風に還る時には傍に―白き狼の戦士は盲目の主君に身を捧げる―

子犬一 はぁて

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白い王族(1)

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 フュンに仕えてから、5日が過ぎ去ろうとしていた。白狼は毎日同じことの繰り返しに少し飽きてきた頃だった。

 毎朝、大体昼前に起きたフュンを手洗いに連れて行ったり、朝と昼の兼食を用意するために畑で作物を栽培・収穫し、魚を調達する。そしてそれらを調理し、匙に掬ってフュンの口元へ届ける。午後はフュンが昼寝をしたり、散歩に出かけるための介助をしたりする。1度、書物を読み上げるように命じられたが、白狼は文字が読めないため断った。すると少し申し訳なさそうな顔をして謝ってきた。なぜ? フュンが謝る必要はないのに。それ以来、フュンは白狼に書物を読み上げさせることはなかった。夕刻には風呂の介助をし、夕飯を作り食べさせることの繰り返し。野党の頃には剣を振って獲物を捕らえていたが、ここでは剣の相手をする者もいない。腕が鈍るのを防ぐために、朝晩には屋敷の外の森で鍛錬を怠らなかった。

 夕食の後の片付けが終わり、剣の鍛錬も終えた頃。フュンに呼び出された。フュンは既に寝台に横になっており、白狼を手招きする。

「そなたに話しておきたいことがある」

 フュンの表情には哀愁の色が滲んでいた。フュンの白い肌は月の光に照らされて青白く反射している。肩につくくらいの白蛇のような白い髪を後ろで1つに縛っている。

「手を」

 フュンに言われるがまま、手を掴む。するとそれを抱くようにしてフュンが語り出す。

「そなたもこの屋敷で生活しているうちに気づいているやもしれぬが、直接伝えたくてな。この屋敷は王宮の本殿から。わたしは王族の身なのに、護衛も召使いも1人もいない。この状況の意味がそなたにはわかるか?」

 白狼が仕えているときも、ずっとそれらが引っかかっていた。なぜ、王族のフュンはこのような辺境で生活しているのか。

「他の王族から嫌われているのか」

 単調な白狼の疑問にフュンは微笑みを浮かべながら首を横に振る。

「嫌われているというよりも、皆がわたしを畏れていると言ったほうがよかろう」

「畏れる?」

「ああ。わたしは生まれつき目が見えない。そのような子どもはめったにいない。いっそのことわたしの将来の不便さを予期して殺してしまおうかとさえ父上は考えたらしいが、母上が反対してくださった。母上は出産のときの大量出血で亡くなってしまった。父上にとって、わたしという存在は愛する妻を殺した忌み子なのだよ。妻と引き換えに目の見えぬ赤子を手に入れた。しかし、目の見えぬ赤子に王位は継承できない。だからわたしは、父上に疎まれながらこうした王宮とは離れた屋敷で生きるように定められたのだ。仮にも王族の血を引くわたしを安易に野に放つことができなくてね。もし、盗賊にでも捕まり身代金など提示されたらやっかいだから。だから父上はわたしにたった1つだけ自由を与えて、ここで生活するよう命じた」

 想像もしていなかったフュンの生い立ちに口を噤んでいると、「たった1つの自由」という言葉が気になった。

「たった1つの自由ってのは?」
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