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観念と嘲笑
しおりを挟むフレデリック殿下の目が鋭く細められる。
「……具体的には、どんな手助けをしたのだ?」
「簡単ですよ。」サンドラルド公爵は穏やかに微笑み、肩をすくめて言った。
「彼のやること成すことに、全て文句をつけるんです。それだけで十分でした。周囲も自然と彼を低く見積もるようになる。そして、彼自身も――。」
「彼自身も?」
「勝手に落ち込み、勝手に自滅したのです。私はただ真実を指摘しただけ。彼の才能の無さを教えただけです。そして、その結果ウルクは血に飢えた殺人鬼となった。ただ、それだけの事です。」
その言葉に、ホール全体が凍りついたように静まり返る。その異様さに、誰も声を上げる事が出来なかった。
サンドラルド公爵の声は、今ではどこか余裕すら漂わせていた。まるで天気の話をしているかのような態度に、サラは思わず背筋が寒くなるのを感じた。彼の言葉の裏に隠された狂気を、本能的に感じ取ったからだ。他の貴族達も同じような思いなのだろう。
「私は、むしろ彼のために助言を与えたのですよ。彼が良くなるようにと。」
「助言、か。」
「ええ。そして、ローゼマリアのことも同じです。ウルクが見向きもしなかったものを私が使えると思って拾い上げただけです。何も悪いことではないでしょう?」
フレデリック殿下は、サンドラルド公爵の方へと一歩踏み出すと、言葉を重ねた。
「その助言とやらには、『第一王子ライルの代わりにお前が死ねば良かった』という言葉も含まれているのか?」
サンドラルド公爵の表情が僅かに歪んだ。
「──そんなことは……一言も。」
「貴方はウルクの腹心の振りをして近づき、彼に嘘を吹き込み、あるいは真実を曲げて伝えていたのだろう。
彼が王族派閥に認められず、周囲に蔑まれるよう仕向けたのも、全て貴方の仕業だ。その結果、貴方はウルクが最も欲した者をも取り上げた。」
フレデリック殿下の言葉は静かだが、その響きは鋭利だった。
「そんな男に、『王族派閥の貴族たちがこう言っている』となどと嘘を交えて吹き込めば、どうなるか――分かるだろう?」
公爵は一言も返せなかった。その場の空気がどんどん重くなる中、殿下はさらに追い詰めるように告げた。
「そして、ここ四年間の事件の中で、一件だけ解決していないものがある。四年前の、ある子爵令息と婚約者の令嬢が殺害された事件だ。」
「……!」
「その事件で、唯一生き延びた従者がこう証言している。『犯人は黒い目をしていたが、光の加減で青くも見えた』と。」
フレデリック殿下の目がサンドラルド公爵を貫いた。
「その特徴を持つ者は、この国でただ一人――今は貴方しかいない。」
周囲の視線が一斉に公爵の目へと注がれた。
額に滲んだ冷や汗が、サンドラルド公爵の頬を滑って落ちてゆく。
ホール内を明るく灯す蝋燭の光により照らされたその目は、確かに漆黒だった。
しかし警戒するように彼がきょろきょろと周りを見渡した瞬間、光の角度によって黒い瞳が一瞬青く光った。その青は濃く深い──まさに王族特有のものであった。
フレデリック殿下は、冷厳な声で最後の一言を告げた。
「貴方は王族派閥の貴族を殺すことをウルクに教えた。目障りなら消せば良いと、目の前でやって見せた。
冷酷だな。貴方はとんでもない策士だ。
……血の契りを交わさずとも、貴方の中には元より王族の血が流れている。それが全ての答えだ。」
フレデリック殿下のその言葉に。
サンドラルド公爵は微かに笑い、震える声で呟いた。
「……恐ろしい……。本当に恐ろしいお方だ、殿下は。」
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