姉のように彼女を守ってきたケリーという侍女のことだ。サラが心から大事に思う存在を、目の前の男は傷つけたのだ。
心優しいサラのことだ、ケリーの怪我に泣き、責任を感じているに違いない。そんな彼女の涙を思うだけで、ガーヴィンの中の怒りはさらに燃え上がる。腸が煮えくり返るとはこのことだ。王族の為に仕方なく協力してやったのに、返ってきた結果がこの有様とは。巫山戯るな。
「貴方は、王族と貴族との間での約束事を軽んじていらっしゃるのではありませんか?」
「そ、そんなことはない!決してない!」
「本当にそうでしょうか?護る意思が本当にあったのなら、侍女を含めて誰一人傷を負わないようにするべきだった。それが出来なかった時点で、護るつもりなど無かったと言われても仕方ないでしょう。」
「……ガーヴィン、申し訳ない……。」
ハーヴェイの謝罪にも、ガーヴィンの目は冷たく、容赦がなかった。その視線は冷鋼の刃のようで、第三王子を切り裂く勢いだ。
「第三王子殿下。」
低く硬質な声に、ハーヴェイは肩をびくりと震わせる。恐る恐る視線を上げるが、その先に待っているのは一片の同情も無いガーヴィンの冷酷な表情だけだった。
「我々王族派閥を、何でも言うことを聞く便利な駒だと思わないでいただきたい。私たちが貴方方王族を支持しているのは、領民の為、自分自身の為に過ぎません。もしも今後も囮に使って良いとお考えなのであれば、こちらも支持する先を変えさせていただきます。」
「ガ、ガーヴィン、それは些か言い過ぎ……」
「言い過ぎだと本当に思っていますか?己が守れなかった成約の結果を見てなお、言い過ぎだと?」
最後の一言は、まるで刃を突きつけるような響きだった。ガーヴィンの瞳に宿る冷徹な怒りは消えることなく、彼の言葉をさらに重くしていた。
俯き、下を向いてしまったハーヴェイを一瞥するとガーヴィンは「兎に角、私は婚約者の元へと向かいますので。失礼致します。」と言い、そのまま部屋を後にした。
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