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第四章 オレは75人の魔法少女からケツを守られている
帝都オリオン2
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「軒並みのセリフは要らないさ。救ってやるだの。一緒にいてやるだの。あんな甘ったるいのはまっぴらごめんだね。」
彼女の瞳は冷ややかだった。
「あんたがどんな罪を背負っているかは知らないけども、1つ約束出来ることがある。」
「へー面白い。どんな約束だ。」
息を吸い込む。
「……強くなったあかつきには、俺があんたをさばいてやるよ。覚悟しやがれ!!しっかり鍛えあげないと討ち損じるぜ!!」
しゅびっと指を指し、キランと歯を輝かせていう。ああ、俺は弱いからな。勇者がいいそうなセリフは言えそうもない。このお姉さんはさちよさんクラスの強い人だ。守ってやる的なこと言えるわけない。
「…………はっ、ガッハッハッ!!!」
ひとしきり笑ったあと、彼女はため息をついて、一言。
「……不合格だ、死んで、我が糧となれ」
「ひ、ご、ごめ…」
杖に炎が灯り、両腕が赤く染まる。あ、あ、選択を間違えたか?だが、一歩踏み出し、怯まず続ける。出かけた言葉を飲み込む。ここで引いちゃダメだ。
「いいや!死なないね!!あんたが俺を鍛えあげるんだ!あんたの罪の重さの分な。自分が許せないんだろ?償いたいって思ってんだろ?だったら、俺が裁きをくだしてやるよ!おれは弱いぜ!めちゃくちゃ弱い!村の子供にだって、腕相撲で勝てたことない!さぁ、おれには伸び代しかないんだ!覚悟しやがれ!!」
眼前まで迫った燃える拳がピタリと止まる。
「……は!威張って言うことかい」
「どうだ。強くしなくちゃ。あんたを罰することができないぞ」
「……はっ。罰せられる方が好きそうな顔してよく言うぜ」
「……ふ、ふん。」
な、なぜバレたし!!!!
「まぁ、……いいだろう。お前の誘い文句に乗ってやろう。ったく。旦那以来だよそんな馬鹿な誘い方してきたのは」
彼女は少し笑った。
「旦那さん……」
「あぁ、」
遠い目をする彼女。何かまずいことを聞いてしまったか?彼女の罪は旦那さんに関係するとか。
「今頃5人いる妻の誰かとよろしくやってんだろうよ」
「どんな奴だよ。1回ぶん殴らせろ。そんなうらやまけしからんやつ」
「人の旦那を殴ろうとすな。いいだろう。外出るぞ」
地上への階段を登りながら彼女は尋ねる。
「魔道士が強くなるためにはどうすればいいかわかるか?」
「魔力を増やすとかですか?」
「まぁ、それもあるが、魔力を増やすには時間がかかる。魔道士が強くなるためには杖の理解度をあげることさ。何ができるか、どう使うか。坊や、君はその黒い杖を正直どう思う?」
「クソ重たい杖……ですかね」
「がっかりだよ……神級の杖も坊やにとってはそんなもんか。」
彼女は角を擦りながら思い出すように言う。片方の角は途中で欠けていた。
「巫女の嬢ちゃんは特別な力をいくつか持っていた。ケツから杖を出す力、口から聖剣を出す力、手から魔道具を出す力、体液が魔法液になる力。だが、これらの力は冒険の中で発現していった力だった。だがもっぱら、1番初めに手に入れた黒い杖を使うことを好んだ。」
「この杖を使いこなしていたと言いたいんですか?」
「そうだ。長い旅で試行錯誤して、扱えるようになっていった。かつての魔王の幹部を倒せるくらいな。」
「おれにはそんな時間は」
「分かってるさ。1から作り出すのと、習うのでは習得の時間は全然違う。さらに実践の中、手合わせ。いや、殺し合いの中なら尚更な。」
「だから、おれには時間が」
地上に着くや彼女はおれに杖を向けた。
「そうだ。時間だ。特級魔法『丑三時(うしみつどき)』。あたしは一日に30分だけ時間を操ることができる。空中から、落ちるお前を掴んだのも、その魔法を使ったからだ。今から、30分いや、さっきのこともあるから、もう少し短い。できるだけ長くお前の時間を引き伸ばす。体感時間としては三日分だ。その間に、強くなれ。あたしの記憶の中の巫女と戦わせてやる。」
彼女は懐から人形を取り出す。そして、ぶつぶつ呟きだした。
「空器古魂黄金巫女戦闘記憶投射黒杖……」
「……」
「神、様?」
見覚えのある金髪の少女がいた。だが衣装はワンピースではなく、日本の巫女衣装に近く、赤色の変わりに金色の刺し色があった。うっすらと体は透けており、中心には先ほどの人形の依代があった。彼女は静かに杖を構える。黒い杖だ。
「さぁ、坊や。ステップ1だ。魔法の雨をよけながら、巫女に黒い杖を押し当て魔法を解除しな。そしたら次のステップだ。彼女の持つ杖は、魔呪具だ。お前の杖の下位互換版だと思ってくれ。気張れよ。……ねうしとらうたつみうまひつじさるとりいぬい……時を司る獣よ、時を切り取り引き延ばせ……『丑三時』」
降り注ぐ雷や雨や炎が、次第に落ちる速度を遅める。角のお姉さんも動作がゆっくりだった。だが、俺と巫女だけが普通に動いている。いや、違うな。俺たちだけ時間が早いんだ。
「いくぞ!」
降り注ぐ炎や雷を避けながら巫女に接近する。距離は10メートルほど。こんだけ遅ければ、空の魔力を感じ取れば、なんとか避けながら進める。
「乙女座(ヴェルゴ)」
女体化し、身体を小さく、そして、しなやかにさせる。力は出ないがこっちの身体の方が、回避能力が高い。
美しく無表情な巫女がゆったりと杖を振り上げると、体が見えない力で引っ張られる。
「黒濁の舞『吸』」
1本吊りされるように身体が浮き上がる。
「うぉ!」
自分自身にも「丑三つ時」をかけたお姉さんの声が頭に響く
「1度に打ち消せれる領域は自在に変えられる。細く長くすれば、魔力の吸引力は上がる。魔力を含んだ物体をひきよせるくらいにな」
予想外の攻撃に驚くも目の前の雷を体を捻りなんとか躱す。黒い杖を出す訳にはいかない。課題こそあれだが、重さで動けなくなるのはこの場ではハンデになる。
彼女はその場でくるりくるりと回る。なにかしてくる。
「水瓶座(アクエリアス)!射手座(サジタリウス)!」
水弾を打ち込み牽制する。
「杖を重くしてやれば」
たとえ防御されようが動きが鈍るはず。
「それは悪手だ」
「黒濁の舞・『重』」
しゅん!
ぶん!!
ズン!!!
こちらの魔力を吸収する。3回転した彼女の杖は回る度に水弾を吸収し大きくなるオーラをまとっていた。そして、彼女はそれをそのまま振り下ろす。空中で身動きがとれない。
「!!!!」
衝撃とともに地面に叩きつけられる。
ぱんっという拍手の音とともに現実に戻される。
「双子座(ヴェルゴ)を使うなら並列処理能力も上がっているはずだ。女の脳はそういうのも得意だ。人体について学べ。水瓶座(アクエリアス)はたしかに魔力量が増えるがばら撒くだけだとすぐガス欠になる。相手が処理しにくい2箇所以上に同時に着弾するようにしろ。射手座(サジタリウス)は目で追うな。撃ちたい対象を魔力とイメージで捕らえろ」
アドバイスが次々におくられる。矢継ぎ早の情報に頭が追いつかない。
「おいしっかりしな……通常時の黒い杖の使い方はシンプルだ。魔力を吸い無効化し、重い杖を叩き込む。いま、お前が身につけるべき力は、杖を持ち上げれる身体強化、重量増やすタイミングを見る目。魔力を吸う範囲の調整だ。よく覚えておけ。魔装でも出来れば早いんだが」
「っ!だから、魔装を」
「さちよはそう考えていたみたいだな。だが、まずは赤の身体強化魔法を会得してもらう。赤の身体強化は体の内側で行なわれる。黒い杖の影響が少ない。併用が可能になるだろう。それに魔装を会得するよりも身体強化魔法のほうが早い。
体内の魔力を感知し、その流れを早く巡るようにしろ。あとは、強く早く動かしたいところに魔力を集中させろ。早く構えろよ。死ぬぞ」
巫女がこちらに突っ込んでくる。
「早っ」
「赤の歩法だ。着地と同時に足の魔力を高め脚力を上げて、地面を強くけることで、移動速度を早めてる。はよ行け」
繰り広げられる戦闘を見ながら呟く。
「……ステップ2なんか無い。あとはあいつの努力とセンス次第だな」
「さすがだな。黒い杖を学ばせると言って実際は天上の杖の扱い方をレクチャーか。よく引受ける気になったな」
若い男の声が聴こえる。
「別に少年、君の提案に乗ったわけではないさ。面白い坊やだったからさ。実践の中で得るものは大きい。巫女の使い方を躱すうちに、黒い杖の力は身につけるだろうさ。だったら、その間天上の杖を使わせて、魔力操作をなれさせるほうがよいだろう。そもそも赤の体術は、魔装を習得出来なかったさちよが魔装使いたちと渡り合うために編み出してたからな。赤を極めれば魔装にいきつく。ここの空気中の魔力量は、半端じゃない。普段はできない魔装もしやすい。きっかけがあれば、魔装すらできるようになるかもな」
彼女の懐には、白い仮面が入っていた。そこから声がしていた。
「いいのか?この30分で坊やは少年、君より強くなるかもよ」
「はっは。ないさ。まだ魔装も杖の対話もできてないひよっこ冒険者に負けることなんか万にひとつも無い。なに、単純に競走相手に張合いがなかったらつまらないだろ?」
「旦那が聞いたらなんていうか」
「さてな。あいつなら千尋の谷に突き落とすんじゃないか」
「……ちがいない。なぁ、坊やは少年に似てるよな。兄弟か?」
「いいや、あいつはもうひとつの可能性さ」
帝都の第二王女は何かに気づいたように駆け出した。
「も、も、もしかして、しょ、しょーぐんちゃん」
「あ、王女ちゃん」
2人は駆け寄ると手をとりあってクルクルと回転しはじめる。
「こないだの最新話見ましたか?夕日をバックに走り去った2人の背中。あれは春風先生の処女作、港に向かってドロップキックのラストシーンのオマージュ。健太と撫子の関係を暗に示しているのでしょう。友人よりも1歩進みたい撫子に無頓着な健太。イライラしてしまい、鯖缶片手に撫子がドロップキックをかましたのは痛快でした!!」
さきほどまでの口調とは打って変わって流暢に語り出す。
「みたでござる。みたでござる!けんなでのカップリングは正に王道!わかる!わかるでござる。だけど拙者はあえて、ひろしを推したい。健太が無頓着であるのはひろしが代弁してくれるからの安心感。幼なじみというアドバンテージを最大限に生かしてほしいでござる。今回の話で、なぜ、ひろしがスルメを依代に召喚魔法をかけていたのか。なぜ大天使ちくわぶを選んだのかが読み取れるでござる」
周りの視線が突き刺さる。何を言ってるんだ。
「最近人気の春風っつう作家の書いてる恋愛小説、おしりに刺すなら、杖かバラか の話だな。通称つえばら。だな。」
「は!」
「は!」
「あー積もる話があるようなら、行ってきていいですよ。お姉様」
「え、あ、その、」
「い、いいんでござるか?」
「あぁ、行ってこい。なぁ、王女さんいいだろ。あの宿に泊まるからあとで来いよ」
「それでしたら是非王宮のほうで」
「え、」
「ぜひ」
彼女は笑ったあと、カリンを手招きして呼ぶ。
声を潜めて言った。
「あなた方が本当の勇者様方なんでしょ?」
彼女はウインクをした。
「さて参りましょう」
王女たちと近衛兵に導かれて歩いていく。
「いいんすか?政権が交代した直後の慌ただしい時期に部外者を入れて」
クーデターという直接的な言葉は使わずにガブコは尋ねる。
このあたりは大陸中で教官を勤めていた彼女らしい聞き方だった。
「えぇ、構いませんよ。政権交代はあっけなく終わりましたの。父も母たちもご自身の荷物だけ持たれて国外に去りましたから」
「なんでまた、そんなことを。別段国が荒れてるような話は聞いてなかったですよ」
アンが踏み込んできく。彼女もまた職人として各国と繋がりがあったため、気になっていた。
「いえ、彼らのやり方では時代遅れだと感じたまでですわ。価値の無い国ばかり、ちまちま狙って襲う。意味のないこと。効率が悪いのですわ。国の繁栄を思ったからこそ、父たちも抵抗せずに出ていかれたのでしょう」
「ふーん。あの獅子王が何も言わずに…」
さちよがぽつりと言った。さちよの印象とはだいぶ違う。勇者と肩を並べ、魔王と戦った1人で、さちよもかつて会っていた。不条理や理不尽には真っ向から立ち向かっていくタイプだが。
「さぁ、着きましたわ」
都のシャボン玉とシャボン玉の境目まで来た。金色のゲートがあり、屈強な門番が待ち構えていた。どちらの門番も角や翼が生えた魔人だった。
「確認のために腕輪を」
門番が王女にいう。
「はい。私たち10名と勇者様のお仲間5人ですわ。」
彼女が腕を見せ、金色の腕輪を差し出す。門番は難しい顔をしながら、腕輪にさわる。何やら腕輪を確認すると深々と頭を下げた。
「お帰りなさいませ。第三王女、第二王女。さきほど、命じられていた宴会の準備はあと30分ほどで整います」
「ありがとうございます。さぁ、行きましょう。みなさま」
「宴会?」
「先に到着されていた勇者さまを迎える準備をしていましたの。皆様方も是非御一緒に」
シャボン玉の虹色のドアをあけると庭園が広がっていた。美しい花がさき、石畳が続く。
帝都オリオンの王宮は3つのシャボン玉の中央にあり、細長い建物がそびえたっていた。
玉と玉の間に、そびえたつ棒。
「あれは、ちん」
「ばかっ、り、り、立派な建物ですね」
ショーグンの言葉を焦って、かき消す。
「?あちらは帝都名物ロイヤルエレファントキャノン。通称、ゾウさん砲ですわ」
「ぞ、ぞうさん」
「そうです!ぞうさん砲!射程距離はざっと数十キロ。相手に感知される前に、砲弾を打ち込むことができますわ。撃ち出される弾も、魔法弾、質量弾に切り替え可能。たとえ、魔法障壁があろうと堅い岩の砦だろうと関係ありません!かつて魔王城にも撃ち込まれたという名誉ある砲台なのですわ!」
目を輝かせながら彼女は熱弁する。
「ただ、ポンポン撃てないのが、歯がゆいですわ。我が国には、それを可能にする技術がないのです」
「へー。ウチは鍛冶屋でもあるから、ちょいと見てみようか?宮殿に招いてもらった礼に」
「あら!それは素晴らしいですわ!是非お願いしたいですわ!」
「腕がなるね!」
「ほら、案内して差し上げて」
一緒にいた近衛兵に言った。
「って訳でチョックラ見てくるぞ。いいよな」
「ガッハッハッ!宴会の食い物無くなってても文句言うなよ?」
「そんなにかからねーよ。」
彼女はひらひらと手を振ってしっぽの生えた近衛兵について行ってた。
すると、入れ替わる形で、王宮の中からガシャガシャと音を立てて、甲冑の兵士たちがやって来た。
「おーい!ガブコ隊長!!」
親しげに話しかけた甲冑の主は、頭の兜を外す。
「え?!あんたは、あのドケチ領主の時のっすよね!!どうしてここにいるんすか?!」
「いや、こっちが聞きたいですよ、隊長。うちらは姫様に拾ってもらったんですよ。あの騒動の後、王都から調査団が来て追い出されちまったんで、路頭に迷っていたんです。他のものもいます」
「こらこら、衛兵が持ち場を離れてはいけませんよ。」
「あ、姫様。すみませんです。それでは隊長、この辺で」
「あら、せっかく勇者様のお仲間とお付き合いがあるのでしたら、少しお話をされては?積もる話もあるでしょうし」
「し、しかし、姫様。それは」
「いいのですよ。今日くらい。第一王女のお姉さまもまだ帰られていないですし。我が国に敵対の意思を持つ国は近くにありませんから。盗賊たちも勇者さまが壊滅させてくださいましたし。」
「は、はい。ありがとうございます。では、隊長こちらに、詰所があります」
「え、あ、いや、いいんすか?」
「近衛隊も、今は王宮ですから、わたしは大丈夫なので、通常の業務に戻られてください」
「ね、ねぇ、ショーグンちゃん。私のへ、部屋はこっち、」
「あら、そうでしたわね。お姉さま。ショーグンさまも行ってらっしゃいませ。お姉様、宴会には間に合うように」
「わ、わ、わ、わかってる」
2人も離れた所にある彼女の部屋に向かった。
静かになった庭園で第三王女はかりんとサチヨに話しかける。
「あらあら、私たちだけになってしまいましたね。宴会場に先に行きましょうかお二方」
二人を連れて王女は長い塔の王宮の中に入っていった。
もう何度目になるか、あとすんでのところで、届かない。黒い杖は虚しく宙を切り、代わりに巫女のするどい杖の一撃が腹につきささる。
「んぐぅ」
もう、吐きすぎて何も出ない胃が唸る。おれは強くなれているのか。よぎった不安を頭を振って追い出す。足でまといはうんざりだ。仲間や偶然に助けられるのはもうたくさんだ。強く、なりたい。だけど。
「はぁ、はぁ、あと、もうちょい、なんだけど、な」
「まぁ、そう、だな」
荒い息を整えようとしている少年を見て、冷や汗をかく。もうちょい、だと。私は3日で到達するとは思っていなかった。なんだこの底なし沼の様な学習能力は。すでに魔力による身体能力の強化は魔法少女クラス。魔法の扱いもかなり上達している。センスがあるわけではない。だが、失敗を修正してアドバイスを聞き再度挑む。トライアンドエラーによって、成長していっているのだ。まるで、今まで空っぽだったかのように。みるみる吸収していっている。さちよ、ほんとにこいつに教えたのか?知識もない。当然基礎のきの字も知らなかった。びゅーんとか、バーンとかの幼稚な言い方しかできないこいつが。
「……坊や、魔力を感知するのは、回避だけじゃない。攻撃にも転用できる。相手の弱い所。魔力の薄いところを狙え。水瓶座(アクエリアス)のイメージを黒い杖に持て、水は姿形を、自由に変えることができる。相手がかわすことの出来ないタイミングを逃すな」
「はい!」
巫女の黒い杖の力を避けながら、肉薄する。水の足場や分身を出しつつ、身体のサイズを変える。射手座の撃った反動で緩急をつけた回避行動をとり、巫女の魔力を感じ取る。右足に魔力が集まってる。たぶん。飛ぶ!!なら!
「ウオオオオアアアアアアアアアッッッッ!!!!!」
黒い杖をぶち当てる。巫女の魔力を吸い重くなった杖を振り下ろした。
「はっ、すごいな」
本来の威力で天上(プラネタリウム)の杖が使えないとはいえ、巫女の力は魔法少女No.30クラスくらいの実力はある。
「よっしゃあああああ!!」
巫女の姿が掻き消えた。角のお姉さんは地面に落ちた人形をひろう。
「……まったく見事だよ。少し休憩しよう」
渡された水を飲む。かすかに甘い。
角のおねーさんは空を見ていた。
「騒がしいな。」
「?」
彼女はそういうと、腰の袋から4本の角を取り出した。
「……気休めにしかならないだろうが。探知妨害の結界を張っておこう。」
彼女が角をほおり投げると、その角は4方向に飛び、地面に突き刺さった。するとうっすらとドーム場に結界が張られるのを感じた。
「坊やは帝都にいくなら、三姉妹を知っているか」
「第一王女には会ったことがあります」
「ほかの王女たちも癖が強くてな。第二王女は引きこもって何やら研究をしてる。第三王女は独自のパイプで国外と繋がりをもち、手堅く基盤作りをしているようだ。クーデターの首謀者たる三姉妹が統治を始めて国土が倍増した。」
「?それっていいことじゃ」
「坊や。帝国ってのはどうやって国土を増やすと思う?」
「そりゃ。土地を広げたりするんだろ?」
「その土地はどうやって調達するんだい」
「そりゃ。鍬とかで畑つくるみたいに」
やれやれとため息をついた。
「時間がかかるだろ?」
「じゃあどうやって」
「簡単さ。出来ているものを奪えばいいんだよ。」
「え」
「他国を侵略して属国にして、資源を奪っていくんだよ。国ごと移動してな」
「な、自ら戦争を仕掛けるってのか」
「そうさ。まぁ、帝国を名乗っている以上前王の時も、そういうことはあったけどな。魔王との戦争がひと段落したあと、自給自足のできない国々を集めて、共同で国を作っていった。いまある帝都オリオンに人間も魔族も住んでいるのはそういう成り立ちだからだ。だが、王女たちは違う。帝国の名のもとに侵略している。如何せんペースが早すぎる。第一王女の性格もあって、大雑把に、国の進行方向にある土地を手当り次第攻めている。しかもこのままいくと王都もその餌食になる」
「そんな、反対する人はいなかったんですか?」
「魔法少女たちが反対したさ。彼女たちは大陸の安定を目的にしているからな。意見したもの、挑んだもの。何人かいたらしいが、ある日突然姿を消した。王女が何かしたのだろう。千虹雲海も急速に範囲を広げていて、情報も入りにくい。25人いた魔法少女たち。内20名が行方不明だ。」
「残りの5人は」
「前王の妃たちだ。いずれも国外にいる。前王の指示だ。いずれの妃も貴重な魔法の持ち主だったからな」
彼女は空を見上げる。
「どうなったかわからないんですか」
「そうだな。わたしにはわからない。坊やの実力では、王女たちには聞こうとしても、ボコボコにされてぐっちゃぐちゃになるか、実験動物にされてぐっちゃぐちゃになるか、闇に葬られてぐっちゃぐちゃになるか。」
「いずれにしろぐっちゃぐちゃなんすね」
「そこでステップ2だ」
「あぁ!よろしくお願いします!」
「あたしを殺せ」
「な、何を!」
「私の持ち物は全てやる。その黒いリングが使い方を示してくれるはずだ。私たち魔人は倒された相手に力を託すことができる。まぁ、坊やのこれからの力の足しにはなるだろう。いくぞ」
彼女は一歩踏み出す。空気が震えるほどの魔力。
「たんま、たんま!!お姉さんを殺すなんてことはできないですって!」
「時間がない。すぐに第一王女がくる。躊躇するな。丑三つ時!!」
杖を振るうと再び時間が加速する。
「我が角よ。偉大なる魔王に賜った大角よ。敵を串刺せ、ぶっ潰せ!赤角(レッドホーン)」
「さちよさんの技?!」
彼女の両腕が赤く染る。
「ガッハッハッ!ちがうね。……わたしがオリジナルだ」
両腕のみならず、足が、全身が赤く染まる。
「坊や……」
荒野に高々と伸びる二本角が燃える。全身の傷跡から魔力が吹きあがる。なんつう、魔力量。猛々しく吹き上がる魔力が空からの氷塊を一瞬で蒸発させる。
「……継いでいけ。赤(わたし)の遺志を。魔装・赤角戦鬼(レッドデーモン)!!さぁ、わたしに裁きを下すときだ。坊や。……いや、次代の勇者!!元魔王軍、大幹部が1人《牛頭(ごず)》が参る。」
彼女の瞳は冷ややかだった。
「あんたがどんな罪を背負っているかは知らないけども、1つ約束出来ることがある。」
「へー面白い。どんな約束だ。」
息を吸い込む。
「……強くなったあかつきには、俺があんたをさばいてやるよ。覚悟しやがれ!!しっかり鍛えあげないと討ち損じるぜ!!」
しゅびっと指を指し、キランと歯を輝かせていう。ああ、俺は弱いからな。勇者がいいそうなセリフは言えそうもない。このお姉さんはさちよさんクラスの強い人だ。守ってやる的なこと言えるわけない。
「…………はっ、ガッハッハッ!!!」
ひとしきり笑ったあと、彼女はため息をついて、一言。
「……不合格だ、死んで、我が糧となれ」
「ひ、ご、ごめ…」
杖に炎が灯り、両腕が赤く染まる。あ、あ、選択を間違えたか?だが、一歩踏み出し、怯まず続ける。出かけた言葉を飲み込む。ここで引いちゃダメだ。
「いいや!死なないね!!あんたが俺を鍛えあげるんだ!あんたの罪の重さの分な。自分が許せないんだろ?償いたいって思ってんだろ?だったら、俺が裁きをくだしてやるよ!おれは弱いぜ!めちゃくちゃ弱い!村の子供にだって、腕相撲で勝てたことない!さぁ、おれには伸び代しかないんだ!覚悟しやがれ!!」
眼前まで迫った燃える拳がピタリと止まる。
「……は!威張って言うことかい」
「どうだ。強くしなくちゃ。あんたを罰することができないぞ」
「……はっ。罰せられる方が好きそうな顔してよく言うぜ」
「……ふ、ふん。」
な、なぜバレたし!!!!
「まぁ、……いいだろう。お前の誘い文句に乗ってやろう。ったく。旦那以来だよそんな馬鹿な誘い方してきたのは」
彼女は少し笑った。
「旦那さん……」
「あぁ、」
遠い目をする彼女。何かまずいことを聞いてしまったか?彼女の罪は旦那さんに関係するとか。
「今頃5人いる妻の誰かとよろしくやってんだろうよ」
「どんな奴だよ。1回ぶん殴らせろ。そんなうらやまけしからんやつ」
「人の旦那を殴ろうとすな。いいだろう。外出るぞ」
地上への階段を登りながら彼女は尋ねる。
「魔道士が強くなるためにはどうすればいいかわかるか?」
「魔力を増やすとかですか?」
「まぁ、それもあるが、魔力を増やすには時間がかかる。魔道士が強くなるためには杖の理解度をあげることさ。何ができるか、どう使うか。坊や、君はその黒い杖を正直どう思う?」
「クソ重たい杖……ですかね」
「がっかりだよ……神級の杖も坊やにとってはそんなもんか。」
彼女は角を擦りながら思い出すように言う。片方の角は途中で欠けていた。
「巫女の嬢ちゃんは特別な力をいくつか持っていた。ケツから杖を出す力、口から聖剣を出す力、手から魔道具を出す力、体液が魔法液になる力。だが、これらの力は冒険の中で発現していった力だった。だがもっぱら、1番初めに手に入れた黒い杖を使うことを好んだ。」
「この杖を使いこなしていたと言いたいんですか?」
「そうだ。長い旅で試行錯誤して、扱えるようになっていった。かつての魔王の幹部を倒せるくらいな。」
「おれにはそんな時間は」
「分かってるさ。1から作り出すのと、習うのでは習得の時間は全然違う。さらに実践の中、手合わせ。いや、殺し合いの中なら尚更な。」
「だから、おれには時間が」
地上に着くや彼女はおれに杖を向けた。
「そうだ。時間だ。特級魔法『丑三時(うしみつどき)』。あたしは一日に30分だけ時間を操ることができる。空中から、落ちるお前を掴んだのも、その魔法を使ったからだ。今から、30分いや、さっきのこともあるから、もう少し短い。できるだけ長くお前の時間を引き伸ばす。体感時間としては三日分だ。その間に、強くなれ。あたしの記憶の中の巫女と戦わせてやる。」
彼女は懐から人形を取り出す。そして、ぶつぶつ呟きだした。
「空器古魂黄金巫女戦闘記憶投射黒杖……」
「……」
「神、様?」
見覚えのある金髪の少女がいた。だが衣装はワンピースではなく、日本の巫女衣装に近く、赤色の変わりに金色の刺し色があった。うっすらと体は透けており、中心には先ほどの人形の依代があった。彼女は静かに杖を構える。黒い杖だ。
「さぁ、坊や。ステップ1だ。魔法の雨をよけながら、巫女に黒い杖を押し当て魔法を解除しな。そしたら次のステップだ。彼女の持つ杖は、魔呪具だ。お前の杖の下位互換版だと思ってくれ。気張れよ。……ねうしとらうたつみうまひつじさるとりいぬい……時を司る獣よ、時を切り取り引き延ばせ……『丑三時』」
降り注ぐ雷や雨や炎が、次第に落ちる速度を遅める。角のお姉さんも動作がゆっくりだった。だが、俺と巫女だけが普通に動いている。いや、違うな。俺たちだけ時間が早いんだ。
「いくぞ!」
降り注ぐ炎や雷を避けながら巫女に接近する。距離は10メートルほど。こんだけ遅ければ、空の魔力を感じ取れば、なんとか避けながら進める。
「乙女座(ヴェルゴ)」
女体化し、身体を小さく、そして、しなやかにさせる。力は出ないがこっちの身体の方が、回避能力が高い。
美しく無表情な巫女がゆったりと杖を振り上げると、体が見えない力で引っ張られる。
「黒濁の舞『吸』」
1本吊りされるように身体が浮き上がる。
「うぉ!」
自分自身にも「丑三つ時」をかけたお姉さんの声が頭に響く
「1度に打ち消せれる領域は自在に変えられる。細く長くすれば、魔力の吸引力は上がる。魔力を含んだ物体をひきよせるくらいにな」
予想外の攻撃に驚くも目の前の雷を体を捻りなんとか躱す。黒い杖を出す訳にはいかない。課題こそあれだが、重さで動けなくなるのはこの場ではハンデになる。
彼女はその場でくるりくるりと回る。なにかしてくる。
「水瓶座(アクエリアス)!射手座(サジタリウス)!」
水弾を打ち込み牽制する。
「杖を重くしてやれば」
たとえ防御されようが動きが鈍るはず。
「それは悪手だ」
「黒濁の舞・『重』」
しゅん!
ぶん!!
ズン!!!
こちらの魔力を吸収する。3回転した彼女の杖は回る度に水弾を吸収し大きくなるオーラをまとっていた。そして、彼女はそれをそのまま振り下ろす。空中で身動きがとれない。
「!!!!」
衝撃とともに地面に叩きつけられる。
ぱんっという拍手の音とともに現実に戻される。
「双子座(ヴェルゴ)を使うなら並列処理能力も上がっているはずだ。女の脳はそういうのも得意だ。人体について学べ。水瓶座(アクエリアス)はたしかに魔力量が増えるがばら撒くだけだとすぐガス欠になる。相手が処理しにくい2箇所以上に同時に着弾するようにしろ。射手座(サジタリウス)は目で追うな。撃ちたい対象を魔力とイメージで捕らえろ」
アドバイスが次々におくられる。矢継ぎ早の情報に頭が追いつかない。
「おいしっかりしな……通常時の黒い杖の使い方はシンプルだ。魔力を吸い無効化し、重い杖を叩き込む。いま、お前が身につけるべき力は、杖を持ち上げれる身体強化、重量増やすタイミングを見る目。魔力を吸う範囲の調整だ。よく覚えておけ。魔装でも出来れば早いんだが」
「っ!だから、魔装を」
「さちよはそう考えていたみたいだな。だが、まずは赤の身体強化魔法を会得してもらう。赤の身体強化は体の内側で行なわれる。黒い杖の影響が少ない。併用が可能になるだろう。それに魔装を会得するよりも身体強化魔法のほうが早い。
体内の魔力を感知し、その流れを早く巡るようにしろ。あとは、強く早く動かしたいところに魔力を集中させろ。早く構えろよ。死ぬぞ」
巫女がこちらに突っ込んでくる。
「早っ」
「赤の歩法だ。着地と同時に足の魔力を高め脚力を上げて、地面を強くけることで、移動速度を早めてる。はよ行け」
繰り広げられる戦闘を見ながら呟く。
「……ステップ2なんか無い。あとはあいつの努力とセンス次第だな」
「さすがだな。黒い杖を学ばせると言って実際は天上の杖の扱い方をレクチャーか。よく引受ける気になったな」
若い男の声が聴こえる。
「別に少年、君の提案に乗ったわけではないさ。面白い坊やだったからさ。実践の中で得るものは大きい。巫女の使い方を躱すうちに、黒い杖の力は身につけるだろうさ。だったら、その間天上の杖を使わせて、魔力操作をなれさせるほうがよいだろう。そもそも赤の体術は、魔装を習得出来なかったさちよが魔装使いたちと渡り合うために編み出してたからな。赤を極めれば魔装にいきつく。ここの空気中の魔力量は、半端じゃない。普段はできない魔装もしやすい。きっかけがあれば、魔装すらできるようになるかもな」
彼女の懐には、白い仮面が入っていた。そこから声がしていた。
「いいのか?この30分で坊やは少年、君より強くなるかもよ」
「はっは。ないさ。まだ魔装も杖の対話もできてないひよっこ冒険者に負けることなんか万にひとつも無い。なに、単純に競走相手に張合いがなかったらつまらないだろ?」
「旦那が聞いたらなんていうか」
「さてな。あいつなら千尋の谷に突き落とすんじゃないか」
「……ちがいない。なぁ、坊やは少年に似てるよな。兄弟か?」
「いいや、あいつはもうひとつの可能性さ」
帝都の第二王女は何かに気づいたように駆け出した。
「も、も、もしかして、しょ、しょーぐんちゃん」
「あ、王女ちゃん」
2人は駆け寄ると手をとりあってクルクルと回転しはじめる。
「こないだの最新話見ましたか?夕日をバックに走り去った2人の背中。あれは春風先生の処女作、港に向かってドロップキックのラストシーンのオマージュ。健太と撫子の関係を暗に示しているのでしょう。友人よりも1歩進みたい撫子に無頓着な健太。イライラしてしまい、鯖缶片手に撫子がドロップキックをかましたのは痛快でした!!」
さきほどまでの口調とは打って変わって流暢に語り出す。
「みたでござる。みたでござる!けんなでのカップリングは正に王道!わかる!わかるでござる。だけど拙者はあえて、ひろしを推したい。健太が無頓着であるのはひろしが代弁してくれるからの安心感。幼なじみというアドバンテージを最大限に生かしてほしいでござる。今回の話で、なぜ、ひろしがスルメを依代に召喚魔法をかけていたのか。なぜ大天使ちくわぶを選んだのかが読み取れるでござる」
周りの視線が突き刺さる。何を言ってるんだ。
「最近人気の春風っつう作家の書いてる恋愛小説、おしりに刺すなら、杖かバラか の話だな。通称つえばら。だな。」
「は!」
「は!」
「あー積もる話があるようなら、行ってきていいですよ。お姉様」
「え、あ、その、」
「い、いいんでござるか?」
「あぁ、行ってこい。なぁ、王女さんいいだろ。あの宿に泊まるからあとで来いよ」
「それでしたら是非王宮のほうで」
「え、」
「ぜひ」
彼女は笑ったあと、カリンを手招きして呼ぶ。
声を潜めて言った。
「あなた方が本当の勇者様方なんでしょ?」
彼女はウインクをした。
「さて参りましょう」
王女たちと近衛兵に導かれて歩いていく。
「いいんすか?政権が交代した直後の慌ただしい時期に部外者を入れて」
クーデターという直接的な言葉は使わずにガブコは尋ねる。
このあたりは大陸中で教官を勤めていた彼女らしい聞き方だった。
「えぇ、構いませんよ。政権交代はあっけなく終わりましたの。父も母たちもご自身の荷物だけ持たれて国外に去りましたから」
「なんでまた、そんなことを。別段国が荒れてるような話は聞いてなかったですよ」
アンが踏み込んできく。彼女もまた職人として各国と繋がりがあったため、気になっていた。
「いえ、彼らのやり方では時代遅れだと感じたまでですわ。価値の無い国ばかり、ちまちま狙って襲う。意味のないこと。効率が悪いのですわ。国の繁栄を思ったからこそ、父たちも抵抗せずに出ていかれたのでしょう」
「ふーん。あの獅子王が何も言わずに…」
さちよがぽつりと言った。さちよの印象とはだいぶ違う。勇者と肩を並べ、魔王と戦った1人で、さちよもかつて会っていた。不条理や理不尽には真っ向から立ち向かっていくタイプだが。
「さぁ、着きましたわ」
都のシャボン玉とシャボン玉の境目まで来た。金色のゲートがあり、屈強な門番が待ち構えていた。どちらの門番も角や翼が生えた魔人だった。
「確認のために腕輪を」
門番が王女にいう。
「はい。私たち10名と勇者様のお仲間5人ですわ。」
彼女が腕を見せ、金色の腕輪を差し出す。門番は難しい顔をしながら、腕輪にさわる。何やら腕輪を確認すると深々と頭を下げた。
「お帰りなさいませ。第三王女、第二王女。さきほど、命じられていた宴会の準備はあと30分ほどで整います」
「ありがとうございます。さぁ、行きましょう。みなさま」
「宴会?」
「先に到着されていた勇者さまを迎える準備をしていましたの。皆様方も是非御一緒に」
シャボン玉の虹色のドアをあけると庭園が広がっていた。美しい花がさき、石畳が続く。
帝都オリオンの王宮は3つのシャボン玉の中央にあり、細長い建物がそびえたっていた。
玉と玉の間に、そびえたつ棒。
「あれは、ちん」
「ばかっ、り、り、立派な建物ですね」
ショーグンの言葉を焦って、かき消す。
「?あちらは帝都名物ロイヤルエレファントキャノン。通称、ゾウさん砲ですわ」
「ぞ、ぞうさん」
「そうです!ぞうさん砲!射程距離はざっと数十キロ。相手に感知される前に、砲弾を打ち込むことができますわ。撃ち出される弾も、魔法弾、質量弾に切り替え可能。たとえ、魔法障壁があろうと堅い岩の砦だろうと関係ありません!かつて魔王城にも撃ち込まれたという名誉ある砲台なのですわ!」
目を輝かせながら彼女は熱弁する。
「ただ、ポンポン撃てないのが、歯がゆいですわ。我が国には、それを可能にする技術がないのです」
「へー。ウチは鍛冶屋でもあるから、ちょいと見てみようか?宮殿に招いてもらった礼に」
「あら!それは素晴らしいですわ!是非お願いしたいですわ!」
「腕がなるね!」
「ほら、案内して差し上げて」
一緒にいた近衛兵に言った。
「って訳でチョックラ見てくるぞ。いいよな」
「ガッハッハッ!宴会の食い物無くなってても文句言うなよ?」
「そんなにかからねーよ。」
彼女はひらひらと手を振ってしっぽの生えた近衛兵について行ってた。
すると、入れ替わる形で、王宮の中からガシャガシャと音を立てて、甲冑の兵士たちがやって来た。
「おーい!ガブコ隊長!!」
親しげに話しかけた甲冑の主は、頭の兜を外す。
「え?!あんたは、あのドケチ領主の時のっすよね!!どうしてここにいるんすか?!」
「いや、こっちが聞きたいですよ、隊長。うちらは姫様に拾ってもらったんですよ。あの騒動の後、王都から調査団が来て追い出されちまったんで、路頭に迷っていたんです。他のものもいます」
「こらこら、衛兵が持ち場を離れてはいけませんよ。」
「あ、姫様。すみませんです。それでは隊長、この辺で」
「あら、せっかく勇者様のお仲間とお付き合いがあるのでしたら、少しお話をされては?積もる話もあるでしょうし」
「し、しかし、姫様。それは」
「いいのですよ。今日くらい。第一王女のお姉さまもまだ帰られていないですし。我が国に敵対の意思を持つ国は近くにありませんから。盗賊たちも勇者さまが壊滅させてくださいましたし。」
「は、はい。ありがとうございます。では、隊長こちらに、詰所があります」
「え、あ、いや、いいんすか?」
「近衛隊も、今は王宮ですから、わたしは大丈夫なので、通常の業務に戻られてください」
「ね、ねぇ、ショーグンちゃん。私のへ、部屋はこっち、」
「あら、そうでしたわね。お姉さま。ショーグンさまも行ってらっしゃいませ。お姉様、宴会には間に合うように」
「わ、わ、わ、わかってる」
2人も離れた所にある彼女の部屋に向かった。
静かになった庭園で第三王女はかりんとサチヨに話しかける。
「あらあら、私たちだけになってしまいましたね。宴会場に先に行きましょうかお二方」
二人を連れて王女は長い塔の王宮の中に入っていった。
もう何度目になるか、あとすんでのところで、届かない。黒い杖は虚しく宙を切り、代わりに巫女のするどい杖の一撃が腹につきささる。
「んぐぅ」
もう、吐きすぎて何も出ない胃が唸る。おれは強くなれているのか。よぎった不安を頭を振って追い出す。足でまといはうんざりだ。仲間や偶然に助けられるのはもうたくさんだ。強く、なりたい。だけど。
「はぁ、はぁ、あと、もうちょい、なんだけど、な」
「まぁ、そう、だな」
荒い息を整えようとしている少年を見て、冷や汗をかく。もうちょい、だと。私は3日で到達するとは思っていなかった。なんだこの底なし沼の様な学習能力は。すでに魔力による身体能力の強化は魔法少女クラス。魔法の扱いもかなり上達している。センスがあるわけではない。だが、失敗を修正してアドバイスを聞き再度挑む。トライアンドエラーによって、成長していっているのだ。まるで、今まで空っぽだったかのように。みるみる吸収していっている。さちよ、ほんとにこいつに教えたのか?知識もない。当然基礎のきの字も知らなかった。びゅーんとか、バーンとかの幼稚な言い方しかできないこいつが。
「……坊や、魔力を感知するのは、回避だけじゃない。攻撃にも転用できる。相手の弱い所。魔力の薄いところを狙え。水瓶座(アクエリアス)のイメージを黒い杖に持て、水は姿形を、自由に変えることができる。相手がかわすことの出来ないタイミングを逃すな」
「はい!」
巫女の黒い杖の力を避けながら、肉薄する。水の足場や分身を出しつつ、身体のサイズを変える。射手座の撃った反動で緩急をつけた回避行動をとり、巫女の魔力を感じ取る。右足に魔力が集まってる。たぶん。飛ぶ!!なら!
「ウオオオオアアアアアアアアアッッッッ!!!!!」
黒い杖をぶち当てる。巫女の魔力を吸い重くなった杖を振り下ろした。
「はっ、すごいな」
本来の威力で天上(プラネタリウム)の杖が使えないとはいえ、巫女の力は魔法少女No.30クラスくらいの実力はある。
「よっしゃあああああ!!」
巫女の姿が掻き消えた。角のお姉さんは地面に落ちた人形をひろう。
「……まったく見事だよ。少し休憩しよう」
渡された水を飲む。かすかに甘い。
角のおねーさんは空を見ていた。
「騒がしいな。」
「?」
彼女はそういうと、腰の袋から4本の角を取り出した。
「……気休めにしかならないだろうが。探知妨害の結界を張っておこう。」
彼女が角をほおり投げると、その角は4方向に飛び、地面に突き刺さった。するとうっすらとドーム場に結界が張られるのを感じた。
「坊やは帝都にいくなら、三姉妹を知っているか」
「第一王女には会ったことがあります」
「ほかの王女たちも癖が強くてな。第二王女は引きこもって何やら研究をしてる。第三王女は独自のパイプで国外と繋がりをもち、手堅く基盤作りをしているようだ。クーデターの首謀者たる三姉妹が統治を始めて国土が倍増した。」
「?それっていいことじゃ」
「坊や。帝国ってのはどうやって国土を増やすと思う?」
「そりゃ。土地を広げたりするんだろ?」
「その土地はどうやって調達するんだい」
「そりゃ。鍬とかで畑つくるみたいに」
やれやれとため息をついた。
「時間がかかるだろ?」
「じゃあどうやって」
「簡単さ。出来ているものを奪えばいいんだよ。」
「え」
「他国を侵略して属国にして、資源を奪っていくんだよ。国ごと移動してな」
「な、自ら戦争を仕掛けるってのか」
「そうさ。まぁ、帝国を名乗っている以上前王の時も、そういうことはあったけどな。魔王との戦争がひと段落したあと、自給自足のできない国々を集めて、共同で国を作っていった。いまある帝都オリオンに人間も魔族も住んでいるのはそういう成り立ちだからだ。だが、王女たちは違う。帝国の名のもとに侵略している。如何せんペースが早すぎる。第一王女の性格もあって、大雑把に、国の進行方向にある土地を手当り次第攻めている。しかもこのままいくと王都もその餌食になる」
「そんな、反対する人はいなかったんですか?」
「魔法少女たちが反対したさ。彼女たちは大陸の安定を目的にしているからな。意見したもの、挑んだもの。何人かいたらしいが、ある日突然姿を消した。王女が何かしたのだろう。千虹雲海も急速に範囲を広げていて、情報も入りにくい。25人いた魔法少女たち。内20名が行方不明だ。」
「残りの5人は」
「前王の妃たちだ。いずれも国外にいる。前王の指示だ。いずれの妃も貴重な魔法の持ち主だったからな」
彼女は空を見上げる。
「どうなったかわからないんですか」
「そうだな。わたしにはわからない。坊やの実力では、王女たちには聞こうとしても、ボコボコにされてぐっちゃぐちゃになるか、実験動物にされてぐっちゃぐちゃになるか、闇に葬られてぐっちゃぐちゃになるか。」
「いずれにしろぐっちゃぐちゃなんすね」
「そこでステップ2だ」
「あぁ!よろしくお願いします!」
「あたしを殺せ」
「な、何を!」
「私の持ち物は全てやる。その黒いリングが使い方を示してくれるはずだ。私たち魔人は倒された相手に力を託すことができる。まぁ、坊やのこれからの力の足しにはなるだろう。いくぞ」
彼女は一歩踏み出す。空気が震えるほどの魔力。
「たんま、たんま!!お姉さんを殺すなんてことはできないですって!」
「時間がない。すぐに第一王女がくる。躊躇するな。丑三つ時!!」
杖を振るうと再び時間が加速する。
「我が角よ。偉大なる魔王に賜った大角よ。敵を串刺せ、ぶっ潰せ!赤角(レッドホーン)」
「さちよさんの技?!」
彼女の両腕が赤く染る。
「ガッハッハッ!ちがうね。……わたしがオリジナルだ」
両腕のみならず、足が、全身が赤く染まる。
「坊や……」
荒野に高々と伸びる二本角が燃える。全身の傷跡から魔力が吹きあがる。なんつう、魔力量。猛々しく吹き上がる魔力が空からの氷塊を一瞬で蒸発させる。
「……継いでいけ。赤(わたし)の遺志を。魔装・赤角戦鬼(レッドデーモン)!!さぁ、わたしに裁きを下すときだ。坊や。……いや、次代の勇者!!元魔王軍、大幹部が1人《牛頭(ごず)》が参る。」
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