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序 記憶のかけら
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薄暗闇の部屋の中で子供の泣き声が聞こえてくる。
歳は十に満ちるか満ちないか。
そう思ってふと自分のいる世界を見回す。
部屋は私が今まで見たことのない程に豪華なつくりだ。
絵本でしか見たことがないお姫様が出てきそうな部屋。
この子は貴族の子供なのだろうか。
いや、そもそもなんで私はここにいるのだ。
次々と疑問が湧いてくるが今は目の前で泣く少年が気になってしょうがない。
私はどうしたの?と声をかける。
しかし、少年はこちらに目を向けることもなく泣き続ける。
私はどうしたものかと考えそっと少年の頭を撫でた。
すると少年はびくりとしてようやく私の方へと振り向いてくれた。
少年の顔を見て私は思わずうっとりとした。
だって少年はとても美しくて、こんなに綺麗な子はみたことない。
全てを吸い込む碧色の瞳にはうっすらと私の姿が映る。
整った眉が憂いげに寄せられ、小さな唇はきゅっと閉じられる。
装束から少年と思ったがこの美しさでは少女と言っても誰も疑わないだろう。
「だ、れ」
少年の小さな口がゆっくりと動きだされる。天使のような綺麗な声だ。
「どうして泣いてるの?」
私は優しく少年に問う。
少年は困ったように答えるべきか迷っているようであった。
「ああ、私は怪しい者じゃないわ。アリスというの」
「アリス」
少年は私の名を呟いた。
「ねぇなんで泣いていたの?」
少年は何も応えてくれない。
よっぽど言いたくないのか、私にまだ警戒しているのか。
私はぐるりと部屋の中を見回った。
部屋のあちこちに子供のおもちゃが散乱している。
中には壊れたものがあり、私はその中からうさぎのぬいぐるみを取り出した。腹の部分が破けてて綿が飛び出ている。
何だかこのままにするのは可哀そうに思えた。
「ねぇ、裁縫箱とかない?」
私に言われ少年はないよと応える。
「この部屋にはないよ」
「そう、ならどこにあるの?」
「裁縫箱なんかあってもどうするんだ」
「これを直すのよ」
私がうさぎのぬいぐるみを示すと少年はじっとぬいぐるみと私を交互に見やる。
しばらく無言だった少年は部屋から出て行ってしまった。
私はついていこうと思ったが知らない家でうろうろするのはどうかとその場に留まった。
うさぎの垂れた耳に軽く触れたり、頭を撫でる。
しばらくして少年は箱を手に戻って来た。
私の前にどんと置いて無言のまま私を見つめた。
箱は裁縫箱でどうやら捜してきてくれたようである。
「ありがとう」
私がそういうと少年は少し瞳を伏せた。
私は箱の中から針と糸を取り出し、修繕を始めた。
「暇だ」
私が修繕作業をしている様子をじっと見た少年はぽつりと呟く。
「あらそう」
私はそれだけ答えうさぎのぬいぐるみの破けた部分を縫い付け始めた。
「何か物語をしろ」
「もう泣くのやめたの?」
「…………僕は泣いてなんかいない」
私の言葉に少年は嫌そうな顔をして言った。からかってやろうかと思ったがすぐにやめた。
「あらそう。そうね、じゃあ」
歳は十に満ちるか満ちないか。
そう思ってふと自分のいる世界を見回す。
部屋は私が今まで見たことのない程に豪華なつくりだ。
絵本でしか見たことがないお姫様が出てきそうな部屋。
この子は貴族の子供なのだろうか。
いや、そもそもなんで私はここにいるのだ。
次々と疑問が湧いてくるが今は目の前で泣く少年が気になってしょうがない。
私はどうしたの?と声をかける。
しかし、少年はこちらに目を向けることもなく泣き続ける。
私はどうしたものかと考えそっと少年の頭を撫でた。
すると少年はびくりとしてようやく私の方へと振り向いてくれた。
少年の顔を見て私は思わずうっとりとした。
だって少年はとても美しくて、こんなに綺麗な子はみたことない。
全てを吸い込む碧色の瞳にはうっすらと私の姿が映る。
整った眉が憂いげに寄せられ、小さな唇はきゅっと閉じられる。
装束から少年と思ったがこの美しさでは少女と言っても誰も疑わないだろう。
「だ、れ」
少年の小さな口がゆっくりと動きだされる。天使のような綺麗な声だ。
「どうして泣いてるの?」
私は優しく少年に問う。
少年は困ったように答えるべきか迷っているようであった。
「ああ、私は怪しい者じゃないわ。アリスというの」
「アリス」
少年は私の名を呟いた。
「ねぇなんで泣いていたの?」
少年は何も応えてくれない。
よっぽど言いたくないのか、私にまだ警戒しているのか。
私はぐるりと部屋の中を見回った。
部屋のあちこちに子供のおもちゃが散乱している。
中には壊れたものがあり、私はその中からうさぎのぬいぐるみを取り出した。腹の部分が破けてて綿が飛び出ている。
何だかこのままにするのは可哀そうに思えた。
「ねぇ、裁縫箱とかない?」
私に言われ少年はないよと応える。
「この部屋にはないよ」
「そう、ならどこにあるの?」
「裁縫箱なんかあってもどうするんだ」
「これを直すのよ」
私がうさぎのぬいぐるみを示すと少年はじっとぬいぐるみと私を交互に見やる。
しばらく無言だった少年は部屋から出て行ってしまった。
私はついていこうと思ったが知らない家でうろうろするのはどうかとその場に留まった。
うさぎの垂れた耳に軽く触れたり、頭を撫でる。
しばらくして少年は箱を手に戻って来た。
私の前にどんと置いて無言のまま私を見つめた。
箱は裁縫箱でどうやら捜してきてくれたようである。
「ありがとう」
私がそういうと少年は少し瞳を伏せた。
私は箱の中から針と糸を取り出し、修繕を始めた。
「暇だ」
私が修繕作業をしている様子をじっと見た少年はぽつりと呟く。
「あらそう」
私はそれだけ答えうさぎのぬいぐるみの破けた部分を縫い付け始めた。
「何か物語をしろ」
「もう泣くのやめたの?」
「…………僕は泣いてなんかいない」
私の言葉に少年は嫌そうな顔をして言った。からかってやろうかと思ったがすぐにやめた。
「あらそう。そうね、じゃあ」
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