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第三部
211 クインに惹かれる R18
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「義則さんが現れて三ヶ月かぁ。早いね」
「そうかな。ほぼ毎日会ってるようなもんだから、長いよ」
それは事実だった。この店に通うようになってから仕事は捗るし、私生活も充実しはじめた。義則にとってクインは縁起のいい神仏のようなものになっていた。愛でれば愛でるほど、自分にいいことがやってくる。歪んでいるなと自分でも思う。これは、恋とか寂しさから来る孤独とかそんな簡単な言葉の関係じゃない。もっと深い、白い目で見られるような醜い感情からやってくる行為だとわかっていた。それでも会いに来るのをやめることはできない。
職場の銀行では成績優秀、ミスのない尊敬できる上司として評されている。自分でもその評価は妥当だと思えるくらいには仕事をしているつもりだ。もともと隠れゲイだったこともあって、社内恋愛を考えたことはない。銀行マンは人にもよるが自己中心的な考えの輩が多く自分の苦手なタイプの人間ばかりだった。なおさら、恋愛なんてする気にはなれない。クインと出会う前は夜な夜なマッチングアプリで出会った名前も知らない男と肌を重ねていた。意味のないことをしていたんだなと今ならわかる。
「義則さん。今度の定休日、店においでよ。見せたいものがあるんだ」
「でも、休みなんだろ。迷惑じゃないか?」
にこにこと笑いながらも、クインの目は笑っていない。誘惑するような目つきだと義則は思う。
「いいから、ね。お願い。きっといいことあるから」
その後、何度もその「いいこと」を聞いてもはぐらかされてしまった。酔っ払いの言動を百パーセント信じる気持ちにはなれず、そっとその場から離れる。だいぶ酔っているらしく、ダグにまで絡んでいる。
「ごめんね。今日のクイン。いつもよりもっとおかしいみたい」
カタコトの日本語で申し訳なさそうに眉を落としたダグにいえいえと返事をする。
「義則さん、おやすみ」
店を出る直前、厨房の方から大声で名前を呼ばれてピクリと肩が反応した。店内にいる客が義則を見る。好奇の視線に肩身が狭くなる思いがする。恥ずかしいからやめてくれ……。
その日、クインの言っていたことが気になり定休日だというのに店にやってきてしまった。当然のことながら表のドアはシャッターが閉まっていて入ることはできない。しばらくクインを店の前で待っていると、繁華街の奥から手を振って走ってくるクインを見つけた。そのまわりだけ明るい光に照らされるようで、義則は眩しさに目を細める。
「キツネみたいな顔してる」
はぁはぁと息を上げてやってきたクインは義則の顔を見てそう笑った。クインの後ろにはキャストのアレンもくっついている。こんにちは、と声をかけられたので軽く会釈する。アレンはここのナンバーツーで、一番の最古参キャストなのだとクインから聞いていた。一位と二位では争いごとが絶えないのではと心配していたのだが、アレンの大人の対応のおかげで仲良くやっているらしい。
「さぁ、入ろう」
クインに手を引かれながら裏口に連れていかれる。油っぽい匂いのする厨房横の廊下を歩くと、うっすらと明るい店内の様子が朧げにだが見えてきた。数人のキャストとその太客の姿がある。これはまさか……。不穏な気配を感じてクインを見下ろすと、ふふっと笑うものだからつられて口端が上がってしまう。振り回されているのを楽しんでいる自分がいた。
「こっち来て」
バーカウンターのすぐ近くのソファ席にクインは座り込む。いそいそと靴を脱いで、両腕を広げた。
「頭のいい義則さんなら言わなくてもわかるよね?」
悪戯っ子のような笑みでクインが囁く。薄暗い照明、普段と様子の違うキャストと客。ぐるぐると考えたが、乱交パーティーのなにものでもないと結論を出す。
「義則さん。ずっと僕に気があったよね」
着ていたコートを脱ぎ去り、ソファに腰掛ける。まさかこんなご褒美がもらえるとは思ってもいなかったので少し身構えてしまう。
「僕もね、初めは変なお客さんだなって思ったんだけど。一生懸命だからさ、気になっちゃって」
丸く大きな瞳と目が合う。クインの顔が仄かに紅潮していた。
「僕はね、誰でもいいんだ。気持ちよくなれるなら誰でも。でもね、ほんとうはずっと想像してた。この人はどんなふうに僕を抱くのかなって。最近はショーの最中もそればっかり考えちゃって。だからね、責任とってくれるよね」
ごくりと義則は唾を飲み込む。クインに誘われている。その事実が素直に嬉しくて自分よりずいぶんと小柄な体を抱き寄せた。二人きりでできないのは残念だが、クインが気持ちよくなれるならそれでいいと思った。
「義則さん。抱いて」
耳たぶを舐められながらそう囁かれ、体は静かに反応していく。履いていたスラックスを下ろし、クインのハーフパンツもずらす。アメリカ国旗がデザインされたボクサーパンツを剥ぎ取って、少し反応している彼のものを口に含んだ。
「ちょ、いきなりっ」
義則の性急な動きに驚いたのか少し足をばたつかせるのを押さえ込み、深く口内に導く。舌先で転がしていると、数分としないうちに硬くなった。唾液を口に含み、ピンク色のクインの後ろの穴に塗りたくる。舌先で中を突いてやれば、かくんとクインの腰が上がった。
「ずっとこうしたかった。好きだよクイン」
自身の昂ったものをクインの蕾に突き立てる。ぐっと腰を埋めると、高い声で鳴いた。それが可愛くてたまらなくて、その声をもっと聞きたくて激しく抱き続ける。
「そうかな。ほぼ毎日会ってるようなもんだから、長いよ」
それは事実だった。この店に通うようになってから仕事は捗るし、私生活も充実しはじめた。義則にとってクインは縁起のいい神仏のようなものになっていた。愛でれば愛でるほど、自分にいいことがやってくる。歪んでいるなと自分でも思う。これは、恋とか寂しさから来る孤独とかそんな簡単な言葉の関係じゃない。もっと深い、白い目で見られるような醜い感情からやってくる行為だとわかっていた。それでも会いに来るのをやめることはできない。
職場の銀行では成績優秀、ミスのない尊敬できる上司として評されている。自分でもその評価は妥当だと思えるくらいには仕事をしているつもりだ。もともと隠れゲイだったこともあって、社内恋愛を考えたことはない。銀行マンは人にもよるが自己中心的な考えの輩が多く自分の苦手なタイプの人間ばかりだった。なおさら、恋愛なんてする気にはなれない。クインと出会う前は夜な夜なマッチングアプリで出会った名前も知らない男と肌を重ねていた。意味のないことをしていたんだなと今ならわかる。
「義則さん。今度の定休日、店においでよ。見せたいものがあるんだ」
「でも、休みなんだろ。迷惑じゃないか?」
にこにこと笑いながらも、クインの目は笑っていない。誘惑するような目つきだと義則は思う。
「いいから、ね。お願い。きっといいことあるから」
その後、何度もその「いいこと」を聞いてもはぐらかされてしまった。酔っ払いの言動を百パーセント信じる気持ちにはなれず、そっとその場から離れる。だいぶ酔っているらしく、ダグにまで絡んでいる。
「ごめんね。今日のクイン。いつもよりもっとおかしいみたい」
カタコトの日本語で申し訳なさそうに眉を落としたダグにいえいえと返事をする。
「義則さん、おやすみ」
店を出る直前、厨房の方から大声で名前を呼ばれてピクリと肩が反応した。店内にいる客が義則を見る。好奇の視線に肩身が狭くなる思いがする。恥ずかしいからやめてくれ……。
その日、クインの言っていたことが気になり定休日だというのに店にやってきてしまった。当然のことながら表のドアはシャッターが閉まっていて入ることはできない。しばらくクインを店の前で待っていると、繁華街の奥から手を振って走ってくるクインを見つけた。そのまわりだけ明るい光に照らされるようで、義則は眩しさに目を細める。
「キツネみたいな顔してる」
はぁはぁと息を上げてやってきたクインは義則の顔を見てそう笑った。クインの後ろにはキャストのアレンもくっついている。こんにちは、と声をかけられたので軽く会釈する。アレンはここのナンバーツーで、一番の最古参キャストなのだとクインから聞いていた。一位と二位では争いごとが絶えないのではと心配していたのだが、アレンの大人の対応のおかげで仲良くやっているらしい。
「さぁ、入ろう」
クインに手を引かれながら裏口に連れていかれる。油っぽい匂いのする厨房横の廊下を歩くと、うっすらと明るい店内の様子が朧げにだが見えてきた。数人のキャストとその太客の姿がある。これはまさか……。不穏な気配を感じてクインを見下ろすと、ふふっと笑うものだからつられて口端が上がってしまう。振り回されているのを楽しんでいる自分がいた。
「こっち来て」
バーカウンターのすぐ近くのソファ席にクインは座り込む。いそいそと靴を脱いで、両腕を広げた。
「頭のいい義則さんなら言わなくてもわかるよね?」
悪戯っ子のような笑みでクインが囁く。薄暗い照明、普段と様子の違うキャストと客。ぐるぐると考えたが、乱交パーティーのなにものでもないと結論を出す。
「義則さん。ずっと僕に気があったよね」
着ていたコートを脱ぎ去り、ソファに腰掛ける。まさかこんなご褒美がもらえるとは思ってもいなかったので少し身構えてしまう。
「僕もね、初めは変なお客さんだなって思ったんだけど。一生懸命だからさ、気になっちゃって」
丸く大きな瞳と目が合う。クインの顔が仄かに紅潮していた。
「僕はね、誰でもいいんだ。気持ちよくなれるなら誰でも。でもね、ほんとうはずっと想像してた。この人はどんなふうに僕を抱くのかなって。最近はショーの最中もそればっかり考えちゃって。だからね、責任とってくれるよね」
ごくりと義則は唾を飲み込む。クインに誘われている。その事実が素直に嬉しくて自分よりずいぶんと小柄な体を抱き寄せた。二人きりでできないのは残念だが、クインが気持ちよくなれるならそれでいいと思った。
「義則さん。抱いて」
耳たぶを舐められながらそう囁かれ、体は静かに反応していく。履いていたスラックスを下ろし、クインのハーフパンツもずらす。アメリカ国旗がデザインされたボクサーパンツを剥ぎ取って、少し反応している彼のものを口に含んだ。
「ちょ、いきなりっ」
義則の性急な動きに驚いたのか少し足をばたつかせるのを押さえ込み、深く口内に導く。舌先で転がしていると、数分としないうちに硬くなった。唾液を口に含み、ピンク色のクインの後ろの穴に塗りたくる。舌先で中を突いてやれば、かくんとクインの腰が上がった。
「ずっとこうしたかった。好きだよクイン」
自身の昂ったものをクインの蕾に突き立てる。ぐっと腰を埋めると、高い声で鳴いた。それが可愛くてたまらなくて、その声をもっと聞きたくて激しく抱き続ける。
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