【完結】ストーカー辞めますね、すみませんでした。伯爵令嬢が全てを思い出した時には出番は終わっていました。

須木 水夏

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第二章

パンを作りますよ

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 と、いう事で。
 アリア達は屋敷のパン作り工房にいた。

 ああ、ここにこの国の王子も居なくてよかったと、アリアは心から思った。
 三人もヒーローが居たら、緊張と精神的な疲労で呼吸もままならない気がする。それはもう打ち上げられた魚の気持ちだ。ビチビチッ。


 そう言えばこの国、タギアン国の王太子殿下。男性主人公の一人であるレブリオ・デ・ヒュヴァン第二王子。
 第一王子は正妃の子ではなく、側妃の子でそこで大変な揉め事があったと小説には書いてあった。

 その幼少期の揉め事のせいで疑心暗鬼で腹黒い、そして排他的な人物に育った。
 冷たい印象を他人に与えるが、金髪碧眼で整った見目の王道の王子様~!という面構えをレブリオはしている。

 ヒロインリーシャにたいして当初からあまり親しくならないように適度な距離を持って丁寧に接しつつ、腹の中では貴族でもないのに、光の魔法を使える主人公を胡散臭く思っていた。

 けれどの学園の実技試験。王子はダンジョンに潜った際に魔物に襲われて傷を負い、魔障による高熱にうなされていた時に、主人公の光の魔法で助けられる。助けられた瞬間に、彼は少女の心根の優しさや真っ直ぐさに初恋に落ちてしまうのだ。


(...レブリオ王子、チョロいです。でもまあ、気持ちは分かります。)


 なんてったって主人公ヒロイン。めちゃくちゃ可愛らしいそうなので。小説の中では、侯爵令嬢であるナディア様とは正反対のイメージだった。
 リーシャはその儚い風貌とは違い、元気ハツラツ!元気があればなんでも出来る!タイプの少女で、そのギャップで皆を虜にしていくのだ。
 なので王子が彼女に(死ぬ危険性もある所を助けられたから、もしかして吊り橋効果)優しくされただけで恋に落ちたのは納得できるし、だいたい登場人物は皆が彼女を好きになるお話なので、それはそうなのだ。


(さて、と。)

 パン作りを前に、ナージャとカトレアに腕まくりと髪をまとめる準備を手伝って部屋から出てきたアリアを見て、キョトンとしている美形が二人。


「アリア嬢?その格好は?」

「申し訳ありません。今からパンを作りますので、少し作業をしやすいようにさせて頂きました。」

「パンを?君が作るのかい?」

「ええ。僭越ながら作らせて頂きます。」


 アリアの後ろでは、カトレアがテーブルにテキパキと道具を広げていく。それを見てリュシアンも戸惑うような表情を浮かべた。

「カトレア...。君は何をしているんだ?」

「は。我がお嬢様をお手伝いするために準備をしております、我が君。」

「え?君もするのか?パン作りを?」

「はい、未熟ながら。」

「え...。」


 カトレアがパン…?声にはなっていなかったが唇の動きでリュシアンがそう言ったのがアリアにははっきり分かった。


(ですよねーーーーーーーっ!
 私もそう思ったんです!一応何度か確認したんです!確認してみたんですけど、お手伝いされてしまってます...っ!!すみませんっ...、王太子殿下の側近の方をこんな事に使ってしまって...!!)


 まさかカトレアが暗殺者である事を知っているとは言えないので、アリアは内心嵐のようにリュシアンに謝り倒しながら、淑女の微笑みを浮かべるだけに留めた。


 何故リュシーの侍女がここにいるの?と、マテオが困惑顔で茫然としているリュシアンに問いかけてるのを横目に見ながら、アリアは気持ちを切り替えると。


「では、実演させていただきます!」


 よしっと気合を入れて、計りの上に置いた皿の上へと小麦粉をのせていった。

 小麦粉、溶かしバター、砂糖と少量の塩、を適量ずつ混ぜ合わせ、そこにふくらし粉(重曹)を慎重に混ぜ入れて、優しく丁寧に、最初はベタつくそれを、滑らかに手の平に付かないようになるまで真剣に捏ねる。目の前に座った男性二人は、ただ黙って熱心にアリアの手元を見つめている。
 納得いくまで捏ねあげると、アリアはふう、と息を吐いた。



「...はい!ではここまで出来上がれば、工程はもうあと半分です!
 これを一時間ほど室温で寝かせた後、再度空気を抜くように優しく捏ねまして、小分けにします。その後もう一度寝かせます。そして30分ほどオーブンでじっくり焼き上げますと、このようになります。」


 捏ね終わってまあるく形成され、ふわっと膨らんだパンの種をボウルに入れてサッとナージャに渡すと、そのままキッチンの奥へと下がってゆく。
 すると、すかさずカトレアがワゴンを押して現れ、マテオ達が並んで座るテーブルの隣に付けた。
 音もなくテーブルいっぱいに皿を並べると、トングで掴んだパンを高速で並べていく。さすがの運動神経、動きが目にも止まらぬほど素早い。

 ババーンッと、マテオとリュシアンの前に、元々夕食に出す予定で前もって準備をしていた約十種類の焼きたてのパンがズラッと並べられた。
 食事用に作ったパンなので甘いものはないが、黄金色の、いかにも美味しそうなパン達を見て「おおっ」と二人は歓声を上げた。


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