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サンドラルド公爵
しおりを挟む「先々代の王と貴方の曽祖父は、戦国の最中、血の契りをした兄弟であった。
このことは国の歴史としても記されている出来事だ。誰でも知っている。
その後の国に、平和を齎した功労者である先王と、その補佐役であった先公爵――。
一見、歴史の中で光が当たって見えるのは先王だ。だが、学識や才覚では貴方の父の方が実は優れていたという文献も少なくは無い。
貴方はそれを根拠に、サンドラルド家こそが、この国の真の王位継承者だと思ったのではないか?」
「……そんなことは」
フレデリック殿下の視線から逃れるように、公爵は目を逸らした。
「無い、と本当に言い切れるか?
我が父であるウルクが王太子に選ばれた時分、貴方は何を思った?
――自身より能力も才も劣る者が、なぜ王になれるのかと疑問に思っただろう。
その疑問が、長年にわたる王家への不信と憎悪へと変わったのではないか?」
サンドラルド公爵は何も答えなかった。彼の沈黙は、殿下の追及をさらに際立たせた。
「貴方は私が幼い頃、こんなことを言った。
『ウルクは中継ぎの王。もし貴方様のような方が最初から王太子であれば、余計なことをせずに済んだのに』と。
貴方は幼子だった私に、独り言のように呟いただけのつもりだったのだろう。
けれど、私はその言葉の意味をずっと考え続けた。」
ホールに静寂が訪れる中、フレデリック殿下は一歩前に進み、厳かな声を響かせた。
「ウルクは確かに凡庸だったかもしれない。王太子、そして王として凡庸であっただけで、才能がまるでなかった訳では無い。私は子であったから知っている。あの人は足りないと思われていただけで、欠けていた訳では無い。
ただ彼は最初から認められていなかった。なぜ王家の周囲は、彼を認めなかったのか。
影で嘲笑い、時に直接言葉の刃を向ける者までいた――その原因は何だったのか?」
殿下の目がサンドラルド公爵を鋭く見据える。
「それは、貴方がそうなるように周りを先導したからだ。」
殿下の言葉がホールに響き渡り、誰もが息を飲んで彼を見つめた。言葉を失った公爵の姿に、ホール全体が静まり返っていた。
暫くの静寂の中、サンドラルド公爵は一度目を閉じ、そして微かに笑った。その、乾いた笑いには皮肉と諦めが滲み出ていた。
「扇動……。何とも、恐ろしい言葉をお使いになりますね、殿下。」
「貴方が成したことに、それ以上相応しい言葉があるだろうか?」
フレデリック殿下の冷たい声が響くと、公爵は肩をすくめてみせた。
「私は何もしておりませんよ。ただ……少しだけ、手を加えたに過ぎません。」
「手を加えた?」
サンドラルド公爵はにこり、と人の良い笑みを浮かべた。サラはそこに彼の娘であるマルベリアの面影を見た。
「ええ、ほんの少しです。周りがウルクを愚か者だと思うように、多少の手助けをしただけです。
何も、嘘はついておりません。彼が何も出来なかったのは事実ですから。」
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