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第二章
【閑話】ヒロイン・リーシャの物語
しおりを挟むこちらは本編に出てこない(恐らく今後も出てこない)元々の物語の主人公のリーシャちゃんがどんな風に生きてきてどうなっているのかを描いたものです。
これから時々、お話の間に挟んでお送りしてまいります。
こちらのヒロインは、原作のお話通り元気があればなんでも出来るタイプのフィジカルつよつよ系です(笑)
もしお時間良かったら、ご覧下さいませ(⋆ᴗ͈ˬᴗ͈)”
━━━━━━━━━━★
私の名前は、リーシャ。平民だから苗字は無い。
王都からは遠く遠く離れた、南部の自然豊かなトッタスという名前の小さな村で産まれ育った。
トッタスは、山と森以外には何にも無い場所だったけど、村の人みんなと知り合いで、みんな仲良くて家族みたいな関係だった。
私は父によく似た陽に焼けたような赤髪で、母譲りの麦色の目をしていた。
昔から黙っていれば可愛いと言われていたけれど、それよりもお転婆が勝ってよく男の子を泣かせるような、ガキ大将みたいな性格だった。
生まれた時からちょっとだけ魔力はあったみたいだけど、魔法の勉強なんてしてないから使えなかった。
朝早くに起きて、お母さんのお手伝いをして、村から少し離れたところにある小さな町の学校に通い、終わったら友達と家まで往復二時間、ちょっとした冒険をしながら家まで帰り、馬や山羊の世話をしたり家の手伝いをする。
そんな何てことのない、普通の子どもだったの。
あの日までは。
一年前、村に人を襲う魔物が初めて襲来した日。
その生き物は、突然トッタスに現れた。
しかも、リーシャが学校から帰り、そのままの足で幼馴染の家の牧場に遊びに行っていたちょうどその時。
その魔物を見るのはそれが生まれて初めてだった。
漆黒の皮のように、テラテラと鈍く光る大きな骨ばった翼と嘴。
鬣は炎のようで血のように赤い瞳と尖った長い爪。
その長い爪で、地面に踏み潰され倒れたディルおじさんの背中を大きく抉り取って、血の滴る肉を口元へと運んでいた。背中の肉を引きちぎられた、まだ生きているおじさんの口からは青く変色した舌が飛び出し、くぐもった呻き声が辺りに響き渡っていた。
お話の中でしか読んだことは無かった。本当にいるだなんて思いもしなかった異形の物。人を食らう魔物。
衝撃的な光景に、声が喉の裏に張り付いて悲鳴をあげることも出来なかった。
「……に、にげ、ぉ…っ、エレ、を、たの、」
『エレンを頼む』
生きたまま食べられているディルおじさんは、最後の力を振り絞って血を口から零しながら、掠れた声でわたしに向かってそう叫んだ後、ぱたっと頭を地面に落として動かなくなった。
その声を聞いた瞬間、彼の娘、幼馴染のエレンの腕を引っ張り、私は縺れる足を必死で動かして駆け出した。
エレンの泣き叫ぶ声が耳を劈く。やめて、音に引き寄せられて魔物が来ちゃう。
でも彼女を助けなくては。あの魔物から離れなくては。リーシャの頭の中はそれだけでいっぱいだった。
空が暗い。近くで何かが焦げている臭いがする。どこに逃げたらいいのか分からない。
あちこちで聞こえてくる悲鳴に、リーシャは走りながらパニックを起こした。
さっきの魔物は、あの一体だけではないの?
お父さん、お母さん、ジェインは無事なの?隣の家のおじいちゃんは?
さっきまで近くで遊んでたマーナは?アイクは?学校を出る時に会った先生達は?
(うそ、うそ、うそっ…!!)
混乱して、けれどずっと走っているから酸欠を起こし、目の前が真っ白でよく見えない。でも止まったら駄目だ。止まってしまったら。
「あっ!」
手を引いていたエレンが、つまづいて転けて後ろに引っ張られ、リーシャもその場に倒れ込んだ。
直ぐに幼馴染を助けようと立ち上がったリーシャは、自分達のすぐ後ろまで迫っていた赤く光る鋭い目で睨みつけられて、動けなくなる。
足が震えて歯も噛み合わなくて。
エレンも腰を抜かして立つこともできず、ヒッと小さな悲鳴が聞こえた。
このままでは二人とも死んでしまう。
脳裏にディルおじさんの最期の顔が浮かび上がった。苦悶に歪んだ土色の顔の中、かっと見開いた目が、必死に伝えてくる。
エレンを護らなきゃ。
ああ、足が動かない。エレンの前に立ちはだかり、震える腕を横に広げるのが精一杯で。
魔物の血に濡れた爪が眼前まで迫ったその時。
( 来 な い で )
刹那。
カッと強く真っ白な光がリーシャとエレンを包み込んだ。温かなその光はあっという間にリーシャを中心に円を描くように広がっていき、上空よりきらきらと無数の光の粒子を降らせる。
ギャァァァァァァア
するとその光を浴びた魔物は、この世のものとは思えない邪悪な咆哮を上げ苦しげに身を捩り始めた。
ジリジリと音を立てて、リーシャは目の前の魔物がまるで蒸発するようにゆっくりと消えてゆくのをみて、ああ、これで助かったのだと頭の隅で悟った。
やがて、その異形の物は目の前から消え去り、その内に、光の輪はサァッと空気に溶けるように消えて、辺りの暗さもいつも通りに戻っていく。
少女は一度エレンと目を合わせ、ほっと安心した後。
気が抜けてしまったのか、急にめまいを感じて、リーシャはその場にぱたりと倒れ伏せた。
目が覚めると、自宅のベッドの上にいた。心配そうにこちらを覗き込む弟のジェインが、泣きながら自分の手を握りしめている事に気が付き、リーシャはほっとして頬を緩めた。けれど。
「父さんと母さんはっ、魔物に…っ、僕を守って…」
嗚咽を漏らしながらそういう弟の言葉に、リーシャは一瞬にして絶望の中に突き落とされた。
二人して抱き合い、声を上げてなく弟の背中を撫でながら、どれくらいの時が過ぎた頃だろう。
いつからそこに居たのか。一人の大人がリーシャとジェインに近づいてきた。身なりの立派な、明らかに貴族だと思われるその人は自分をキャレットと言い、軍人だと名乗った。
「もう一人の少女に聞いたよ。リーシャ君、君は魔法を使えるんだね。」
「まほう…?」
「魔物を退けた光の魔法だよ。」
「わ、私、魔法なんて…。」
気絶する前、辺りが真っ白に輝いた事は覚えている。けれど、何が起こったのかは記憶が曖昧だった。ただ、エレンを護らなくては、と強く願っただけだった。
「君の聖なる光の魔法は、この村に押し寄せていた魔物の群れを一撃で消し去った。君が、人々を助けたんだよ。」
「私が…。」
「軍で確認を行ったが、この辺りにいた全ての魔物は一掃されていたよ。そして、君の魔力の印が土地に付いたから、魔物が寄ってこなくなっている。」
そんな説明を受けても、にわかには信じられない、といったような顔をしているリーシャにキャレットは笑みを浮かべた。
「鏡を見てみるかい?」
「鏡?」
首を傾げる少女に、キャレットは手鏡を手渡した。おずおずと覗き込んだリーシャはハッと息を飲んだ。
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