スウェロニア家の番犬の騎士見習い〔弟〕は騎士団長〔兄〕の「待て、おすわり」がきけない

子犬一 はぁて

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甘いとはいうけれど

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 ある日、レフさんが言った。

「オズ。練武のほうはどう? 上手くなった?」

 ぼくはがっくしと肩を落とす。

「全然だめだめです……昨日もエリオ寮長との組手で吹っ飛ばされました」

 昨日の練武で痛めた手首をさする。そこは青痣ができていた。

「手当てはした? って言ってもオズのことだからしてないか。腕を見せてごらん」

 レフさんはいつも持ち歩いてる斜めがけのポーチから、黄緑色の液体が入った小瓶を取り出した。そしてそれを数滴コットンに染み込ませると、ぼくの青痣のところにぽんぽんと優しく叩く。

「痛いの痛いの飛んでけー。なんてね」

 あ、この人意外と面白がってる。そう気づくと少しむすっとしてしまう。それが顔に出ていたのかレフさんは後ろを向いてくすくすと笑っていた。

 レフさんとこんなやりとりができるようになったのも、入寮して8ヶ月経ったからだろう。ほんのちょっぴり嬉しい。ううん、本当は飛び上がるくらいに嬉しい。でもそんな懐き始めたばかりの子犬のような幼い態度をレフさんに見せたら、きっと引かれてしまう。だからぼくはなるべく表に出さないように気をつけている。レフさんは甲斐甲斐しく世話を焼いてくれて、ぼくのことを対等に扱ってくれる。スウェロニア家では使用人だったから、どうしても一族の人とは社会的身分として距離があった。その距離を優雅に飛び越えてきたのはハイリだけだった。ハイリには従者として仕えていたし、弟のように扱ってくれた。しかしそのどれもがぼくは「誰かにとっての下の身分」であることを心底感じさせるもので、嬉しい反面どこか悲しい面もあった。レフさんはぼくのことをシャルメーニュの1人の寮生であり、後輩として接してくれる。どこにも従属しない身分はとても心が軽やかだった。誰かに頼らなければ生きていけないような生き方を選びたくはない。ぼくはひとりで歩いていけるようにここで学んで騎士になるんだ。

 アフタヌーンティー以来、ハイリと会う機会もなくぼくとの関係は距離が開いたままだ。ピシャランテ騎士団寮での日々は忙しく密度も濃い。気づけば幼い頃にハイリに与えられたぼくの誕生日が、あと1ヶ月と迫ってきていた。

 朝食を終えて自室の鏡台に目を向けると、そこには幼い顔立ちをした栗色の髪の毛をした少年が立っていた。ぼくだった。入寮してから体の筋肉はついたものの、童顔は変わらないままだ。中の中といった顔立ちでぱっと目立つ華のある顔でもない。だからハイリのあの美しい顔を見ると隣に並ぶのに気が引けてしまうのだ。
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