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ストーカだったらしいです
しおりを挟む「いい加減になさい、何なの貴女!そんな色のドレスまで身につけて!マテオは迷惑をしているのよ!」
たくさんの人達の前で大きな声で叱られて、アリアはなんの前触れもなく思い出してしまった。
あ、ここって前世に寝る間も惜しんで夢中で読破したWeb長編小説、『この光の中で貴方と』の世界だわ、私ってただのモブなのに、彼のストーカーだったあの令嬢だと。
(なんてことなのかしら…。)
そこは公爵家で行われている夜会、もとい若い男女が集う大規模な出会いの場、現代風に言うと婚活パーティー会場だ。
その広く、重厚な造りの煌びやかな空間のど真ん中、ダンスが終わったばかりのフロアで、目の前の気の強そうな美しい少女に腕を引っ張られ引き止められて、その上大きな声でアリアは叱責されていた。
「聞いていらっしゃるのかしら?!」
怒気を荒らげる彼女の台詞は、いつかどこかで読んだことがある。
確かこの後、私であるこのモブ令嬢は、この侯爵家の令嬢の大切な幼なじみに横恋慕した為に目を付けられた哀れな存在として早々に退場する。
アリアのしてきた事を考えれば実際には哀れでもなんでもないのだが、この出来事は物語の序盤も序盤、侯爵令嬢を人前でも平気で相手を罵倒する気の強い人物、もとい今後に主人公と敵対する人物として印象づける為のものだ。
(こんな、こんなもうどうにもならない場面で内容を思い出すなんて…。)
チラチラと周りの人々から好奇心や野次馬根性剥き出しのあけすけな視線を送られて、アリアは記憶を思い出した事と、今現在進行形で行われているこの状況についての混乱で、顔には出ていないが頭の中はパニック状態だった。冷や汗がすーっと背中を滑り降ちる。
それまで感じていた気持ち以外に、それはもうありとあらゆる事を思い出して、ドンドンと冷静になると共に、今までの自分の事も思い出して居た堪れない気持ちになり、紫水晶色の瞳をゆらゆらと揺らした。
(そうだったんですね…そうですよね、おかしいんですよね。最初からおかしかったんです…。だってこんな明らかに…確実にモブな地味女が、あんな王子様みたいな人と関われるなんてそんなおかしなことが起こるはずがないんですもの…。その上勘違いもして…恥ずかしすぎるのです…。)
「ナディア、何を言っているんだ君は…」
「マテオ?貴方もいい加減にはっきりいっておあげなさいよ。迷惑をしていると、この付きまとい女に!」
「辞めないか。彼女に対して失礼だろう。」
「貴方…そうやって誰に対しても甘い顔をするから、挙句にこんな変な女に付きまとわれるんですのよ?!」
まるで親の仇であるかのようにこちらを鋭い目でこちらを睨む、艶のある長い黒髪に、吊り上がり気味の意志の強そうな緑の瞳の美しい少女は、彼の幼なじみであるナディア・マットン侯爵令嬢だ。
マテオ…この世界の男主人公の一人(No.3)である青年は厳しい視線でナディアを見た後、白金髪に澄んだ水色の瞳を動かし、アリアへと視線を向けてくる。
このピカピカに磨き上げられ幻想的な光に溢れたホールのある屋敷の持ち主の息子、彼こそが、アリアがこの小説の中で片想いをしていたマテオ・アレンデラス公爵令息だ。
その彼の視線を受け止める前に、アリアは居た堪れない気持ちで、そっと俯いた。
注目を浴びた緊張と恥ずかしさに、キーンと耳鳴りがしてざわざわと騒がしい夜会の音が遠いてゆく。
その内、無音の中にアリアは一人取り残された。きつく握りしめた淡い水色の美しいドレスが、ぼんやりと視界の端に滲む。
ああ、数週間前に夢見心地でこの日の為にと、自分で全て選んで用意したこのドレスでさえ無意識に彼の色だなんて。
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