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恥ずかしいです
しおりを挟む(改めて指摘されるまで気が付かなかったなんて、なんて愚かなんでしょうか。
馬鹿だ馬鹿…とんだピエロ…いや実際ピエロなんですけど。
どう考えてもおかしかったのに、なーんでこんな大それた勘違いしたまんまこんなところに来ちゃったんですかアナタは。…、彼はわたしの事なんて全然好きじゃないのに…。)
男主人公の一人であるマテオは、当然の事ながらこの先出会う小説の主人公を愛するようになる。アリアの出る幕など、はなからない事が決まっているのだ。
目の前のナディアがまだ何かアリアに言っているのを目では捉えていたが、その声はショックを受けてしまったアリアの耳には届かない。
マテオの方は向けなかった。
ただ、俯いた視界の端で、彼女の白い指先が彼の腕に触れるのを見て胸がズキッと痛んだ。
「目障りだわ。今すぐこの場から立ち去りなさい!」
物語の通りに、ナディアの死刑宣告を告げるような声が響き、アリアはハッとする。これ以上はここにはいられない。自分の出番は終わったのだ。
(退場しなくては。)
アリアは一度ギュッと強く目を瞑ると震える身体を堪えて深く頭を下げた。
「…申し訳ございません。失礼致します。」
何に対して謝ったのか自分でも分からないまま。震える小さな声を絞り出してそう言うと、アリアはそのまま身を翻して会場を飛び出した。周りの人がとんな目でこちらを見ているのか、考えるだけでも気が遠くなりそうな中を下を向き必死で走り抜けた。
少女はそのまま暫く長い廊下を走り、人気のないバルコニーへと辿り着くと足を止めた。
淑女としてあるまじき行動ではあったが、あの場所に…彼と彼女が並んで立っている姿をあれ以上見ていたくはなかった。それはそうだ。だってさっきまで、思い出す直前まで何にも疑いもせず彼のことが盲信的になるほど大好きだったし、色々と思い出した今だって、気持ち的には複雑だがもちろん彼に対しての気持ちはしっかり残っている。
手すり沿いに階段を降りていくと、庭園が広がり夜でも花を開いているのか、甘い匂いが鼻先に触れた。
春の夜風がアリアの白い頬をそっと撫で、妙にその辺の空気が冷たいと感じた時、彼女は初めて自分が泣いてしまっていることに気が付いた。
少女は白い手すりに寄りかかり、はらはらと涙をこぼす。
その姿は少女がただ傷ついて泣いているだけのように傍からは見えたが、アリアの内心は嵐の日の海のようだった。ありとあらゆる気持ちのこもった涙がいくつも流れる。
(片想いはいいんですっ…!それはオッケー…!
でも付き纏ったり彼色のドレスをこれ見よがしに身に付けたりするのはイタイんです…そう、イタイ!恋人でも友人でもない、ただちょっと以前に親切にしてくれた事があるだけの人なのに何しちゃってるんですか?ほんとにそういう所ですよわたし!?
まあ、本人の顔なんか最早怖すぎて見れなかったですけども?絶対ドン引きしていたに違いありませんし…。
しかもこんな大きな夜会であんな風に言われてしまって、縁談なんか永遠に来なくなってしまって…馬鹿です、馬鹿すぎます…)
頭を壁に打ち付けて気絶してしまいたい衝動を抑えながら、アリアはどこまでも深く気落ちしていた。涙は悔恨の意味合いが大きかった。
せめて何か気の利いた事を言えていたのなら。一言だけでも誤魔化せていたのなら。
付きまとい女、とナディアに言われてアリアは頭が真っ白になってしまい、結果何も言い返せなかった。もちろん物語の中でも言い返すシーンなど一切出てこず、ひたすらにマテオのストーカーをして、最後にはああなる運命のモブだったのだけど。
(言い返せるはずなんてないのです…。だって。)
物語序盤の内容的にストーカーだと言われても反論出来ない、思い当たる節がいくつもいくつも、それは数え切れない程にあったからだ。
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