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1 白いぬいぐるみにいちゃもんつけられる
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「うー」
窓から入る日差しに眉を顰めながらアリスはのそのそとベッドから起きあがった。
「もう朝?」
ふぁーとあくびをしながら背伸びをする。
寝巻をゆっくりと脱ぎ捨て普段着に着替える。
寝癖でぼさぼさの髪は化粧台の上に置いてる櫛で梳かし、鏡で確認して軽く整える。
「よし」
そう口にし、机の上に置いてる学生鞄を取り出し部屋を飛び出した。
「おはよう、お姉ちゃん」
既に朝食の準備を済ませたアリスの姉・メアリーはお茶を淹れる為にお湯を沸かしていた。
くるりとアリスの方へ振り返って朝の挨拶をする。
「おはよう」
アリスはテーブルにつき、朝食のパンを頬張る。
お茶を淹れ終わったメアリーは、アリスの前に置き自分の分を持って席についた。
「ありがとう」
アリスはお茶にミルクを注ぎ、ごくごくと飲み干した。
もう少し味わって飲んだ方がいいのだけど、朝はどうしてもばたばたしてしまう。
「それじゃ行ってきます」
お茶を飲み終えたアリスは鞄を持ち立った。
「はい、行ってらっしゃい。もう少し早く起きたらどうなの。ゆっくり出れるようになるわよ」
メアリーはパンを千切りながら妹の寝起き時間について言う。
それができたら苦労はないとアリスは笑って家を出た。
ぱたぱたと足音を立てながら道路を走っていく。
スクールバスの時間に何とか間に合いそうだと思いながら、「ぎゅむ」と何かを踏みつける感触がした。
「ぎゃふ」
踏みつけたと同時に間抜けな声がする。
「ん?」
奇声にアリスは首を傾げ、後ろを振り向いた。
そこには何か白い物体がぴくぴく動いていた。
近づいて見てみるとそれは白いうさぎのぬいぐるみであった。
「ぬいぐるみ、よね?」
アリスはその白いぬいぐるみに触れようとするがその前にぬいぐるみの方から動いた。
「痛いっ!! ちょっと姉ちゃん、何すんの!! ちゃんと前見て歩かんかい!!!」
何ともがらの悪い喋り口調である。
「見てみ、腹の綿が飛び出たやないかっ!!」
ぬいぐるみはお腹を見せるとお腹の部分が破け白い綿が飛び出ているのが見える。
「ご、ごめん」
アリスはぬいぐるみが喋ったことや腹の綿を示すという異常事態にどう対応していいかわからなかった。
とりあえず謝罪の言葉をあげとこう。
「ごめんで済めば軍隊はいらんわ!」
可愛らしいうさぎのぬいぐるみの分際で随分かわいげのないちんぴらのような口調である。
「な、姉ちゃん。裁縫道具かなんか持ってないん?」
ぬいぐるみの要求に理解できずに首を傾げる。
「針と糸や! あ、お洒落なボタンとかもあったらええな。最近ボタンを替えたい思っていたんや」
勝手に請求してくるものにアリスは混乱するが、そういえばと思い出した。
携帯用の裁縫道具は持ち歩いていたのだ。
「よっしゃ、じゃそこのベンチに座れや」
なかなか座ろうとしないアリスに苛立ちぬいぐるみは叫ぶ。
「良いから座れ!」
アリスはしぶしぶと従う。
ベンチに座ったアリスの膝の上にぬいぐるみはちょんと座る。
そして腹を示してきた。
「え?」
「え?やない。自分がしたことにけじめつけな。ひょっとしてその歳で裁縫もできないんか?」
つまり修理しろということなのか。
アリスはそう判断して、針と糸を取り出す。
「あた、あた、もっと丁寧に縫わんかい!」
いろいろと悪態をつく喋るぬいぐるみの修繕をする。
なんてシュールな体験であろうか。
そもそも何故こんな事態に、というかこんなことがありえるのか。
そう思いながらもアリスはぬいぐるみの修理を続けた。
よくみるとうさぎの腹や腕のつけねのところは前に壊れたことがあったのか他の糸と違う種類の糸で縫い直された後がある。
「ああ、これか。なんか昔酷い目に遭ったことがあってな。もう駄目だ、死ぬと思ったら誰かに治してもらったんや。ありゃ、天使さまだったんだろう」
何も言っていないのにぬいぐるみは勝手にぺらぺらと話す。
「あの、ぬいぐるみさんは」
「ぬいぐるみやない。俺の名はブランというんや」
「ブラン、さん」
「ブラン様と呼べ!これでも大臣と同じ席を賜ってる身分なんだ! 平民の娘が頭が高いぞ!」
いつからこの国はうさぎのぬいぐるみを大臣にしたのだろうか。
あまりのありえない話にアリスは頭をかかえた。
「修理は終わったわ」
縫い終わったら糸を結びぱちんと鋏で切る。
ブランは自分の腹を確認してまぁまぁだな、と悪態をついた。
「じゃ行くか」
「じゃぁね」
もう遅刻確定だと思ったがそれでも学校に行かねばならない。
アリスは鞄に裁縫セットをしまい、立ちあがった。
「何を言うとるんや。お前も行くんや」
「は?」
ぬいぐるみの意外な言葉にアリスは素っ頓狂な声をあげる。
「俺を傷つけた罪、裁判できっちり清算してもらわんとな」
「でも、ちゃんと直したじゃない」
「あほ。大臣の俺を踏み殺そうとしたんや。これは立派な殺人未遂罪。傷害罪は確実やな」
いつからこの国はぬいぐるみ対象に殺人罪が適応されるようになったのだ。
「まぁ、心優しいブラン様が弁護してやるからそう重い罪にはならん。せいぜい労働懲役ですましてやるわ」
「つ、つきあってられない」
さすがにこの会話の超展開に疲れたアリスはその場を立ち去ろうとする。
陸上部でちょっとした大会で優勝したことがあるから逃げ切れるだろう。
「待たんか!」
ブランは取り出したもののスイッチを押す。カチャという音と共にアリスは身動きとれなくなった。
ブランの懐から取り出したものは懐中時計であった。
アリスは微動だにせず瞬きもしなくなった。
それにブランは不敵に笑う。
「ふふふ、このブラン様は人の時間を止めることができるんや」
どうみても懐中時計の恩恵であるが、ブランは自分の力のように声高高に自慢する。
ぴょんぴょん跳ねるブランはアリスの肩につかまり、頭の上までよじ登る。
そこで仁王立ちになって叫ぶ。
「クリック? クラァァァァァァァッックゥッ!!!」
するとアリスの周囲の風景がモノクロ色になっていく。
時間を止められたアリスは身動きとれずそのままブランの持つ時計から発せられる光に包まれ消えていった。
光の先に新たに風景が見えたと思えばそこは蒼一色。
綺麗な雲がふわふわと浮かんでいるのがみえた。
「しまった。気合入れすぎて空の上に移動してしまった!!」
「え?」
風景が変わった途端、時間を戻されたアリスは突然見知らぬ背景にぎょっとした。
そこは蒼い蒼い、空の世界。
「きゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!」
アリスが叫ぶが先か後かはわからない。
ひゅるるるーという効果音と共にアリスの体は重力を以て降下される。
アリスの頭から離れたブランはスペルを叫んでパラシュートを取り出した。
「ちょっと何自分だけ助かろうとしてんのよ!!」
頭上で優雅にふよふよとゆっくりとパラシュートで落ちるブランにアリスは罵倒する。
「仕方ないやろ。俺が出せるパラシュートはこの小さいサイズ。お前は重たすぎるから」
ブランはあっけらかんと言う。
アリスは落ちながらも白うさぎへの恨みの言葉を叫んだ。
◇◆◇
ここは女王が棲む城。
豪奢な部屋の中、騎士がやってきて部屋の主に報告した。
「女王陛下、例の者が見つかりました」
「そうか」
椅子に座っている女王は紅を基調としたドレスを纏い優雅に扇を煽いでいる。
「ところでブランはまだ帰らないのか」
「見つかるまで帰ってくるなとおっしゃったのは陛下ではありませんか」
騎士の言葉にそういえばそうだったと女王は頷いた。
女王は以前のブランを思い出した。
大事な命令を出して異世界に派遣したのであるが、彼は手掛かりのての字が見つけるどころか物見遊山に行って来たように大量のお菓子を持って帰って来た。
任務のことは忘れてたと言って悪びれもしない。
さすがに怒りたくなるものだ。
「手ぶらで帰ってきたらぐりぐりの刑としっかりと脅しておいた」
その言葉に騎士は苦笑いした。あの白うさぎのことだから、それも忘れていることだろう。
(まったく。今度も見つからなかったら僕が行くしかないか)
そんなことを言えば兵士に止められるのがわかっている。
だから、女王は心の中に留めておいた。
女王はおもむろに立ちあがり、くるりと騎士の方へ視線を向けた。
「いくぞ」
窓から入る日差しに眉を顰めながらアリスはのそのそとベッドから起きあがった。
「もう朝?」
ふぁーとあくびをしながら背伸びをする。
寝巻をゆっくりと脱ぎ捨て普段着に着替える。
寝癖でぼさぼさの髪は化粧台の上に置いてる櫛で梳かし、鏡で確認して軽く整える。
「よし」
そう口にし、机の上に置いてる学生鞄を取り出し部屋を飛び出した。
「おはよう、お姉ちゃん」
既に朝食の準備を済ませたアリスの姉・メアリーはお茶を淹れる為にお湯を沸かしていた。
くるりとアリスの方へ振り返って朝の挨拶をする。
「おはよう」
アリスはテーブルにつき、朝食のパンを頬張る。
お茶を淹れ終わったメアリーは、アリスの前に置き自分の分を持って席についた。
「ありがとう」
アリスはお茶にミルクを注ぎ、ごくごくと飲み干した。
もう少し味わって飲んだ方がいいのだけど、朝はどうしてもばたばたしてしまう。
「それじゃ行ってきます」
お茶を飲み終えたアリスは鞄を持ち立った。
「はい、行ってらっしゃい。もう少し早く起きたらどうなの。ゆっくり出れるようになるわよ」
メアリーはパンを千切りながら妹の寝起き時間について言う。
それができたら苦労はないとアリスは笑って家を出た。
ぱたぱたと足音を立てながら道路を走っていく。
スクールバスの時間に何とか間に合いそうだと思いながら、「ぎゅむ」と何かを踏みつける感触がした。
「ぎゃふ」
踏みつけたと同時に間抜けな声がする。
「ん?」
奇声にアリスは首を傾げ、後ろを振り向いた。
そこには何か白い物体がぴくぴく動いていた。
近づいて見てみるとそれは白いうさぎのぬいぐるみであった。
「ぬいぐるみ、よね?」
アリスはその白いぬいぐるみに触れようとするがその前にぬいぐるみの方から動いた。
「痛いっ!! ちょっと姉ちゃん、何すんの!! ちゃんと前見て歩かんかい!!!」
何ともがらの悪い喋り口調である。
「見てみ、腹の綿が飛び出たやないかっ!!」
ぬいぐるみはお腹を見せるとお腹の部分が破け白い綿が飛び出ているのが見える。
「ご、ごめん」
アリスはぬいぐるみが喋ったことや腹の綿を示すという異常事態にどう対応していいかわからなかった。
とりあえず謝罪の言葉をあげとこう。
「ごめんで済めば軍隊はいらんわ!」
可愛らしいうさぎのぬいぐるみの分際で随分かわいげのないちんぴらのような口調である。
「な、姉ちゃん。裁縫道具かなんか持ってないん?」
ぬいぐるみの要求に理解できずに首を傾げる。
「針と糸や! あ、お洒落なボタンとかもあったらええな。最近ボタンを替えたい思っていたんや」
勝手に請求してくるものにアリスは混乱するが、そういえばと思い出した。
携帯用の裁縫道具は持ち歩いていたのだ。
「よっしゃ、じゃそこのベンチに座れや」
なかなか座ろうとしないアリスに苛立ちぬいぐるみは叫ぶ。
「良いから座れ!」
アリスはしぶしぶと従う。
ベンチに座ったアリスの膝の上にぬいぐるみはちょんと座る。
そして腹を示してきた。
「え?」
「え?やない。自分がしたことにけじめつけな。ひょっとしてその歳で裁縫もできないんか?」
つまり修理しろということなのか。
アリスはそう判断して、針と糸を取り出す。
「あた、あた、もっと丁寧に縫わんかい!」
いろいろと悪態をつく喋るぬいぐるみの修繕をする。
なんてシュールな体験であろうか。
そもそも何故こんな事態に、というかこんなことがありえるのか。
そう思いながらもアリスはぬいぐるみの修理を続けた。
よくみるとうさぎの腹や腕のつけねのところは前に壊れたことがあったのか他の糸と違う種類の糸で縫い直された後がある。
「ああ、これか。なんか昔酷い目に遭ったことがあってな。もう駄目だ、死ぬと思ったら誰かに治してもらったんや。ありゃ、天使さまだったんだろう」
何も言っていないのにぬいぐるみは勝手にぺらぺらと話す。
「あの、ぬいぐるみさんは」
「ぬいぐるみやない。俺の名はブランというんや」
「ブラン、さん」
「ブラン様と呼べ!これでも大臣と同じ席を賜ってる身分なんだ! 平民の娘が頭が高いぞ!」
いつからこの国はうさぎのぬいぐるみを大臣にしたのだろうか。
あまりのありえない話にアリスは頭をかかえた。
「修理は終わったわ」
縫い終わったら糸を結びぱちんと鋏で切る。
ブランは自分の腹を確認してまぁまぁだな、と悪態をついた。
「じゃ行くか」
「じゃぁね」
もう遅刻確定だと思ったがそれでも学校に行かねばならない。
アリスは鞄に裁縫セットをしまい、立ちあがった。
「何を言うとるんや。お前も行くんや」
「は?」
ぬいぐるみの意外な言葉にアリスは素っ頓狂な声をあげる。
「俺を傷つけた罪、裁判できっちり清算してもらわんとな」
「でも、ちゃんと直したじゃない」
「あほ。大臣の俺を踏み殺そうとしたんや。これは立派な殺人未遂罪。傷害罪は確実やな」
いつからこの国はぬいぐるみ対象に殺人罪が適応されるようになったのだ。
「まぁ、心優しいブラン様が弁護してやるからそう重い罪にはならん。せいぜい労働懲役ですましてやるわ」
「つ、つきあってられない」
さすがにこの会話の超展開に疲れたアリスはその場を立ち去ろうとする。
陸上部でちょっとした大会で優勝したことがあるから逃げ切れるだろう。
「待たんか!」
ブランは取り出したもののスイッチを押す。カチャという音と共にアリスは身動きとれなくなった。
ブランの懐から取り出したものは懐中時計であった。
アリスは微動だにせず瞬きもしなくなった。
それにブランは不敵に笑う。
「ふふふ、このブラン様は人の時間を止めることができるんや」
どうみても懐中時計の恩恵であるが、ブランは自分の力のように声高高に自慢する。
ぴょんぴょん跳ねるブランはアリスの肩につかまり、頭の上までよじ登る。
そこで仁王立ちになって叫ぶ。
「クリック? クラァァァァァァァッックゥッ!!!」
するとアリスの周囲の風景がモノクロ色になっていく。
時間を止められたアリスは身動きとれずそのままブランの持つ時計から発せられる光に包まれ消えていった。
光の先に新たに風景が見えたと思えばそこは蒼一色。
綺麗な雲がふわふわと浮かんでいるのがみえた。
「しまった。気合入れすぎて空の上に移動してしまった!!」
「え?」
風景が変わった途端、時間を戻されたアリスは突然見知らぬ背景にぎょっとした。
そこは蒼い蒼い、空の世界。
「きゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!」
アリスが叫ぶが先か後かはわからない。
ひゅるるるーという効果音と共にアリスの体は重力を以て降下される。
アリスの頭から離れたブランはスペルを叫んでパラシュートを取り出した。
「ちょっと何自分だけ助かろうとしてんのよ!!」
頭上で優雅にふよふよとゆっくりとパラシュートで落ちるブランにアリスは罵倒する。
「仕方ないやろ。俺が出せるパラシュートはこの小さいサイズ。お前は重たすぎるから」
ブランはあっけらかんと言う。
アリスは落ちながらも白うさぎへの恨みの言葉を叫んだ。
◇◆◇
ここは女王が棲む城。
豪奢な部屋の中、騎士がやってきて部屋の主に報告した。
「女王陛下、例の者が見つかりました」
「そうか」
椅子に座っている女王は紅を基調としたドレスを纏い優雅に扇を煽いでいる。
「ところでブランはまだ帰らないのか」
「見つかるまで帰ってくるなとおっしゃったのは陛下ではありませんか」
騎士の言葉にそういえばそうだったと女王は頷いた。
女王は以前のブランを思い出した。
大事な命令を出して異世界に派遣したのであるが、彼は手掛かりのての字が見つけるどころか物見遊山に行って来たように大量のお菓子を持って帰って来た。
任務のことは忘れてたと言って悪びれもしない。
さすがに怒りたくなるものだ。
「手ぶらで帰ってきたらぐりぐりの刑としっかりと脅しておいた」
その言葉に騎士は苦笑いした。あの白うさぎのことだから、それも忘れていることだろう。
(まったく。今度も見つからなかったら僕が行くしかないか)
そんなことを言えば兵士に止められるのがわかっている。
だから、女王は心の中に留めておいた。
女王はおもむろに立ちあがり、くるりと騎士の方へ視線を向けた。
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