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真っ直ぐ飛べなければ
しおりを挟むマクベス第二王子は、あの貴族たちが集められた場には姿を見せなかった。そうするように、フレデリック殿下が彼を私室に留め置いていたらしい。あの場にいて、マルベリアの告白を聞いていたなら、彼が何かを仕出かす恐れがあったから。
もっと言えば、ローゼマリアの死に嘆き悲しむだけなら良いが、激昂してマルベリアに対し武力に訴える可能性があったからだ。
彼はその後、兄であるフレデリック王から直々に事の経緯を聞き、自らが引き起こした過ちの重さをようやく理解したのだった。
父王によって結ばれたサンドラルド公爵家との縁。その結びつきが国にとって良い結果をもたらしたのか、あるいは悪いものだったのかは公爵の思惑が明らかとなった今となっては定かではない。
しかし、この国の王子として果たすべき責務を放棄したこと、それに伴う失態は周知の事実となっていた。
婚約の解消を求め、あっさりとそれを飲んだサンドラルド公爵家やマルベリアに対して、彼は特に感情を抱くこともなく、軽率にも義妹を求めた――その結果、彼は全てを失った。
名門と謳われた四大公爵家の一角を崩壊させたこともまた、大きな代償であった。
もちろん、全てが彼一人の責任ではなかった。
しかし、元より低かった王子としての名声は更に地に落ち、かつて見目の良さから若い貴族子女たちに向けられていた羨望の眼差しも今や消え失せた。
そこ迄の経緯を経た中で、如何に自分が愚かであったのか悟ったマクベス殿下は、今は別人のようになっているのだと言う。
意外だったのは、ローゼマリアが死んだと言う話を呆然と聞き、その後彼女を害したマルベリアが、北部にある環境も規律も厳しい修道院へと送られたことを聞いた時、マクベス殿下が一粒の涙を流したという話だった。
「幼い頃はお優しくて誠実な方だった。」
とかつてマルベリアが言っていたように、遠い昔の、何も劣等感を持たずに笑顔で向き合い、婚約者として並び立っていた時の事を本の一瞬でも思い出したのかもしれない、とサラはそう思った。
そうであればいい、とも。
けれど二か月経った現在でも陰口や悪い噂が飛び交い、再び縁を結んで彼を迎え入れようとする家は国中探してもどこにもない。寧ろ、まるで腫れ物を扱うかのように遠巻きにされているのだという。
現在、彼はフレデリック王の側近の、更に側近として働いている、全然使えないけど――と、ハーヴェイ殿下はため息混じりに語ったそうだ。
「見捨てればよいものを」と皮肉交じりに呟いた彼に対し、フレデリック王は静かに答えたという。
「鳥が皆、空を真っ直ぐ飛べるわけではない。ましてや飛べない鳥もいるのだ。籠の中で過ごす余地を与えることもまた、彼らが生きる道の一つだ。
……今回の件は、私自身が招いたことでもある。私が背負わずして、誰がこの責任を負うというのだ。」
と。
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