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第四章 オレは75人の魔法少女からケツを守られている
赤の系譜
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魔王軍大幹部。魔王軍の詳しい構成はわかっていない。魔王の下に大幹部、さらに下に、幹部、あとは雑兵。圧倒的数と多種多様な生物による多彩な戦術。人間と魔王軍との戦力差は明確であり、何人も人は挑み破れ去っていた。幹部に勝てた者は一握り、大幹部に出会えたものは数人。魔王に戦いを挑めた回数は2回である。一度目はまだ魔王軍が一国の戦士団でしかなかったときに、13人の魔道士が戦いを挑み、返り討ちにあう。二回目は大陸中を恐怖に陥れたとき、多くの異世界人が召喚された。最終的にその中の1人、先代勇者が巫女と仲間とともに封印を試みる。不完全ながら封印は達成され大幹部以下幹部たちは散り散りになった。
「で、行くあてがなくなったわたしは獅子王のところで世話になったっと。まぁ、こんな感じだ。なぁ、聞いてるか、泣き虫くん」
「はぁ、はぁ、はぁ。おれは、こんな、方法で、つよくなりたいわけじゃ、ない!、」
今までの巫女との戦闘がなければ、数秒ももたなかったであろう。さちよさんとおなじ、身体強化。だけど、相手は魔力のすくないさちよさんとは違い、煽れんばかりの魔力の持ち主である。桁外れだ。
「……もっと必死にさせる必要があるな。わたしは魔法少女で言うところの1桁(シングル)クラス。油断も、隙も、情けもないさ。もっと必死になれよ。あぁ、そうだな。人間もたくさん殺した。」
「はぁ、はぁ、それは、……あんたの抱える罪では無い。おれが裁く罪はそれじゃないだろう。あんたが、ほんとに罪悪感を感じてることは、そのことじゃない」
「言うじゃないか…坊や。お前が飲んだあの水、すこし甘かったろ」
「はぁ、はぁ、はぁ、?」
「あれは、魔王軍が使用していた拷問用スライムでな」
彼女が指を鳴らす。
「ひ、がああああああえ !!」
ボコボコと体内で何かが暴れ出す。耐え難い激痛が襲う。その場で思わず蹲る。
「どんな強靭な肉体を持つ人間でも内蔵を鍛えることはできまい。ほら、集中が乱れたぞ。おらぁっ!」
「っ!!!!がはっ。」
痛みで回避できない。彼女の拳が腹に打ち込まれる。
痛めた腹に杖をあて、スライムの攻撃をキャンセルする。
「甘い。危機管理もない。すぐに人を信用する。あたしたちはまだ出会って間もないんだぜ。坊や」
「俺が欲しい、強さは誰かを犠牲にして踏み越える、強さじゃない。誰かを守る強さだ。あんたを殺して、手に入れた力、に何の意味がある」
「命に変えてもその言葉を貫くことはできるか?魔王様直伝、呪殺一撃・赤銅棍棒(しゃくどうこんぼう)」
静かに構える。腕に纏った魔力とは違う力が内側から溢れでる。赤腕から棘が生える。腕がどデカい棍棒と化す。頭上に振り上げられた棍棒は確実に俺を叩き潰すだろう。恐怖で奥歯がカチカチと音がなる。
「うああああああああ!!!!」
眼前に死が迫る。拳に貫かれる。悔しい、悲しい、つらい。全てが、弱い自分に直結する。名もない自分に直結する。
何も残せず、死ぬ。
何もなしに、死ぬ。
1人耐えるあの少女をたすけることもできず。
家族と言ってくれたあの子に恩も返せず、死ぬ。
名無しの俺の、名も無き人生。
ふとカリンの言葉を思い出す。
名前なんてわたしがつけたげるわよ。
「はっ!いまさら、黒濁を構えても遅い!魔力を吸いきる前にお前がミンチになってるさ!!」
「はぁ、はぁ、」
まだ、自分はこの杖をどこか借り物のように感じていた。あの少女が本来の持ち主で、おれは器。
あんたがわたしと出会ってからのことは、あんたのものでしょうが。
カリンの声が思い出される。
全てを飲み込むこの杖は
俺の杖だ。
俺をなんども助けてくれた。
俺の杖だ!!
「全て飲み込め!!黒濁!いや、……黒蛇(ウロボロス)!!」
黒い杖をふり、牛頭の腕の魔法を消し去る。そのまま、黒い杖は蛇のように腕にまとわりつき、俺の身体が重くなる。地面が、重さに耐えれず、ひび割れる。
「おい、おいおい、それはなんの冗談だ?まさか、あの量の魔力を一瞬で呑み込んだのか」
「はぁ、はぁ、……魔装だよ。はぁ、俺の。」
腕を見せる。
黒くまきつかれた杖と一体化した黒い腕。
「片腕だけの魔装?はっ、ははっ!ガッハッハッ!!しかも、自分の重さを増やして。笑わせるな。んなもんは魔装じゃねーよ、坊や。杖の力を解放して、強くなるのが魔装だ。弱くなってないか」
「はぁ、はぁ、さちよさんみたいに、一部分だけの魔装だ。」
腕を突き出すと、牛頭の身体が吹っ飛んだ。
「な、なんだ」
殴られた訳じゃない。触れられていないのだから。
「坊や。何をしたんだい」
「は、はは、よし……」
上手くいった。逃げ場の無かったエネルギーを、上手く使えたらと思っていた、重さをコントロールできてる。
「まさか、重さを、操作したのか」
「は、あはは、あぁ、そう、だな」
まだ、向きを変えるだけだが。杖の中の魔力を感じとり、流れの向きを変え、力の塊を相手に押し付ける。再び吹き飛ぶが、さっきまでの勢いはない。
「は、ガッハッハッ!所詮その程度!!」
「この力はな、あんたの力そのまんま返してる」
「?」
「あんたが、その程度と思うなら、それは、あんたが本気で打った訳じゃないってことさ。あんたは、お姉さんは、本当は優しいんだろ。」
「ば、馬鹿をいうな、あたしは本気で!」
「あぁ。だけど、無意識に力をセーブしてたんだろうよ。」
「そんなわけ」
「……あんた。それで、誰かを殺しきれなかったんだろ」
「……」
「そんなあんただからこそ、さちよさんは、あんたから技を教わったんじゃないのか?」
「あたしが殺し損ねたのが……魔王だとしてもか?」
「え?」
「……わたしは、はじめに魔王に戦いを挑んだ12人の魔道士の1人がわたしだ。敗北し、捕虜になった。そこで、知ったことがある。そこで、長い時を魔王と過ごした後、魔王の夢に協力することになった。世界の真実を知ったからな。」
「魔王の夢?」
「ああ、あれだけ強かった魔王がなぜ、他人に呪いを掛けてまで、魔力を集めようとしたか分かるか?呪いは掛けたほうにもリスクがあるってのに。だが、個人の夢なんて、大衆に飲み込まれていくのさ。暴走する魔王軍に終止符を打つべく。わたしは『千変』とともに魔王軍を離れ、勇者とともに魔王を倒そうとした」
「……」
「魔王を倒す寸前まで行ったが、わたしは、……。時を戻す魔法を打ち損じた。魔王を弱体化させるための、勇者が考えた作戦を失敗した。強くなる前までの年齢に戻す魔法が不発だった。なぁ、坊や。勇者に担ぎあげられたお前には真実を知っておいて欲しい。世界は」
牛頭は魔装を解き、話し始める。世界の真実を。誰かが言っていた。世界の真実を。
「弱肉強食!!!!」
だが、牛頭は目の前で、無情にも押しつぶされた。
「え……」
「はははは!!まさか黒い杖を探しに来たこんなところで、会うなんて!!義母上!あなたの力は第1王女の私が頂く!!!」
「お前…なにしてんだ…」
牛頭の魔力が第一王女に流れていく。彼女は感覚を確かめるように手を握ったり閉じたりを繰り返す。
「ん?あー、大したことない、か。せいぜい40点くらいか。レオ・タウロス義母上。期待してたんだが。カッカッカッ『牛頭』として人間たちに、『赤牛』として魔族達に恐れられてきたというのに。この有様」
その場を踏みにじり、唾を吐いた。そして、彼女は赤い杖と、血がつき割れた白い仮面を拾い上げた。白い仮面はボロボロと崩れ落ちた。赤い杖を振るうが、何か起こった様子はない。
「『丑三つ時』……さすがに固有の特級魔法までは手に入らぬか。……ん、この杖は、牡牛座(タウロス)ではないな。杖を入れ替えてたか。……赤鷲め」
「お前…なにしてんだ!!」
「ふー、赤鷲に返してやれ。」
彼女は杖をこちらに投げてよこした。あわてて受け取る。赤い杖には2人の少女がかたどられていた。彼女はようやく、こちらを向いた。その瞳は冷やかに燃えていた。
「……っ」
「あー。なんだ、0点。我はいま、軽く失望してるんだ。死んだと思った継母に会えたが、期待したチカラは無かった。下男、ぬしには興味はない。黒い杖を置いてけ。母の戯言に付き合ってくれた礼だ。それで命はたすけてやる」
こいつは、こいつは、
「お前を叩き潰す」
「さきほどの龍車で分かったろ。実力不足だ。仮に我が99点としたら、似非勇者、貴様は1点。それも杖の評価だ。わたしの魔法を止めた黒い杖は評価に値する。お前自身は0点でしかない。眼中にない。杖を置いて失せろ」
「別にそれでいいさ!お前の評価なんざ、1点の価値もない!1発殴らせろ!!……黒蛇(ウロボロス)!!!」
彼女への怒りに呼応しているのか。黒い杖が巻き付く範囲が広くなっている。その分力が増しているのを感じる。
「小物が……。お前たち。こいつを組み伏せろ。そしたらガキを見つけられ無かったことを帳消しにしてやる。お前らの頭みたく、頭を吹き飛ばされたくはないだろ?」
「へ、へい!やるぞお前ら」
雲切り場の屈強な男たちが10人ばかり、ホウキに乗り突っ込んでくる。
「おぉおお!!」
「許さねぇ…」
全身の毛が逆立つ。腕に巻きついている黒い杖がさらにうでを締め付け、拍動が耳元でうるさくひびく。
「ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛!!!」
杖がとろけ、腕を覆っていく。杖は形を変え黒い鱗が片腕に広がる。より深く強い魔装を。
「飲み込め……」
男衆の合間を縫うようにして、駆ける。脚部と目にだけ魔力を集中し、走り抜ける。魔力を吸われ次々にホウキが力を失い墜落していく。
「うわあああああ」
不時着する男たちは無視し、本丸を狙い手をかざす。
「そして、ぶっ潰す!!!」
取り込み、重さに変換された男たちの魔力を第一王女にぶつける。蛇と化した重力が彼女にぶつかる。
「『手』」
鈍い音がひびくも、手をかざすだけで、その攻撃は防がれた。
「10点だ。その程度の重み、巨人(ギガンテス)の呪いを受けた我が身には、毛ほどもダメージを与えることはできまいよ」
「そりゃ、そうだろうよ!!本気じゃないからな!」
煙が晴れ、第一王女の目の前に少年が現れる。
「なに?!!」
重力を操作し、一気に距離を詰めた。本命は俺だ!!さきほどは取り込んだ魔力の30パーセントほどだった。残りを拳に集めて叩きこむ。
「らぁ!!」
「っ!!舐めるなよ!!『足』」
彼女はその場でハイキックの姿勢をとる。何でそんな距離で。
「?!!!」
巨大な衝撃が脳を揺らす。集めた魔力が散る。見えない金槌で殴られたようにふらつく。意識が狩られかける。だが、燃やせ!怒りを!意識を保て!
「なんで、人から奪うんだ!!」
黒蛇の魔力を広げながら問いかける。
「強くなければ何も守れない。人も国も。お前は何万人もの人の命を背負っていきたことはあるか。なければ、口を慎め」
彼女の瞳が燃え上がる。
「負けた国がどんな末路をたどるか。負けた国の民がどんな最後を迎えるのか。魔王のいた時代を知らぬ貴様に、一時の正義感で言われる筋合いはないわ」
大きく振りかぶる。ブレる視界で感じる。呪いと魔力が混ざる。
龍車で受けた攻撃が来る。
「貴様を半殺しにした後は、あの小娘どもを処刑する。そうしたら、私の気持ちも少しは分かるだろう。」
「ふざけるな!!そんなことは絶対させない!!」
「絶対させない?頭に血が登り、冷静さを欠いたお前がか。似非勇者。この世は弱肉強食だ。『巨人(ギガント)呪(スペル)……」
彼女の過去に何があったかは知らない。だけど、言い返せない。
……坊や。右手を前に。
「!」
「『戦槍』!!!」
肩が外れるんじゃないかとおもうほど強い衝撃で吹っ飛ばされる。だが、黒蛇の力で、魔力を消せた。
「お姉さん!?」
だが姿は見えない。
いかなる時も敵から目を離すな。思考を止めるな。
お前は十分強くなってる。
声の主は、杖からだった。
救えるものも救えなくなるぞ
私は既に居ない
わたしの代わりにあの子たちを救ってくれ
「異母上の気配…亡霊が…」
深く息をはく。
ありがとうお姉さん
赤い杖をにぎる。
「いくよ、みんな」
魔装を片腕だけに限定したのは、習得期間を短くする為、だけでは無い。
黒い杖を使いつつ、その他の杖を同時に使用するためだ。
腕に広がっていた鱗は侵食をとめ、元の位置にもどる。
自分の周りに天上の杖たちが浮かぶ。
「第一王女、お姉さんの魔力を返してもらうぞ」
「カッカッカッ。いいぞ。弱肉強食。勝ったものが総取りだ。」
「……」
魔装が安定化したか。第一王女は評価を改めた。彼女もまた、強者の一角を担う魔道士の1人。奢ることはしない。黒い右腕に注意するとして、傍らに浮かぶ4本の杖は、どれも天上(プラネタリウム)の杖、か。勝てば総取り。国が一気に強くなる。このリスクをあの下男は把握しているのか?
「……カッカッカッ」
今日は呪いの力を使いすぎている。反動が怖いが、そうも言ってられない。
杖には使用者の魂が宿る。赤い杖が牡牛座ではないにしろ、継母の魂がそこにあるなら、『丑三つ時』が使えるようになる可能性がある。そうなる前にかたをつけなければ。
次々に飛んでくる水の弾丸を『手』で防ぐ。両脇から飛んできた魔法の弓矢は『足』で地面を踏みつけ、高く飛び上がることで防ぐ。目の前に迫る少年には、杖を振るい、盾を作り出す。たしかに数時間前までとは確実に動きが違う。
「水瓶座(アクエリアス)」で足場と中距離、盾もだせる。「射手座(サジタリウス)」で長距離と牽制を。近づけば、黒い杖の間合いだ。
別段魔力が高まってるわけではない。ただ単に魔法の使うタイミングが上手くなっている。いまも、我の『手』や『足』を真似て、水の魔法で再現している。底なしの学習意欲。今は一兵卒にすぎないこやつも。時が経てばたつほど厄介になっていくだろう。
魔力を吸い出し、巨大な身体を作り出す「呪い」。昔は無秩序に自分の意志とは関係なく、ところ構わず発現していた。
家族や部下、国のものたち。多くの人に迷惑をかけてきた。恩を返す。国を守るのが我の使命だ
こんな何処の馬の骨とも分からぬ輩に、国を世界を任せられるわけないだろうが。
「似非勇者。お前は何のために戦う」
「守りたいもののために」
「……エゴだな」
「あんたがなにか背負っているなら、俺もそれを手伝うぞ」
「は?」
「倒すのは簡単だけど、それよか仲間になって考えようぜ」
「……カッカッカッ!甘い!甘い甘い甘い甘い甘い!!!その答えは0点だ!!!!我にも勝てぬお前に!!誰がたよれるか!」
彼女は杖を抜く。
「はは……」
彼女は今まで全く本気は出してなかった。
冷や汗がたれる。
これはやべーや。
「巨躯を駆りて、薙ぎ払う!獅子の爪痕、大地に遺す!!魔装・赤獅子巨兵の陣!!」
赤髪の大獅子が目の前に現れる。いや、獅子を肩に背負った巨大な女騎士だ。瞳は煌々と燃えている。唸る声は空気をびりつかせる。両手には長い爪が装備されていた。
「『爪』!!!」
頭上から巨大な爪が迫り来る。
「黒蛇!!!」
蛇を走らせ、とぐろを巻いた盾を作り出す。
「……?!……がふ!」
ぽたぽたと血が流れる。裂かれた腹に焼けるような痛み。
「魔法は全て、なん、で」
「魔力は、消せても、実態のある刃は消せないだろ」
「なっ……ぐぅ」
大量の水でおしのけようとする。だが、
「んな、ちんけな水遊びで、我が止められると思うのか!!赤角(レッドホーン)」
甲冑が赤く染まる。これは、幾度とみた。さちよさんや、お姉さんの技。
「その、技は」
「あぁ、継母上の技だ、せっかく手に入れた技だ。出し惜しみしなくてもいいだろう、よ!」
腕で防ごうとするも、即座にその危険性を感知する。まずい!!
「水瓶座(アクエリアス)!!!」
腕に魔力を纏わせて、さらに水の盾を何重にも重ねるも。全て破壊される。
「があああ」
拳撃の威力があがってる。受け続けるには危険だ。
「カッカッカッ!防ぐだけじゃ、我に勝つことはできんぞ」
「あぁ、そうだな、出し惜しみしてる場合じゃねーよな」
「……カッカッカッ。まるで今までそうじゃ無かったみたいな言い方だな」
「これから帝都に乗り込まないと行けないからな。だけど、そうも言ってられないようだ」
おれは思いっきりケツに手をつっこんだ
ぬぽん!!
「は?!!」
少年は宙に浮かぶ継母上の杖を掴むと、しりにその杖を突き刺した。深々と。赤い杖だけじゃない。全ての杖をしりに突き刺したのだ。
「ぎゃあああ」
少年の悲鳴があがる。頭を抱え悶絶している。
「何やってんだ!!真剣な戦いの最中に!!我を愚弄する気か!!『巨人呪(ギガントスペル)!戦赤槍!!』」
赤角(レッドホーン)で強化した状態での戦槍。防ぐことはできまい。ただでさえ、城壁でさえも一撃で粉砕する威力だ。これでしまいだ!!
少年は避ける様子はない。ただ真っ直ぐこちらを観て、呟く。
「赤牛(レッドホーン)、赫鷲(レッドホーク)、黒蛇(ブラックパイソン)」
赤い巨大な爪が当たる直前、荒野に声が響く。
「混合魔装・赫翼蛇王(バジリスク)!!!」
自分の爪がこれ以上進まないことに違和感を感じる。
なんだこの圧力は、
なんだこの硬さは、
なんでこやつは、赤牛と赫鷲の気配を放っているんだ。
煙が晴れた後、王冠のような赤い角、背中には赫い翼、蛇をかたどった黒い鎧の少年がいた。
「悪いな、時間が無いから直ぐに終わらせる」
「ほざけ!!我は継母から奪ったこの力と魔王の呪いがある!!はったりに」
「『赤腕』」
少年の腕が赤く染る。命を奪わんとする爪を殴り止める。
この力、継母上の。馬鹿な!
「『双子座(ジェミニ)』、『赫(ダブル)!!』」
奴の力が倍近くに膨れ上がる。まるで、これは、赤鷲の『赫』。アイツの魔法ではないか。何が起こっている。
「『赤鷲(レッドホーク)』!!」
深く足を踏み込み、止めた巨大な爪を殴りあげる。
「くっ」
「なぁ、第一王女、おれはさちよさんから、魔力の感知を、お姉さんから杖の理解度の深め方を教えてもらった。かつての黒い杖の使い手は、ケツに杖を入れることで、杖の経験値を自分のものにすることができたんだ。一気に記憶が流れ込むからめっちゃ頭痛い。そして、まだおれの実力じゃあ、見慣れたこの技を真似するのが精一杯だ」
息を吸い込み、胸を張る。
「だから、おれはこんなもんじゃない!まだまだ強くなる!!」
魔装が解け始める。
「はっ、そんな朧気なものに命をかけろと?世界の命運を握らせろと?」
「俺一人じゃ無理だ。俺の仲間やあんたらにも力を貸してもらいたい。ガッハッハッ!!」
「継母上の真似か?」
「そして、さちよさんもだ。赤牛の想いも赤鷲の思いも、おれは受け取っている。お姉さんはあんたらのことを心配してたぞ」
「継母上が」
第一王女のほうも魔装が消えつつある。彼女は目をつぶる。再び開いた時、彼女の意思は固まったようだった。
「我が名は帝都第一王女レオ・アルタニク!勇者よ!貴公に決闘を申し込む」
「勇者、名前は、ない!!」
荒野に冷たい風がふく。
「はぁ、しまらねーな。……とりあえず。黒蛇使い(アスクレピオス)ってのはどうだ。12星座に属すことの出来なかった13番目の星座だ。医者の星座だから、この世界の病を治してくれることを期待する。」
「おぉ!かっこいい!!ごほん、こちらも名乗らせてもらう!勇者・黒蛇使(アスクレピオス)い!!受けて立つ!!」
「カッカッカッ!!100点だ!!行くぞ!!」
「来おおおおい!!!」
「巨人呪(ギガントスペル)・大戦赤槍!!!」
大地を踏みしめて、魔力と呪いを拳に集中させる。赤角(レッドホーン)でさらに強化されている。我の最高の一撃。
「赫翼蛇王(バジリスク)の咆哮(ブレス)!!」
赤角(レッドホーン)に赫(ダブル)をかけて2倍にした力を加えた。黒蛇によって防御不可能の一撃を放つ。
お互いの現時点最高の一撃。
「はあああああああ!!!」
「うおおおおおおおぉ!」
激しい衝突音が響き渡り、この一帯に降り注ぐ魔法はその衝撃で吹き飛ばされていく。
「ああああああ!!」
「まだまだあああ!!」
轟音とともに、千虹雲海にぽっかりと穴が空き、太陽の光が久々に降り注いだ。
「で、行くあてがなくなったわたしは獅子王のところで世話になったっと。まぁ、こんな感じだ。なぁ、聞いてるか、泣き虫くん」
「はぁ、はぁ、はぁ。おれは、こんな、方法で、つよくなりたいわけじゃ、ない!、」
今までの巫女との戦闘がなければ、数秒ももたなかったであろう。さちよさんとおなじ、身体強化。だけど、相手は魔力のすくないさちよさんとは違い、煽れんばかりの魔力の持ち主である。桁外れだ。
「……もっと必死にさせる必要があるな。わたしは魔法少女で言うところの1桁(シングル)クラス。油断も、隙も、情けもないさ。もっと必死になれよ。あぁ、そうだな。人間もたくさん殺した。」
「はぁ、はぁ、それは、……あんたの抱える罪では無い。おれが裁く罪はそれじゃないだろう。あんたが、ほんとに罪悪感を感じてることは、そのことじゃない」
「言うじゃないか…坊や。お前が飲んだあの水、すこし甘かったろ」
「はぁ、はぁ、はぁ、?」
「あれは、魔王軍が使用していた拷問用スライムでな」
彼女が指を鳴らす。
「ひ、がああああああえ !!」
ボコボコと体内で何かが暴れ出す。耐え難い激痛が襲う。その場で思わず蹲る。
「どんな強靭な肉体を持つ人間でも内蔵を鍛えることはできまい。ほら、集中が乱れたぞ。おらぁっ!」
「っ!!!!がはっ。」
痛みで回避できない。彼女の拳が腹に打ち込まれる。
痛めた腹に杖をあて、スライムの攻撃をキャンセルする。
「甘い。危機管理もない。すぐに人を信用する。あたしたちはまだ出会って間もないんだぜ。坊や」
「俺が欲しい、強さは誰かを犠牲にして踏み越える、強さじゃない。誰かを守る強さだ。あんたを殺して、手に入れた力、に何の意味がある」
「命に変えてもその言葉を貫くことはできるか?魔王様直伝、呪殺一撃・赤銅棍棒(しゃくどうこんぼう)」
静かに構える。腕に纏った魔力とは違う力が内側から溢れでる。赤腕から棘が生える。腕がどデカい棍棒と化す。頭上に振り上げられた棍棒は確実に俺を叩き潰すだろう。恐怖で奥歯がカチカチと音がなる。
「うああああああああ!!!!」
眼前に死が迫る。拳に貫かれる。悔しい、悲しい、つらい。全てが、弱い自分に直結する。名もない自分に直結する。
何も残せず、死ぬ。
何もなしに、死ぬ。
1人耐えるあの少女をたすけることもできず。
家族と言ってくれたあの子に恩も返せず、死ぬ。
名無しの俺の、名も無き人生。
ふとカリンの言葉を思い出す。
名前なんてわたしがつけたげるわよ。
「はっ!いまさら、黒濁を構えても遅い!魔力を吸いきる前にお前がミンチになってるさ!!」
「はぁ、はぁ、」
まだ、自分はこの杖をどこか借り物のように感じていた。あの少女が本来の持ち主で、おれは器。
あんたがわたしと出会ってからのことは、あんたのものでしょうが。
カリンの声が思い出される。
全てを飲み込むこの杖は
俺の杖だ。
俺をなんども助けてくれた。
俺の杖だ!!
「全て飲み込め!!黒濁!いや、……黒蛇(ウロボロス)!!」
黒い杖をふり、牛頭の腕の魔法を消し去る。そのまま、黒い杖は蛇のように腕にまとわりつき、俺の身体が重くなる。地面が、重さに耐えれず、ひび割れる。
「おい、おいおい、それはなんの冗談だ?まさか、あの量の魔力を一瞬で呑み込んだのか」
「はぁ、はぁ、……魔装だよ。はぁ、俺の。」
腕を見せる。
黒くまきつかれた杖と一体化した黒い腕。
「片腕だけの魔装?はっ、ははっ!ガッハッハッ!!しかも、自分の重さを増やして。笑わせるな。んなもんは魔装じゃねーよ、坊や。杖の力を解放して、強くなるのが魔装だ。弱くなってないか」
「はぁ、はぁ、さちよさんみたいに、一部分だけの魔装だ。」
腕を突き出すと、牛頭の身体が吹っ飛んだ。
「な、なんだ」
殴られた訳じゃない。触れられていないのだから。
「坊や。何をしたんだい」
「は、はは、よし……」
上手くいった。逃げ場の無かったエネルギーを、上手く使えたらと思っていた、重さをコントロールできてる。
「まさか、重さを、操作したのか」
「は、あはは、あぁ、そう、だな」
まだ、向きを変えるだけだが。杖の中の魔力を感じとり、流れの向きを変え、力の塊を相手に押し付ける。再び吹き飛ぶが、さっきまでの勢いはない。
「は、ガッハッハッ!所詮その程度!!」
「この力はな、あんたの力そのまんま返してる」
「?」
「あんたが、その程度と思うなら、それは、あんたが本気で打った訳じゃないってことさ。あんたは、お姉さんは、本当は優しいんだろ。」
「ば、馬鹿をいうな、あたしは本気で!」
「あぁ。だけど、無意識に力をセーブしてたんだろうよ。」
「そんなわけ」
「……あんた。それで、誰かを殺しきれなかったんだろ」
「……」
「そんなあんただからこそ、さちよさんは、あんたから技を教わったんじゃないのか?」
「あたしが殺し損ねたのが……魔王だとしてもか?」
「え?」
「……わたしは、はじめに魔王に戦いを挑んだ12人の魔道士の1人がわたしだ。敗北し、捕虜になった。そこで、知ったことがある。そこで、長い時を魔王と過ごした後、魔王の夢に協力することになった。世界の真実を知ったからな。」
「魔王の夢?」
「ああ、あれだけ強かった魔王がなぜ、他人に呪いを掛けてまで、魔力を集めようとしたか分かるか?呪いは掛けたほうにもリスクがあるってのに。だが、個人の夢なんて、大衆に飲み込まれていくのさ。暴走する魔王軍に終止符を打つべく。わたしは『千変』とともに魔王軍を離れ、勇者とともに魔王を倒そうとした」
「……」
「魔王を倒す寸前まで行ったが、わたしは、……。時を戻す魔法を打ち損じた。魔王を弱体化させるための、勇者が考えた作戦を失敗した。強くなる前までの年齢に戻す魔法が不発だった。なぁ、坊や。勇者に担ぎあげられたお前には真実を知っておいて欲しい。世界は」
牛頭は魔装を解き、話し始める。世界の真実を。誰かが言っていた。世界の真実を。
「弱肉強食!!!!」
だが、牛頭は目の前で、無情にも押しつぶされた。
「え……」
「はははは!!まさか黒い杖を探しに来たこんなところで、会うなんて!!義母上!あなたの力は第1王女の私が頂く!!!」
「お前…なにしてんだ…」
牛頭の魔力が第一王女に流れていく。彼女は感覚を確かめるように手を握ったり閉じたりを繰り返す。
「ん?あー、大したことない、か。せいぜい40点くらいか。レオ・タウロス義母上。期待してたんだが。カッカッカッ『牛頭』として人間たちに、『赤牛』として魔族達に恐れられてきたというのに。この有様」
その場を踏みにじり、唾を吐いた。そして、彼女は赤い杖と、血がつき割れた白い仮面を拾い上げた。白い仮面はボロボロと崩れ落ちた。赤い杖を振るうが、何か起こった様子はない。
「『丑三つ時』……さすがに固有の特級魔法までは手に入らぬか。……ん、この杖は、牡牛座(タウロス)ではないな。杖を入れ替えてたか。……赤鷲め」
「お前…なにしてんだ!!」
「ふー、赤鷲に返してやれ。」
彼女は杖をこちらに投げてよこした。あわてて受け取る。赤い杖には2人の少女がかたどられていた。彼女はようやく、こちらを向いた。その瞳は冷やかに燃えていた。
「……っ」
「あー。なんだ、0点。我はいま、軽く失望してるんだ。死んだと思った継母に会えたが、期待したチカラは無かった。下男、ぬしには興味はない。黒い杖を置いてけ。母の戯言に付き合ってくれた礼だ。それで命はたすけてやる」
こいつは、こいつは、
「お前を叩き潰す」
「さきほどの龍車で分かったろ。実力不足だ。仮に我が99点としたら、似非勇者、貴様は1点。それも杖の評価だ。わたしの魔法を止めた黒い杖は評価に値する。お前自身は0点でしかない。眼中にない。杖を置いて失せろ」
「別にそれでいいさ!お前の評価なんざ、1点の価値もない!1発殴らせろ!!……黒蛇(ウロボロス)!!!」
彼女への怒りに呼応しているのか。黒い杖が巻き付く範囲が広くなっている。その分力が増しているのを感じる。
「小物が……。お前たち。こいつを組み伏せろ。そしたらガキを見つけられ無かったことを帳消しにしてやる。お前らの頭みたく、頭を吹き飛ばされたくはないだろ?」
「へ、へい!やるぞお前ら」
雲切り場の屈強な男たちが10人ばかり、ホウキに乗り突っ込んでくる。
「おぉおお!!」
「許さねぇ…」
全身の毛が逆立つ。腕に巻きついている黒い杖がさらにうでを締め付け、拍動が耳元でうるさくひびく。
「ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛!!!」
杖がとろけ、腕を覆っていく。杖は形を変え黒い鱗が片腕に広がる。より深く強い魔装を。
「飲み込め……」
男衆の合間を縫うようにして、駆ける。脚部と目にだけ魔力を集中し、走り抜ける。魔力を吸われ次々にホウキが力を失い墜落していく。
「うわあああああ」
不時着する男たちは無視し、本丸を狙い手をかざす。
「そして、ぶっ潰す!!!」
取り込み、重さに変換された男たちの魔力を第一王女にぶつける。蛇と化した重力が彼女にぶつかる。
「『手』」
鈍い音がひびくも、手をかざすだけで、その攻撃は防がれた。
「10点だ。その程度の重み、巨人(ギガンテス)の呪いを受けた我が身には、毛ほどもダメージを与えることはできまいよ」
「そりゃ、そうだろうよ!!本気じゃないからな!」
煙が晴れ、第一王女の目の前に少年が現れる。
「なに?!!」
重力を操作し、一気に距離を詰めた。本命は俺だ!!さきほどは取り込んだ魔力の30パーセントほどだった。残りを拳に集めて叩きこむ。
「らぁ!!」
「っ!!舐めるなよ!!『足』」
彼女はその場でハイキックの姿勢をとる。何でそんな距離で。
「?!!!」
巨大な衝撃が脳を揺らす。集めた魔力が散る。見えない金槌で殴られたようにふらつく。意識が狩られかける。だが、燃やせ!怒りを!意識を保て!
「なんで、人から奪うんだ!!」
黒蛇の魔力を広げながら問いかける。
「強くなければ何も守れない。人も国も。お前は何万人もの人の命を背負っていきたことはあるか。なければ、口を慎め」
彼女の瞳が燃え上がる。
「負けた国がどんな末路をたどるか。負けた国の民がどんな最後を迎えるのか。魔王のいた時代を知らぬ貴様に、一時の正義感で言われる筋合いはないわ」
大きく振りかぶる。ブレる視界で感じる。呪いと魔力が混ざる。
龍車で受けた攻撃が来る。
「貴様を半殺しにした後は、あの小娘どもを処刑する。そうしたら、私の気持ちも少しは分かるだろう。」
「ふざけるな!!そんなことは絶対させない!!」
「絶対させない?頭に血が登り、冷静さを欠いたお前がか。似非勇者。この世は弱肉強食だ。『巨人(ギガント)呪(スペル)……」
彼女の過去に何があったかは知らない。だけど、言い返せない。
……坊や。右手を前に。
「!」
「『戦槍』!!!」
肩が外れるんじゃないかとおもうほど強い衝撃で吹っ飛ばされる。だが、黒蛇の力で、魔力を消せた。
「お姉さん!?」
だが姿は見えない。
いかなる時も敵から目を離すな。思考を止めるな。
お前は十分強くなってる。
声の主は、杖からだった。
救えるものも救えなくなるぞ
私は既に居ない
わたしの代わりにあの子たちを救ってくれ
「異母上の気配…亡霊が…」
深く息をはく。
ありがとうお姉さん
赤い杖をにぎる。
「いくよ、みんな」
魔装を片腕だけに限定したのは、習得期間を短くする為、だけでは無い。
黒い杖を使いつつ、その他の杖を同時に使用するためだ。
腕に広がっていた鱗は侵食をとめ、元の位置にもどる。
自分の周りに天上の杖たちが浮かぶ。
「第一王女、お姉さんの魔力を返してもらうぞ」
「カッカッカッ。いいぞ。弱肉強食。勝ったものが総取りだ。」
「……」
魔装が安定化したか。第一王女は評価を改めた。彼女もまた、強者の一角を担う魔道士の1人。奢ることはしない。黒い右腕に注意するとして、傍らに浮かぶ4本の杖は、どれも天上(プラネタリウム)の杖、か。勝てば総取り。国が一気に強くなる。このリスクをあの下男は把握しているのか?
「……カッカッカッ」
今日は呪いの力を使いすぎている。反動が怖いが、そうも言ってられない。
杖には使用者の魂が宿る。赤い杖が牡牛座ではないにしろ、継母の魂がそこにあるなら、『丑三つ時』が使えるようになる可能性がある。そうなる前にかたをつけなければ。
次々に飛んでくる水の弾丸を『手』で防ぐ。両脇から飛んできた魔法の弓矢は『足』で地面を踏みつけ、高く飛び上がることで防ぐ。目の前に迫る少年には、杖を振るい、盾を作り出す。たしかに数時間前までとは確実に動きが違う。
「水瓶座(アクエリアス)」で足場と中距離、盾もだせる。「射手座(サジタリウス)」で長距離と牽制を。近づけば、黒い杖の間合いだ。
別段魔力が高まってるわけではない。ただ単に魔法の使うタイミングが上手くなっている。いまも、我の『手』や『足』を真似て、水の魔法で再現している。底なしの学習意欲。今は一兵卒にすぎないこやつも。時が経てばたつほど厄介になっていくだろう。
魔力を吸い出し、巨大な身体を作り出す「呪い」。昔は無秩序に自分の意志とは関係なく、ところ構わず発現していた。
家族や部下、国のものたち。多くの人に迷惑をかけてきた。恩を返す。国を守るのが我の使命だ
こんな何処の馬の骨とも分からぬ輩に、国を世界を任せられるわけないだろうが。
「似非勇者。お前は何のために戦う」
「守りたいもののために」
「……エゴだな」
「あんたがなにか背負っているなら、俺もそれを手伝うぞ」
「は?」
「倒すのは簡単だけど、それよか仲間になって考えようぜ」
「……カッカッカッ!甘い!甘い甘い甘い甘い甘い!!!その答えは0点だ!!!!我にも勝てぬお前に!!誰がたよれるか!」
彼女は杖を抜く。
「はは……」
彼女は今まで全く本気は出してなかった。
冷や汗がたれる。
これはやべーや。
「巨躯を駆りて、薙ぎ払う!獅子の爪痕、大地に遺す!!魔装・赤獅子巨兵の陣!!」
赤髪の大獅子が目の前に現れる。いや、獅子を肩に背負った巨大な女騎士だ。瞳は煌々と燃えている。唸る声は空気をびりつかせる。両手には長い爪が装備されていた。
「『爪』!!!」
頭上から巨大な爪が迫り来る。
「黒蛇!!!」
蛇を走らせ、とぐろを巻いた盾を作り出す。
「……?!……がふ!」
ぽたぽたと血が流れる。裂かれた腹に焼けるような痛み。
「魔法は全て、なん、で」
「魔力は、消せても、実態のある刃は消せないだろ」
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大量の水でおしのけようとする。だが、
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甲冑が赤く染まる。これは、幾度とみた。さちよさんや、お姉さんの技。
「その、技は」
「あぁ、継母上の技だ、せっかく手に入れた技だ。出し惜しみしなくてもいいだろう、よ!」
腕で防ごうとするも、即座にその危険性を感知する。まずい!!
「水瓶座(アクエリアス)!!!」
腕に魔力を纏わせて、さらに水の盾を何重にも重ねるも。全て破壊される。
「があああ」
拳撃の威力があがってる。受け続けるには危険だ。
「カッカッカッ!防ぐだけじゃ、我に勝つことはできんぞ」
「あぁ、そうだな、出し惜しみしてる場合じゃねーよな」
「……カッカッカッ。まるで今までそうじゃ無かったみたいな言い方だな」
「これから帝都に乗り込まないと行けないからな。だけど、そうも言ってられないようだ」
おれは思いっきりケツに手をつっこんだ
ぬぽん!!
「は?!!」
少年は宙に浮かぶ継母上の杖を掴むと、しりにその杖を突き刺した。深々と。赤い杖だけじゃない。全ての杖をしりに突き刺したのだ。
「ぎゃあああ」
少年の悲鳴があがる。頭を抱え悶絶している。
「何やってんだ!!真剣な戦いの最中に!!我を愚弄する気か!!『巨人呪(ギガントスペル)!戦赤槍!!』」
赤角(レッドホーン)で強化した状態での戦槍。防ぐことはできまい。ただでさえ、城壁でさえも一撃で粉砕する威力だ。これでしまいだ!!
少年は避ける様子はない。ただ真っ直ぐこちらを観て、呟く。
「赤牛(レッドホーン)、赫鷲(レッドホーク)、黒蛇(ブラックパイソン)」
赤い巨大な爪が当たる直前、荒野に声が響く。
「混合魔装・赫翼蛇王(バジリスク)!!!」
自分の爪がこれ以上進まないことに違和感を感じる。
なんだこの圧力は、
なんだこの硬さは、
なんでこやつは、赤牛と赫鷲の気配を放っているんだ。
煙が晴れた後、王冠のような赤い角、背中には赫い翼、蛇をかたどった黒い鎧の少年がいた。
「悪いな、時間が無いから直ぐに終わらせる」
「ほざけ!!我は継母から奪ったこの力と魔王の呪いがある!!はったりに」
「『赤腕』」
少年の腕が赤く染る。命を奪わんとする爪を殴り止める。
この力、継母上の。馬鹿な!
「『双子座(ジェミニ)』、『赫(ダブル)!!』」
奴の力が倍近くに膨れ上がる。まるで、これは、赤鷲の『赫』。アイツの魔法ではないか。何が起こっている。
「『赤鷲(レッドホーク)』!!」
深く足を踏み込み、止めた巨大な爪を殴りあげる。
「くっ」
「なぁ、第一王女、おれはさちよさんから、魔力の感知を、お姉さんから杖の理解度の深め方を教えてもらった。かつての黒い杖の使い手は、ケツに杖を入れることで、杖の経験値を自分のものにすることができたんだ。一気に記憶が流れ込むからめっちゃ頭痛い。そして、まだおれの実力じゃあ、見慣れたこの技を真似するのが精一杯だ」
息を吸い込み、胸を張る。
「だから、おれはこんなもんじゃない!まだまだ強くなる!!」
魔装が解け始める。
「はっ、そんな朧気なものに命をかけろと?世界の命運を握らせろと?」
「俺一人じゃ無理だ。俺の仲間やあんたらにも力を貸してもらいたい。ガッハッハッ!!」
「継母上の真似か?」
「そして、さちよさんもだ。赤牛の想いも赤鷲の思いも、おれは受け取っている。お姉さんはあんたらのことを心配してたぞ」
「継母上が」
第一王女のほうも魔装が消えつつある。彼女は目をつぶる。再び開いた時、彼女の意思は固まったようだった。
「我が名は帝都第一王女レオ・アルタニク!勇者よ!貴公に決闘を申し込む」
「勇者、名前は、ない!!」
荒野に冷たい風がふく。
「はぁ、しまらねーな。……とりあえず。黒蛇使い(アスクレピオス)ってのはどうだ。12星座に属すことの出来なかった13番目の星座だ。医者の星座だから、この世界の病を治してくれることを期待する。」
「おぉ!かっこいい!!ごほん、こちらも名乗らせてもらう!勇者・黒蛇使(アスクレピオス)い!!受けて立つ!!」
「カッカッカッ!!100点だ!!行くぞ!!」
「来おおおおい!!!」
「巨人呪(ギガントスペル)・大戦赤槍!!!」
大地を踏みしめて、魔力と呪いを拳に集中させる。赤角(レッドホーン)でさらに強化されている。我の最高の一撃。
「赫翼蛇王(バジリスク)の咆哮(ブレス)!!」
赤角(レッドホーン)に赫(ダブル)をかけて2倍にした力を加えた。黒蛇によって防御不可能の一撃を放つ。
お互いの現時点最高の一撃。
「はあああああああ!!!」
「うおおおおおおおぉ!」
激しい衝突音が響き渡り、この一帯に降り注ぐ魔法はその衝撃で吹き飛ばされていく。
「ああああああ!!」
「まだまだあああ!!」
轟音とともに、千虹雲海にぽっかりと穴が空き、太陽の光が久々に降り注いだ。
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