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もう一人の黒幕
しおりを挟むフレデリック殿下の言葉は、サラ達の心に不穏な音に聞こえた。
「……わ、私は。」
フレデリック殿下の鋭い視線に射抜かれた公爵は、口を開こうとしたが、震える唇から声は出ない。
王太子の言葉に、サンドラルド公爵は視線をホール内に彷徨わせた。冷や汗がその額より滑り落ちたのが、サラには見えた。
「貴方の娘は、罪によりその身分を失う。貴方自身も逃れられない罪をその手に抱えているようだ。
話を聞いていこうか。
──まず、ローゼマリアを城から逃すのを手引きしたのは公爵、貴方の手の者だろう。」
「ば、馬鹿なことを!私は何も知らない!全てはマルベリアが勝手に……!」
「知らぬで済むわけがないだろう。
娘に間者を使う事を許し常に庶子の周りを嗅ぎ回り、マルベリア嬢が彼女を攫う機会を窺っていたのを、貴方は知っていた。
それを黙って見すごしていたのは、何故だ?」
その言葉に、静まり返ったホールの中で再びざわりと人々がどよめいた。
「理由は幾つか考えられる。貴方は嘗てサンドラルド家が持っていた王位継承権の復興をずっと願っていた。」
「……。」
「貴方はまず二つの事を考えた。
一つは現王の血を引く子どもをサンドラルド公爵家に取り込む事。
そして、もうひとつは現王の血を引く子どもを自身で孕ませてしまうことだ。」
「な、何を」
しどろもどろになりながら、視線を逸らす公爵の顔を、フレデリック殿下は強い視線でじっと見つめていた。
「城の一兵卒の振りをしてローゼマリアに近づき、彼女に何度も不埒な真似を行っていただろう?子どもを作るために。」
「そんなことはしていない!」
「言い訳はできない。私の影は何もかも見ていたのだから。
貴方はそもそも、妾のアマルナをウルクに近づけた人物だ。アマルナは初めは貴方に近づこうとしていたのだろう?それを上手く利用して孤独を感じているウルクにあてがった。
貴方はその見分けが付きやすい自分の見た目をもっと隠すべきではなかったのかな?
銀髪に黒い目は、滅多に兵士には存在するものでは無い。その髪色と瞳を辿ると、こんなにも呆気なく貴方が行ってきた悪事が暴かれるのだから。」
自分の娘とそう変わらぬ年頃の娘に手を出していたという衝撃に、ホール内はなんとも言えない雰囲気になった。
貴族の結婚にて、経済的な面から年上の男性へと政略的に嫁ぐことはままある事だ。父と子程に歳が離れていてもおかしくは無い。
しかし、公爵が行っていた内容はそのような類のものとは意味合いが違う。ただ気色の悪い話だった。
「貴方とローゼマリアがしていた会話内容も、全て影に記録させている。大方、現王を嫌う者達の目星でも付けて味方につけたかったのだろうが、上手くは行かなかったようだな。
私の妹は何せ教養がなかった。
覚えた貴族達の名前は間違えだらけ、礼儀を注意されたのか、それとも自身の在り方を注意されたのか、それすら理解しておらず、そして全てを悪いと貴方に報告していた。
そして彼女は、自分では気がついていなかったが、長い間の男性との行為にて心身を共に壊していた。……放って置いても元々そう長くは生きられなかっただろう。」
そこまで言うと、フレデリック殿下は鋭い眼光を放ちながら公爵を見据えた。
「──だが、貴方の真の狙いはそこじゃない。本当の理由は、王族に対する根深い不満だ。」
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