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未来の事は分からない
しおりを挟むシン、と静まり返った大広間の中で、何処からか冷たい風が吹いたような気がした。
暫く動きを止めていたソレイユは、突然にこっと──何事もなかったかのように綺麗に微笑んだ。
「それは大丈夫。僕は天帝本人ではないし。」
「でも、魔力が強いのよね?魔障を起こしていたし……。」
「人並よりは少しだけってだけだよ。天帝の比にはならない。」
「だけど、神の末裔と魔王の娘よ?確率が絶対他よりも高いわよね?」
「大丈夫だよ。」
「でも」
「ミアは、僕とじゃ駄目……?」
そう言ってソレイユは何時ものように捨てられた子犬のような顔をした。目を潤ませ、眉尻を下げてこちらを見つめる例の顔だ。
「いいえ、駄目では無いんだけど……。
あ。」
つい癖でそう返事をしてしまった少女は、墓穴を掘ったことに直ぐに気がついたが、もうそれは後の祭りだった。
ミアは満面の笑みを浮かべたソレイユに、そのままきつく抱きしめられてしまったのだった。驚いて身を引く暇もなかった。
大広間の中の至る所で悲鳴が上がり、慌てふためくミアと心底幸せそうなソレイユを、呆然と見守る観衆の向こう側で大きく息を吐き出し、王は「素晴らしい」と感慨深く呟いた。その言葉に王妃も嬉しそうに微笑む。
「これで、天帝の永きに渡る愛が報われるのね。」
王太子であるアンドレアスは、何処か羨ましそうにソレイユ達を見つめていた。
「……私にとっても彼女はある意味運命だったのですが。」
「そうね。幼き頃に魔障で生命を落としかけた貴方を助けたのは、彼女だったものね。」
子どもの頃に、お忍びで訪れた街中で王太子は魔障を起こし、危うく死にかけたことがあった。
その時、誰かが魔力吸引を行い彼の命を助けたのだが、彼は完全に気絶をしていてその時の事を全く覚えていなかった。後になり、その時自身を救ってくれたのがミアだと判明した時には、既にソレイユが彼女を囲ってしまっていた。手を出そうにも出せない状況であった。
「私は天帝の血筋とは言っても、彼のように記憶も持っていませんし。残念ですが、他の運命を探すしかなさそうです。」
「ふふ、そうね。貴方にもきっと見つかるわ。」
王太子の足にしがみついていたカサブランカが、子どものように泣きながら「ソレイユ兄様ぁ……。」とつぶやくのを聞いて、王妃は呆れたように微笑んだ。
「カサブランカは、もう一度初等から淑女教育のやり直しね。」
「そんな……。」
「そうしないと、本当に嫁の貰い手が無くなってしまうわ。」
大広間の中央では、抱きしめられたままのミアが諦めた様に目を閉じたところだった。それでも何か文句を言いたくて、口を開く。
「……ソレイユ。」
「何?」
「貴方って思っていたよりも、ずっと強引だわ。」
「うん。」
「それに、狡いわ。」
「うん。」
「……天使のような貴方に恋をしたつもりだったのに。」
「うん。」
「小悪魔のようよ、貴方。」
「君は間違いなく、僕の天使だよ。」
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