【完結】ストーカー辞めますね、すみませんでした。伯爵令嬢が全てを思い出した時には出番は終わっていました。

須木 水夏

文字の大きさ
1 / 37

ストーカだったらしいです

しおりを挟む





「いい加減になさい、何なの貴女!そんな色のドレスまで身につけて!マテオは迷惑をしているのよ!」


 たくさんの人達の前で大きな声で叱られて、アリアはなんの前触れもなく思い出してしまった。

 あ、ここって前世に寝る間も惜しんで夢中で読破したWeb長編小説、『』の世界だわ、私ってただのモブなのに、だったあの令嬢アリアだと。


(なんてことなのかしら…。)


そこは公爵家で行われている夜会、もとい若い男女が集う大規模な出会いの場、現代風に言うと婚活パーティー会場だ。

 その広く、重厚な造りの煌びやかな空間のど真ん中、ダンスが終わったばかりのフロアで、目の前の気の強そうな美しい少女に腕を引っ張られ引き止められて、その上大きな声でアリアは叱責されていた。


「聞いていらっしゃるのかしら?!」


 怒気を荒らげる彼女の台詞は、いつかどこかで読んだことがある。
 確かこの後、私であるこのは、この侯爵家の令嬢の大切な幼なじみに横恋慕した為に目を付けられた哀れな存在として早々に退場する。
 実際には哀れでもなんでもないのだが、この出来事は物語の序盤も序盤、侯爵令嬢を人前でも平気で相手を罵倒する気の強い人物、もとい今後に主人公と敵対する人物として印象づける為のものだ。


(こんな、こんなもうどうにもならない場面で内容を思い出すなんて…。)


 チラチラと周りの人々から好奇心や野次馬根性剥き出しのあけすけな視線を送られて、アリアは記憶を思い出した事と、今現在進行形で行われているこの状況についての混乱で、顔には出ていないが頭の中はパニック状態だった。冷や汗がすーっと背中を滑り降ちる。
 それまで感じていた気持ち以外に、それはもうありとあらゆる事を思い出して、ドンドンと冷静になると共に、居た堪れない気持ちになり、紫水晶色の瞳をゆらゆらと揺らした。



(そうだったんですね…そうですよね、おかしいんですよね。最初からおかしかったんです…。だってこんな明らかに…確実にモブな地味女が、あんな王子様みたいな人と関われるなんてそんなおかしなことが起こるはずがないんですもの…。その上勘違いもして…恥ずかしすぎるのです…。)



「ナディア、何を言っているんだ君は…」

「マテオ?貴方もいい加減にはっきりいっておあげなさいよ。迷惑をしていると、この付きまとい女アリアに!」

「辞めないか。彼女に対して失礼だろう。」

「貴方…そうやって誰に対しても甘い顔をするから、挙句にこんな変な女に付きまとわれるんですのよ?!」


 まるで親の仇であるかのようにこちらを鋭い目でこちらを睨む、艶のある長い黒髪に、吊り上がり気味の意志の強そうな緑の瞳の美しい少女は、彼の幼なじみであるナディア・マットン侯爵令嬢だ。
 マテオ…この世界の男主人公の一人(No.3)である青年は厳しい視線でナディアを見た後、白金髪に澄んだ水色の瞳を動かし、アリアへと視線を向けてくる。

 このピカピカに磨き上げられ幻想的な光に溢れたホールのある屋敷の持ち主の息子、彼こそが、アリアがマテオ・アレンデラス公爵令息だ。

 
その彼の視線を受け止める前に、アリアは居た堪れない気持ちで、そっと俯いた。
 注目を浴びた緊張と恥ずかしさに、キーンと耳鳴りがしてざわざわと騒がしい夜会の音が遠いてゆく。
 その内、無音の中にアリアは一人取り残された。きつく握りしめた淡い水色の美しいドレスが、ぼんやりと視界の端に滲む。


 ああ、数週間前に夢見心地でこの日の為にと、自分で全て選んで用意したこのドレスでさえ無意識にだなんて。

しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

全てを捨てて、わたしらしく生きていきます。

彩華(あやはな)
恋愛
3年前にリゼッタお姉様が風邪で死んだ後、お姉様の婚約者であるバルト様と結婚したわたし、サリーナ。バルト様はお姉様の事を愛していたため、わたしに愛情を向けることはなかった。じっと耐えた3年間。でも、人との出会いはわたしを変えていく。自由になるために全てを捨てる覚悟を決め、わたしはわたしらしく生きる事を決意する。

【完】夫から冷遇される伯爵夫人でしたが、身分を隠して踊り子として夜働いていたら、その夫に見初められました。

112
恋愛
伯爵家同士の結婚、申し分ない筈だった。 エッジワーズ家の娘、エリシアは踊り子の娘だったが為に嫁ぎ先の夫に冷遇され、虐げられ、屋敷を追い出される。 庭の片隅、掘っ立て小屋で生活していたエリシアは、街で祝祭が開かれることを耳にする。どうせ誰からも顧みられないからと、こっそり抜け出して街へ向かう。すると街の中心部で民衆が音楽に合わせて踊っていた。その輪の中にエリシアも入り一緒になって踊っていると──

冷遇夫がお探しの私は、隣にいます

終日ひもの干す紐
恋愛
愛人がいるなら、さっさと言ってくれればいいのに! 妻に駆け落ちされた、傷心の辺境伯ロシェのもとへ嫁いでほしい。 シャノンが王命を受け、嫁いでから一年……とんでもない場面に立ち会ってしまう。 「サフィール……またそんなふうに僕を見つめて、かわいいね」 シャノンには冷たいの夫の、甘ったるい囁き。 扉の向こうの、不貞行為。 これまでの我慢も苦労も全て無駄になり、沸々と湧き上がる怒りを、ロシェの愛猫『アンブル』に愚痴った。 まさかそれが、こんなことになるなんて! 目が覚めると『アンブル』になっていたシャノン。 猫の姿に向けられる夫からの愛情。 夫ロシェの“本当の姿”を垣間見たシャノンは……? * * * 他のサイトにも投稿しています。

私が育てたのは駄犬か、それとも忠犬か 〜結婚を断ったのに麗しの騎士様に捕まっています〜

日室千種・ちぐ
恋愛
ランドリック・ゼンゲンは将来を約束された上級騎士であり、麗しの貴公子だ。かつて流した浮名は数知れず、だが真の恋の相手は従姉妹で、その結婚を邪魔しようとしたと噂されている。成人前からゼンゲン侯爵家預かりとなっている子爵家の娘ジョゼットは、とある事情でランドリックと親しんでおり、その噂が嘘だと知っている。彼は人の心に鈍感であることに悩みつつも向き合う、真の努力家であり、それでもなお自分に自信が持てないことも、知っていて、密かに心惹かれていた。だが、そのランドリックとの結婚の話を持ちかけられたジョゼットは、彼が自分を女性として見ていないことに、いずれ耐えられなくなるはずと、断る決断をしたのだが――。 (なろう版ではなく、やや大人向け版です)

罠にはめられた公爵令嬢~今度は私が報復する番です

結城芙由奈@コミカライズ連載中
ファンタジー
【私と私の家族の命を奪ったのは一体誰?】 私には婚約中の王子がいた。 ある夜のこと、内密で王子から城に呼び出されると、彼は見知らぬ女性と共に私を待ち受けていた。 そして突然告げられた一方的な婚約破棄。しかし二人の婚約は政略的なものであり、とてもでは無いが受け入れられるものではなかった。そこで婚約破棄の件は持ち帰らせてもらうことにしたその帰り道。突然馬車が襲われ、逃げる途中で私は滝に落下してしまう。 次に目覚めた場所は粗末な小屋の中で、私を助けたという青年が側にいた。そして彼の話で私は驚愕の事実を知ることになる。 目覚めた世界は10年後であり、家族は反逆罪で全員処刑されていた。更に驚くべきことに蘇った身体は全く別人の女性であった。 名前も素性も分からないこの身体で、自分と家族の命を奪った相手に必ず報復することに私は決めた――。 ※他サイトでも投稿中

【完結】ツンな令嬢は婚約破棄され、幸せを掴む

さこの
恋愛
伯爵令嬢アイリーンは素直になれない性格だった。 姉は優しく美しく、周りから愛され、アイリーンはそんな姉を見て羨ましくも思いながらも愛されている姿を見て卑屈になる。 アイリーンには婚約者がいる。同じく伯爵家の嫡男フランク・アダムス フランクは幼馴染で両親から言われるがままに婚約をした。 アイリーンはフランクに憧れていたが、素直になれない性格ゆえに、自分の気持ちを抑えていた。 そんなある日、友達の子爵令嬢エイプリル・デュエムにフランクを取られてしまう エイプリルは美しい少女だった。 素直になれないアイリーンは自分を嫌い、家を出ようとする。 それを敏感に察知した兄に、叔母様の家に行くようにと言われる、自然豊かな辺境の地へと行くアイリーン…

婚約者はメイドに一目惚れしたようです~悪役になる決意をしたら幼馴染に異変アリ~

たんぽぽ
恋愛
両家の話し合いは円満に終わり、酒を交わし互いの家の繁栄を祈ろうとしていた矢先の出来事。 酒を運んできたメイドを見て小さく息を飲んだのは、たった今婚約が決まった男。 不運なことに、婚約者が一目惚れする瞬間を見てしまったカーテルチアはある日、幼馴染に「わたくし、立派な悪役になります」と宣言した。     

私を忘れた貴方と、貴方を忘れた私の顛末

コツメカワウソ
恋愛
ローウェン王国西方騎士団で治癒師として働くソフィアには、魔導騎士の恋人アルフォンスがいる。 平民のソフィアと子爵家三男のアルフォンスは身分差があり、周囲には交際を気に入らない人間もいるが、それでも二人は幸せな生活をしていた。 そんな中、先見の家門魔法により今年が23年ぶりの厄災の年であると告げられる。 厄災に備えて準備を進めるが、そんな中アルフォンスは魔獣の呪いを受けてソフィアの事を忘れ、魔力を奪われてしまう。 アルフォンスの魔力を取り戻すために禁術である魔力回路の治癒を行うが、その代償としてソフィア自身も恋人であるアルフォンスの記憶を奪われてしまった。 お互いを忘れながらも対外的には恋人同士として過ごす事になるが…。 番外編始めました。 世界観は緩めです。 ご都合主義な所があります。 誤字脱字は随時修正していきます。

処理中です...